詳細画像はこちら

驚くほどの高速道路での落ち着き

ジェンセン541のイグニッションスイッチを回し、エンジン始動。3993ccの直列6気筒が、低い唸りとともに目覚める。ジェンセン流の、オールド・イングランド・サウンドだ。歩道の通行人が、興味深げに視線を投げてくる。

【画像】FRPボディのグランドツアラー ジェンセン541 後継のC-V8 最終のS-V8 ほか 全106枚

初期型ではトランスミッション・トンネルの右側から伸びる、シフトレバーを操作し1速へ。4000rpmを過ぎた辺りで、最もパワー感が高まる。加速力は、1950年代の水準以上といっていいだろう。

詳細画像はこちら
手前から、レッドのジェンセン541 Sと、ダークブルーの541

トルクが太く、2速発進もいとわない。3速と4速にオーバードライブを組み合わせれば、現代の殆どの環境をカバーできる。ギアの回転を調整するシンクロメッシュが備わり、急いだ変速も許容してくれる。

唯一惜しいのが、高さが違うペダル配置。ヒール&トウでのシフトダウンは、541には適用できない。

パワーアシストが備わらず、低速域ではステアリングが重い。古いカムローラー式のステアリングラックは反応が少し曖昧ながら、フロントタイヤのグリップ力は高く、意欲的に回頭していく。

リアのトレッドが狭く、タイトコーナーでは漸進的にドリフトへ転じる。挙動は緩やかで、制御しやすい。動的能力は明らかに高い。

乗り心地はしなやか。セパレートシャシー構造にも関わらず、高速道路での落ち着きは驚くほど。ギア比が長く、110km/h巡航時のエンジンの回転数は約2500rpmと低い。

文化的に車内は静かで、助手席と会話も楽しめる。541は、当時のグランドツアラーとして卓越した能力を備えていた。

安全性にも配慮されたデラックスがベスト

これらの印象は、コリン・ウィルソン氏が8年間所有する、ディープグリーンの541にも共通している。全面的なレストアとアップグレードで、完璧なデラックス仕様へ仕上がっている。

1957年から1960年に提供された541 デラックスでは、ダンロップ社製のディスクブレーキが前後に組まれる。英国の量産4シーターモデルとして、初の装備だった。高圧縮のシリンダーヘッドが標準になり、最高出力は123psへ向上してもいる。

詳細画像はこちら
ジェンセン541 デラックス(1957~1960年/英国仕様)

ステアリングラックが新しくなったほか、ステアリングコラムにはユニバーサルジョイントが内蔵され、事故の衝撃を吸収する構造が備わった。安全性にも配慮されていた。

ウィルソンの541 デラックスには、幅が185あるラジアルタイヤが履かされており、ステアリングラックの違いは体感しにくい。だが、4種の541でベストなことは間違いなさそうだ。

速度が低くても反応はダイレクトで、ステアリングホイールを軽く回せる。細かな感触が手のひらへ伝わってくる。走り自体も軽快だ。

初期の541のドラムブレーキでは、充分な制動力を得るために相応の踏力が必要だったが、ディスクブレーキは安心感が高い。ペダルへ伝わる確かな感触も、その印象を高めている。

152psへ増強された541 R 最高速度は205km/h

デラックスと同じ1957年に登場したのが、541 R。外観上の違いは、リデザインされたテール周りと長方形のテールライト、クロームメッキの長いサイドトリムなど。

トランクリッドのヒンジは上部へ変更。ホイールアーチ上部のリブは大型化され、前後のバンパーにはオーバーライダーが追加されている。シフトレバーは、大きな峰の中央へ移動した。

詳細画像はこちら
ジェンセン541 R(1957~1960年/英国仕様)

ステアリングラックは、現代的なラック&ピニオン式へ。しかしダンパーは、一般的なシリンダー状のテレスコピック式から、旧来的なレバーアーム式へ逆行的な変更も加えられている。

エンジンはオースチンのDS7ユニットへアップグレードされ、最高出力は152psへ増強。当時のAUTOCARの計測では、最高速度205km/hをマークし、541 デラックスから20km/h向上していた。ところが信頼性に課題があり、生産数は53台に留まった。

今回のダークブルーのオーナーはビッド・ヒルマン氏。彼はセミ・レーシング仕様へチューニングし、180ps以上まで引き上げたという。

始動時から、エンジンサウンドは勇ましい。吸気音を伴う重層的な響きが心地良く、軽快に吹け上がる。主張される数字ほど、パワー感はないようだが。

それでも、ドライビング体験には惹き込まれる。セパレートシャシー構造を、増強されたパワーユニットが刺激する。レバーアーム式ダンパーの姿勢制御と相まって、少し過激にすら思える。

ステアリングの精度は高く、情報量が多い。レザー巻きのステアリングホイールは握りやすい。ブレーキも強力で頼もしい。

革新的で魅力的なグランドツアラー

最終仕様となる541 Sが1960年に発売される時点で、ジェンセンはクライスラーV型8気筒エンジンを検討していた。そのサイズを前提に、ボディの幅は約100mm拡大されている。しかし、実現はしなかった。

この541 Sは、フロントグリルやボンネットが一新され、簡単に見分けが付く。デレク・シモンズ氏がオーナーの1台はボディがレッドで、一層目立つ。

詳細画像はこちら
ジェンセン541 S(1960~1963年/英国仕様)

フロントグリル内のフラップはなくなった。リア周りのデザインにも手が加えられ、ピラー部分のウインカーは省略されている。

車内は明るく快適。ダッシュボードは新しくなり、メーターの位置が見やすく改められ、人間工学的にも改善している。

トランスミッションは、ハイドラマティックと呼ばれるGM社の4速オートマティックが標準。シフトレバーがステアリングコラムから伸び、モス社製の4速MTはオプションへ切り替えられた。このATのおかげで、動力性能は明らかに低下している。

シモンズの541 Sには、1970年代ジャガーのパワーステアリングが後付けされている。低速域での扱いやすさは向上しているが、コーナリング時の繊細な手応えは若干失われている。実際は、541 Rと同等に明瞭なはず。

今回は4種の541を並べてみたが、その違いを超えて、当時はアストン マーティンジャガーへ対峙できる内容にあったことは間違いないだろう。既存の技術を巧みに融合させ、革新的で魅力的なグランドツアラーが創出されていた。

この成功で、ジェンセンは次世代を提供する可能性も見出すことができたのだ。

協力:デビッド・ターネージ氏、ジェンセン・オーナーズクラブ

ジェンセン541シリーズ 4種のスペック

ジェンセン541(1955〜1960年/英国仕様)

英国価格:1285ポンド(新車時)/5万5000ポンド(約995万円)以下(現在)
生産数:173
全長:4470mm
全幅:1600mm
全高:1372mm
最高速度:186km/h
0-97km/h加速:10.8秒
燃費:6.4km/L
CO2排出量:−g/km
車両重量:1480kg
パワートレイン:直列6気筒3993cc 自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:118ps/3700rpm
最大トルク:26.2kg-m
トランスミッション:4速マニュアル(後輪駆動

ジェンセン541 デラックス(1957~1960年/英国仕様)

英国価格:1714ポンド(新車時)
生産数:53台
最高出力:123ps/3700rpm
※ジェンセン541と異なる部分のみ

ジェンセン541 R(1957~1960年/英国仕様)

詳細画像はこちら
手前から、レッドのジェンセン541 Sと、ダークブルーの541 R、ダークグリーンの541 デラックス、ダークブルーの541

英国価格:2866ポンド(新車時)
生産数:193台
最高出力:152ps/4100rpm
最大トルク:30.9kg-m/2500rpm
最高速度:204km/h
0-97km/h加速:10.6秒
※ジェンセン541と異なる部分のみ

ジェンセン541 S(1960~1963年/英国仕様)

英国価格:3195ポンド(新車時)
生産数:127
※ジェンセン541と異なる部分のみ


■比較テストの記事
大胆な容姿に卓越した能力 ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(2)
既存技術の寄せ集めだけじゃない ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(1)
パワフルさに不釣り合いなボディ アウディ200 アバント・クワトロ・ターボ ボルボ850 T-5R エステート (2)
直5ターボの快速ワゴン アウディ200 アバント・クワトロ・ターボ ボルボ850 T-5R エステート (1)

大胆な容姿に卓越した能力 ジェンセン541 FRPボディのグランドツアラー(2)