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 タイムトラベルで過去に行き、大昔の世界を観光したり、自分の祖先に会ってみたいと夢みる人もいるだろう。

 残念なことに、それは叶わない願いかもしれない。なぜなら時間を過去に巻き戻すことは、不可能なのだという。

 フィンランドの研究者たちは、光の運動に関する難問に取り組んでいた。そして導き出された答えが、光のみならず、この宇宙の基本的な性質を表しているだろうことに気がついた。

 その基本的な性質とは、「時間は常に前(未来)にしか流れない」ということだ。

【画像】 光が界面を通過するとどうなるのか?

 ガラスでも水でも何でもいい。光が界面(2つの物質が接している境界のこと)を通過するときに何が起こるのだろうか?

 光が界面に進入するとその速度は変化する。そうした光の動きは、界面の片側やその反対でのものなら波動方程式によって普通に説明できる。

 また界面の両側で起きる光の動きも、問題なくつなぐことができる。

 だが厄介なのは、界面自体で起きていることだ。そこで光の波は加速するはずだが、波動方程式はこれを説明できない。

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 そして今回新たに提唱されたのが、この難題を解くための方程式だ。

 それが前提とするのは、1次元の空間と1次元の時間を持つ宇宙で、東フィンランド大学のマティアス・コイブローバ助教は、プレスリリースで次のように述べている。

基本的に私が発見したのは、1+1次元における標準的な波動方程式を導く、すっきりとした方法です。必要となるたった1つの前提は、波の速度が一定であるということです

 最初、この方程式から導き出される答えは、まったく無意味なものだったという。

 ところが、光が真空を進む速さを参照しつつ方程式を解くと、界面の両側だけでなく、界面においても正しい解を導くことができたのだ。

 ただし、これが成り立つには、絶対に守らねばならないルールがある。それは「時間は必ず前(未来)へ流れる」ということだ。

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光の伝搬は前進する時間に依存している可能性 / image credit:atias Koivurova, University of Eastern Finland

時間が流れる方向は、宇宙の基本的な性質

 時間が流れる方向は、科学においてかなり重要な概念だ。

 よく話題になるのは、熱力学における時間の向きだろう。あらゆる孤立系では、時間の経過とともにエントロピー(物質やエネルギーの乱雑さ・無秩序さのこと)が増大する。

 このことは、時間が流れる方向が決まっているだろうことをはっきりと示唆している。

 そして今回の方程式は、たった1次元(と時間)のみを扱うものだが、そうした時間の流れが熱力学だけでなく、光にさえも当てはまり、自然の本質的な性質である可能性を示唆している。

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 また、物理学者たちが長年にわたり議論してきた、「アブラハム・ミンコフスキー論争」という難題を解決してくれる可能性もある。

 この論争のテーマは、光が媒質(波を伝える物質や物体のこと)に進入したとき、その運動量がどうなるのかについてだ。

 ロシア生まれのドイツ数学者ヘルマン・ミンコフスキーは運動量が増加すると主張。一方、同じくドイツ物理学者マックス・アブラハムは、それとは正反対に運動量が減少すると主張した。

 これに関連する実験では、どちらも正しいという奇妙な結果が出ている。

 だが今回の方程式によるなら、それでイイのだ。運動量は相対論的効果によって保存され、見方によって増減しているように感じられるものだからだ。

 タンペレ大学のマルコ・オルニゴッティ教授は、「波動に"適切な時間“を与えられることがわかりました。それは一般相対性理論における適切な時間のようなものです」と説明する。

 この研究は、光学における難問から、宇宙の基本的な真理を導き出したのかもしれない。だがもしこの仮説が正しく、本当に時間が前にしか流れないのだとすれば、過去へのタイムトラベルは諦めるしかないのだろうか?

 だがまだ諦めたくはない。SFで描いていたものは現実になるという謎のジンクスを胸に、他の研究者に頑張ってもらいたい。

 この研究は『Optica』(2023年10月19日付)に掲載された。

References:Accelerating waves shed light on major problems in physics | Tampere universities / Solution To Complex Light Problem Shows That Time Can Only Go Forward | IFLScience / written by hiroching / edited by / parumo

 
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時間は前にしか流れない。タイムトラベルで過去に行くことはできないかもしれない