ニュージーランド代表か、南アフリカ代表か。オールブラックスか、スプリングボクスか。いよいよ『ラグビーワールドカップ(RWC)2023』決勝が10月28日(土)に迫った。1987・2011・2015年大会王者NZと1995・2007・2019年大会覇者南ア。どちらが勝っても『RWC』最多優勝記録更新となる。さらに今大会を含めて5大会、じつに20年間にわたってウェブ・エリス・カップを両国が独占することになる。まさにラグビー世界一を決めるにふさわしい文句なしの頂上決戦と言えよう。

リッチー・モウンガ(ニュージーランド) (C)WORLD RUGBY/Getty Images

準決勝の戦いぶりは対照的だった。10月20日、開始5分でアルゼンチン代表がエミリアノ・ボフェリのペナルティゴール(PG)で先制点をマークするもニュージーランド代表は慌てず騒がず。自陣から3連続でペナルティを奪い陣地を回復し、ショットではなくラインアウトからトライを狙う。近場を攻めた後に右サイドでひとり余ったWTBウィルジョーダンへひとり飛ばしのカットパスを通して逆転トライ。16-6で迎えた42分にWTBマーク・テレアが華麗なステップで突破しFLシャノン・フリゼルがフィニッシュすると、後半開始2分にはスクラムからSHアーロン・スミスが抜け出し右隅に飛び込んだ。続くタイトな角度もコンバージョンゴール(G)もSOリッチー・モウンガが成功。前半終了間際と後半立ち上がりの勝負どころにスコアしたオールブラックスが27-6と一気にリードを広げると、最後までロス・プーマスのフィジカルを前面に出したアタックを完封。62・73分とジョーダンがトライランキングトップを独走するハットトリックを決めて44-6。オールブラックスが5度目の『RWC』決勝へ駒を進めた。

試合後、アルゼンチンのHOフリアン・モントーヤ主将も「セットプレースクラムで相手が完全に支配していた。相手はチャンスを得るたびにスコアした。素晴らしいチームで、今日ニュージーランドは私たちよりはるかにいいチームだった」と脱帽するほかなかった。

ハンドレ・ポラード(南アフリカ) (C)WORLD RUGBY/Getty Images

一方、南アは苦しんだ。10月21日の準決勝はペナルティを得ればショットを選択するイングランド代表とあくまでトライ狙いの南アフリカ代表の構図に。ラインアウトからチャンスを逸した南アに対して、イングランドはSOオーウェン・ファレルのPGで3点ずつ加点していく。南アは21分にPGを選択しSOマニー・リボックが決めるも、3分後にイングランドはすぐさま3点を返す。なかなかペースを掴めない南アは前半の内に動く。35分ベテランSOハンドレ・ポラードを投入、互いに1本ずつPGで加点し折り返すと、後半早々にSHコブス・レーナックに代えてファア・デクラークピッチに送り出した。さらに51分までに交代のカードを次々切った。これで流れが南アに傾きかけたと思われたが、53分にファレルがドロップゴール一閃。15-6と主導権は渡さない。その後も引き締まったジリジリした攻防が続いたが、69分ポラードの好キックで得たラインアウトからこの試合初トライが生まれた。残り10mのラインアウトからFLディオン・フーリーが突進、LOのRG・スナイマンがインゴールにボールをねじ込んだ。ポラードがGを通して13-15に迫ると、78分にはハーフウェイラインを超えた地点からの50mPGをポラードがズバリ。最後イングランドの11フェーズもアタックを跳ね返して16-15と1点差でスプリングボクスが2大会連続でファイナルに進出した。

イングランドスティーブ・ボーズウィックHCは「まず逆転し試合に勝つ方法を見つけた南アフリカを大いに称えたい。世界一のチームである彼らを大いに称えたい。彼らが世界チャンピオンであることには理由がある」と勝者を称えたのだった。

アーディー・サベア(ニュージーランド) (C)WORLD RUGBY/Getty Images

会心のゲームで4度目の優勝に王手を掛けたNZのイアンフォスターHCは準決勝から1名先発を変更。LOをサミュエル・ホワイトロックからブロディ・レタリックに入れ替えた。世界最高峰のLOから世界最高峰のLOに変えたのである。

決戦2日前の記者会見の席でフォスターHCはスプリングボクスとの決勝に思いを馳せた。
「これこそがまさに『RWC』の決勝。私たちが決勝に行くのは2回目。大事なのは長い間、宿敵である2チームが対戦するということ。私たちの前回の決勝戦(1995年)をみなさん覚えていることでしょう。前回は最高の試合でしたので、今回もそうであることを願っている。どちらかが4回目の優勝を成し遂げるわけなので、特別なのではないでしょうか。
私たちは互いをリスペクトしており、彼らの国やプレースタイルには大きな敬意の念を抱いている。最高の準備を進め、最高の試合となるでしょう」

FLサム・ケイン主将は自信を覗かせた。
「ここまで2試合のノックアウトゲームを連続でプレーして、私たちがいい状態にあると信じている。選手は心身ともにいい準備をしてきた。これは決勝であるが、私たちは自分たちを信じていいラグビーを見せるだけ」

ニュージーランド代表】
1イーサン・デグルート
2コディー・テーラー
3ティレル・ロマックス
4ブロディ・レタリック
5スコット・バレット
6シャノン・フリゼル
7サム・ケイン
8アーディー・サベア
9アーロン・スミス
10リッチー・モウンガ
11マーク・テレア
12ジョーディー・バレット
13リコ・イオアネ
14ウィルジョーダン
15ボーデン・バレット
16サミソニ・タウケイアホ
17タマイティ・ウィリアムズ
18ネポ・ラウララ
19サミュエル・ホワイトロック
20ダルトン・パパリイ
21フィンレー・クリスティ
22ダミアンマッケンジー
23アントン・レイナートブラウン

シヤ・コリシ(南アフリカ) (C)WORLD RUGBY/Getty Images

薄氷を踏む逆転勝ちで4度目の優勝にリーチを掛けた南アのジャック・ニーナバーHCは準決勝から2名先発を変更。デクラーク&ポラードハーフ団をスタメンで起用し、通常フォワード(FW)5名・バックス(BK)3名のリザーブにFW7名・BK1名を選出した。その心は?

「チームは15人ではなく23人。チームを選択する際にメディカルから過去のパフォーマンス、そしてニュージーランドについての多くの分析やどこで優位に立つことができるかなど多くのことが影響する。 FW5対BK3からコーチ間で議論しはじめ、6対2についても7対1についても議論し、そしてまた戻る。10分で終わるようなものではなく、何時間も議論して決めた」

デクラーク不測の事態が起きた場合、SHはどうするのか問われると、ニーナバーHCはこう返答した。
「(WTB)チェスリン(・コルビ)がいる。彼は7人制ラグビーでSHとしてプレーしていた。もしもイエローカードが出たら、ハーフバック(HB)になる予定の選手は常に彼だった。それは今週だけではなく、数週間にわたって」

FLシヤ・コリシ主将は決勝に向けての気持ちの高ぶりを静かに口にした。
「私たちはできる限りの準備をしてきた。選手として、これ以上重要な試合はないと思う。オールブラックスは状況を好転させ、今ここにいる。私たちもやっとここにたどり着いた。これ以上に大きな試合はない。人生最大の試合になると思う」

南アフリカ代表】
1スティーブン・キツホフ
2ボンギ・ムボナン
3フランス・マルヘルベ
4エベン・エツベス
5フランコ・モスタート
6シヤ・コリシ
7ピーターステフ・デュトイ
8ドウェイン・フェルミューレ
9ファフ・デクラーク
10ハンドレ・ポラード
11チェスリン・コルビ
12ダミアン・デアレン
13ジェシー・クリエル
14カートリー・アレン
15ダミアン・ウィレムセ
16ディオン・フーリー
17オックス・ヌチェ
18トレバー・ニャカネ
19ジーンクライン
20RG・スナイマン
21クワッガ・スミス
22ジャスパーウィー
23ウィリールルー

ダミアン・デアレンデ(南アフリカ) (C)WORLD RUGBY/Getty Images

両軍の試合登録メンバーには、日本に馴染み深いスター選手が名を連ねる。『ジャパンラグビー リーグワン』に所属する選手がズラリ。南アのSHデクラークとCTBクリエルは横浜キヤノンイーグルス、クリエルとコンビを組むCTBデアレンデは埼玉ワイルドナイツ、LOモスタートは三重ホンダヒート、FLデュトイはトヨタヴェルブリッツ、NO8スミスは静岡ブルーレヴズで主軸を担う。

『RWC2023』後には『NTTジャパンラグビー リーグワン2023-24』に続々ビッグネームがやって来る。NZのSHスミス&FBのB・バレットは揃ってトヨタV入りし、FLフリゼルとSOモウンガは東芝ブレイブルーパス東京、NO8のサベアとレタリックはコベルコ神戸スティーラーズ、南アのコルビは東京サンゴリアスに加入する。ホワイトロックにSO/FBのマッケンジー、LOエツベスやポラード、FBルルーなどなど、かつて日本でプレーした選手を挙げたら枚挙に暇がない。

通算の対戦成績を見るとNZの62勝4分39敗。すべての相手に大きく勝ち越し、8割近い驚異的なテストマッチの勝率を誇るNZにとって、最も勝率が低い相手が南アである。直近5試合の成績では南アが3勝2敗と勝ち越し。8月のゲームでは南アが5連続トライと畳み掛けて35-7の完勝。オールブラックスにとって、28点差というテストマッチ史上最大の点差を付けられる屈辱の黒星となった。『RWC』でのここ5試合の成績はと言うと、NZが3勝2敗、3連勝中となる。『RWC2019』2日目、横浜国際総合競技場で見せ付けた強度の高い激闘を強烈に記憶しているファンも多いことだろう。22分のモウンガのPGから5分間で2トライ2ゴールを一気に畳み掛けたNZが23-13で白星発進したのだった。

果たして、4度目の優勝を飾るのは今大会最多得点をマークするオールブラックスか、世界ランキング1位のスプリングボクスか。『RWC2023』決勝・ニュージーランド代表×南アフリカ代表は10月28日(土)・スタッド・ド・フランスにてキックオフ。試合の模様は日本テレビ系にて生中継。

ウェブ・エリス・カップ (c) Pierre Charlier

取材・文:碧山緒里摩(ぴあ)

ハカ「カパオパンゴ」を舞うニュージーランド代表オールブラックス