カプコンの看板タイトルのひとつであり、35年以上の歴史を誇るアクションゲーム『ロックマン』。

参考:【画像】シリーズ史に大きな影響を与えた『ロックマンワールド4』などのスクリーンショット

 『ロックマンX(エックス)』、『ロックマンDASHダッシュ)』、『ロックマンエグゼ』など、さまざまな派生作品を持つシリーズの中で、とりわけ大きな功績を残した名作と言えば、1988年ファミリーコンピュータファミコン)向けに発売された『ロックマン2 Dr.ワイリーの謎』(以下、ロックマン2)だろう。

 自由に選択可能なステージ、各ステージのボスを倒すと得られる「特殊武器」、それらを特定のボスに対して使うと大ダメージを与えられる相性の概念。そのようなゲームデザインの基礎は、1987年発売の第1作『ロックマン』にて完成済みだったが、それを決定的な形へと昇華させたのは次作『ロックマン2』。具体的には8体のボスキャラクターたち、それらのデザインと名称をユーザーから募集する参加型企画、攻略を手助けするサポートアイテムなどが定義・導入され、以降の「ロックマン」を形作る”お約束”が確立されたのである。

 現に『ロックマン2』以降に誕生した横スクロールアクションの「ロックマン」シリーズは基本的にその“お約束”を踏襲している。そのことからも、『ロックマン2』の功績は非常に大きく、シリーズの歴史全体にとって重要な名作といってもよいだろう。

 しかし、シリーズにおける重要な名作は『ロックマン2』だけではない。1993年10月29日、ちょうど30年前に発売された『ロックマンワールド4』も、そのひとつとして挙げられる作品だ。

 いわゆる外伝のシリーズ作品であることから、ややマイナーな印象もある『ロックマンワールド4』。発売されたのが当時の本編最新作『ロックマン6 史上最大の戦い!!』(以下、ロックマン6)の1週間前(!)だったのも、その印象に少なからず影響しているかもしれない。あまりに際どすぎる時期に発売されたことから、当時、『ロックマン6』優先で『ロックマンワールド4』は見送ったというシリーズファンも少なくないのではないだろうか。

 だが、そんな不遇なタイミングで発売された経緯こそあれど、『ロックマンワールド4』はシリーズの歴史を語るなら、決して外すことはできない重要な名作なのである。

 発売30周年を迎えた今だからこそ、そんな本作の魅力を伝えたく思う。

■本編「ロックマン」シリーズの外伝で、リミックス作品の『ロックマンワールド

 本題の前に外伝作品「ロックマンワールド」シリーズについて紹介する。

 『ロックマンワールド』とは、1989年発売の携帯ゲーム機ゲームボーイ』向けに発売された『ロックマン』の新作だ。シリーズは1991年7月から1994年7月にわたって展開され、全部で5作品が発売されている。

 内容は本編「ロックマン」と同じく、横スクロールのステージクリア型アクションゲームで、ステージセレクトに特殊武器、相性といったシステムもそのまま踏襲している。

 「ロックマンワールド」シリーズの大きな特徴は、登場するボスキャラクターたち。基本的に本編「ロックマン」シリーズ2作品からボスを4体ずつ選出し、計8体にする形式を採用している。

 たとえば第1作『ロックマンワールド』なら、『ロックマン』と『ロックマン2』からそれぞれ4体のボスを選出している感じだ。ゲーム本編もこれらのボスたちが待つステージを攻略していくという、『ロックマン』と『ロックマン2』の世界が入り混じった構成となっている。また、作品別に選ばれた4体という意味づけから、本編は前半と後半の2部構成(※前半は『ロックマン』のボス4体、後半は『ロックマン2』のボス4体)になっているのも大きな特徴のひとつである。厳密には『ロックマン2』のボスたちはステージ周りに関して、後半というには際どい実態があったりするのだが、それについては割愛する。この形式は続く『ロックマンワールド2』以降の続編にも継承され、前半と後半の定義を明確にする試みがされるなりして、シリーズの定番となった。

 つまるところ『ロックマンワールド』とは、本編「ロックマン」シリーズのリミックス作品。ボスキャラクターたちを始めとする要素をファミコンの「ロックマン」シリーズからほぼそのまま持って来つつ、独自のアレンジを施した新作なのである。

 そのため、単なるファミコン版の移植作品とは言い切れない内容となっている。前述の特徴もさることながら、各ボスたちが待ち受けるステージも本作独自の構造に一新されていて、ファミコン版のときの経験があまり通用しないのだ。一部のステージに至っては、ファミコン版に登場しない新たな敵キャラクター、仕掛けも登場するだけあってなおさらである。

 ストーリーも宿敵「Dr.ワイリー」の世界征服の野望を阻止せよという、おなじみのものだが、その細かな内容は本編とは異なる。特に「ロックマンキラー」なる、対ロックマン用にワイリーが開発した戦闘ロボットの登場および戦闘イベントの存在がその象徴である。しかも、この「ロックマンキラー」を倒せば、彼らの持つ『ロックマンワールド』オリジナルの特殊武器も獲得できるのだ。

 そしてワイリー本人も、「ロックマンワールド」シリーズ独自の”新兵器”でロックマンに直接対決を挑んでくる。もちろん、彼の居城であるステージも「ロックマンワールド」シリーズオリジナルである(※ついでに補足すると、居城自体のデザインもオリジナル)。

 このような際立った特徴と見どころもあって、「ロックマンワールド」シリーズは移植作品とは言い難く、リミックス作品と呼ぶのが適切な内容になっている。

 そんな『ロックマンワールド』のシリーズ4作目として発売されたのが『ロックマンワールド4』だ。内容は前作『ロックマンワールド3』を踏襲していて、今回は『ロックマン4 新たなる野望!!』、『ロックマン5 ブルースの罠!?』(以下、ロックマン5)の2作品から選出されたボス4体(計8体)が登場。オリジナルボス「ロックマンキラー」も、「バラード」なる新キャラクターがロックマンを付け狙う強敵として立ちはだかる。

 前作の『ロックマンワールド3』は、前半4ステージ(4ボス)終了後に「中間ステージ」を挿入するといった構成面の肉付けがなされた。また、前々作『ロックマンワールド2』でステージと統合されていた後半4ステージも、専用のセレクト画面を設けるという本編「ロックマン」シリーズに準拠した変更も行われている。

 『ロックマンワールド4』は、これら前作で確立されたものを踏襲。そこに当時の本編「ロックマン」シリーズにはなかった、新しいシステムを実装している。

 それこそが、後の「ロックマン」シリーズに大きな影響と変革をもたらしたものである。当時の本編「ロックマン」シリーズになく、本作初登場となったシステム。それは通貨に該当するアイテムを支払い、サポートアイテムを購入するシステムだ。

■後の定番となったサポートアイテム購入システムの始まりは『ロックマンワールド4』だった

 『ロックマンワールド4』内では「ライト研究所(RIGHT LAB.)」と称されているこのシステムは、「Pチップ」と呼ばれる通貨に該当するアイテムを支払うことで、ステージ攻略に便利なサポートアイテムを購入・補充できるというものである。

 「ロックマン」シリーズでは『ロックマン2』以降、使用することでロックマンの体力を全回復させる「E(エネルギー)缶」なるサポートアイテムが定番になった。ただし、それらは各ステージを攻略している最中に手に入れる、いわば”現地調達”が基本。しかも、その多くは若干の操作テクニックを必要とする場所に配置されがちで、簡単には入手できないようになっていた。一部のステージでは簡単に手に入ったり、また某シリーズ作ではいわゆる”リセマラ”の作戦が使えたりもしたが……それはさておくとして。

 『ロックマンワールド4』の購入システムは、そうしたサポートアイテムを簡単に手に入れるための選択肢、救済措置として導入された。

 前述の通り購入には「Pチップ」なる通貨アイテムが必要で、ある程度、稼いで貯めることが必要とされる。それゆえに恩恵にあずかるには多少の時間を要するのだが、手軽にサポートアイテムを入手できる機会が設けられたのは、「ロックマン」シリーズにとっては大きな変革だったと言えるだろう。これにより、攻略の幅が広がるのみならず、難易度の面でもお金の力に任せて押し通す選択肢が設けられたことによる柔軟性が生じたからだ。

 また、サポートアイテム自体の種類も増えた。体力ではなく、特殊武器使用時に消費する「武器エネルギー」だけを全回復する「W(ウェポン)缶」、体力と武器エネルギーの双方を全回復させる「S缶」が新たに追加され、個々の状況に応じた回復が図れるようになったのだ。さらに4つ集めると「E缶」に変化する「ミニE缶」も追加されている。

 さらに、サポートアイテムのなかには購入することで便利機能が備わるものも。それが「エネルギーバランサー」だ。これを手に入れ、武器エネルギー回復アイテムを取ることにより、現在装備していない特殊武器のなかで、一番消費している武器から順に回復してくれるのである。過去の『ロックマン』では回復するたび、個々の武器に装備しなおす手間が必要とされた。だが、本作はこのアイテムを手に入れてしまえばその必要もなくなる。同時にゲーム全体の進行も快適になるのだ。

 極めつけとして、本作はゲームオーバーを繰り返すと、ロックマンの攻撃アクションのひとつで溜め技の「スーパーロックバスター」が強化されるイベントも発生する。なんと、苦戦しているプレイヤーに配慮した特別な救済措置まで設けているのである。

 このようなサポート要素の強化により、ゲームとしての遊びやすさが格段に向上するだけでなく、『ロックマン』というアクションゲームの構造面にも柔軟性がプラスされた。

 この結果、何が起きたかと言えば、外伝作品ながら本編「ロックマン」シリーズを超えたものになってしまったのである。

 特にサポートアイテム購入システムの導入がもたらした影響は非常に大きく、全体的な難易度の傾向まで変化。システムの活用次第では、よりいっそう攻略しやすくなるという”優しさ”が備わったのだ。ある意味、RPGの発想を採り入れたとも言える。

 同じようにRPGの発想を採り入れた『ロックマン』のひとつが、本作の約1か月半後、スーパーファミコン向けに発売された派生の新作『ロックマンX』だ。体力の最大値を上昇させるアイテム(ライフアップ)の導入、防御力などのステータスを向上させる「パワーアップパーツ」がそれに該当する。

 『ロックマンワールド4』に導入されたのはそうしたものではなく、“お店(道具屋)”の要素だったが、それだけでもゲーム全体(主に難易度)に大きな変化をもたらしたのには、どことなく「ロックマン」シリーズとRPGの相性の良さを匂わせていて面白い。その後、事実上のRPGとして誕生した『ロックマンDASH』、『ロックマンエグゼ』、『流星のロックマン』の存在を思えばなおのことだ。

 そして、『ロックマンワールド4』でのこの試みは、結果的に本編シリーズへの逆輸入が行われ、以降、新たな定番として定着した。現に『ロックマン7 宿命の対決!』以降のシリーズには、サポートアイテム購入システムが決まって採用されている。最も新しい『ロックマン11 運命の歯車!!』においても、件のシステムは健在である。さらに補足すれば、「ロックマンX」シリーズでも一部の作品で採用されている。

 そのことからも、『ロックマンワールド4』がいかに重要な名作のひとつであるのかは言うまでもないだろう。

 発売当時は本編新作である『ロックマン6』に話題性と注目を持っていかれたが、実は後の「ロックマン」シリーズに大きな変化をもたらす”きっかけ”となる作品だった。そのことを思うと、あらためて発売時期の悪さが悔やまれる限りだ。前作『ロックマンワールド3』も実は『ロックマン5』の1週間後の発売だったことから、それを踏襲したのかもしれないが、本作に関しては裏目に出てしまった感が否めない。

■派生作にも影響を及ぼした『ロックマンワールド4』は今後も語り継がれていく価値のある名作だ

 「ロックマン」シリーズの新たな定番を確立しただけではない。ゲームボーイ後期の作品としての技術面の成熟ぶりが現れた迫力満点のイベントデモ、オリジナルの巨大ボスたちと新たな戦闘曲、そして過去3作にも増して圧倒的な存在感を誇る「ロックマンキラー」の「バラード」など、『ロックマンワールド4』には他にもたくさんの見どころと魅力がある。

 特にイベントデモは圧巻の完成度で、制約があるなかでロックマンを始めとするキャラクターを可能な限り動かし、迫力ある映像を作り上げている。あるボスに至っては、なんと専用の登場シーンまで用意されているほどだ。本作が本編「ロックマン」シリーズに肉薄、あるいは超えるものを作ろうとした開発スタッフの本気を実感させられる。

 なお、本作の後にも続編として『ロックマンワールド5』が発売された。

 こちらは「スペースルーラーズ」なる、オリジナルの8体ボスたちと戦う完全な新作になったが、完成度にはますます磨きがかかり、『ロックマンワールド4』に引けを取らない傑作に仕上げられている。ただ、「ロックマンワールド」シリーズはこれを持って展開を終え、以降は本編「ロックマン」シリーズに集約されていくことになった。しかし、それからも「ロックマンワールド」シリーズが大きな影響を及ぼし続けたというのは前述の通りだ。

 ちなみに派生作『ロックマンX』も、ゲームボーイゲームボーイカラー)向けに「ロックマンワールド」シリーズのような外伝作品で、『ロックマンX サイバーミッション』と『ロックマンX2 ソウルイレイザー』を発売している。

 この2作も登場するボスたちは本編『ロックマンX』シリーズ2~3作から選出されているなど、「ロックマンワールド」シリーズとの共通点がある。

 他にキャラクター周りでも『ロックマンワールド3』に登場した「ロックマンキラー」の「パンク」は『バトルネットワーク ロックマンエグゼ3 BLACK』にて、名人のネットナビとして出演。『ロックマンワールド2』のオリジナルボスで、「ロックマンキラー」の肩書きは持たない「クイント」も、詳細は伏せるが、ある意外な作品に影を残している。

 また、2010年発売の『ロックマン10 宇宙からの脅威!!』では、「ロックマンキラー」の3体(エンカー、パンク、バラード)がカラー化して登場するスペシャルステージが有料ダウンロードコンテンツとして発売された。『ロックマン クラシックスコレクション2』収録版では、このダウンロードコンテンツがデフォルトで実装されているため、購入の必要もなく3体の待つステージが遊べる。さらに「EXTRA CHALLENGE」には、(少し条件を必要とするが)3体とすぐに戦える特別なチャレンジも用意されている。

 そして、「ロックマンワールド」シリーズ5作もニンテンドー3DSバーチャルコンソールで配信された。だが、2023年3月28日の「ニンテンドーeショップ」のサービス終了をもって配信終了。以降の新規購入はできなくなっている。

 本編「ロックマン」シリーズは『ロックマン クラシックス コレクション』2作により、現行のプラットフォームで遊べるようになっている。だが、「ロックマンワールド」シリーズは外伝作品ということもあってか、2023年10月現在も復刻は実現していない。

 このまま「ロックマンワールド」シリーズは復刻されず、過去のゲームとなってしまうのだろうか。特に『ロックマンワールド4』の歴史的な重要性を思うと、さすがにそれは看過できない事態だ。

 ただ、幸いにして昨今はゲームボーイタイトルの復刻が増加傾向にある。「ロックマンワールド」シリーズと同じく、ゲームボーイで誕生した『Sa・Ga(サガ)』シリーズは、すでにそれらをまとめたコレクションタイトルが現行プラットフォーム向けに販売済みだ。

 Nintendo Switchでも、2023年2月からNintendo Switch Online加入者限定コンテンツ『ゲームボーイ Nintendo Switch Online』の配信が開始。すでに『星のカービィ』、『ゼルダの伝説 夢をみる島DX』などのタイトルのほか、カプコンからも『レッドアリーマー MAKAIMURA GAIDEN』がラインナップ入りしている。

 このことから、「ロックマンワールド」シリーズも復刻の見込みはあると思われる。それがどんな形になるのかはカプコン次第といったところだが、筆者としては『ロックマン クラシックスコレクション3』としての復刻を強く望みたい。

 本編『ロックマン』はナンバリングのシリーズはすべて復刻したが、「ロックマンワールド」シリーズを始めとする外伝といった作品の復刻はまったく進んでおらず、それが結構な数に及ぶのだ。その看板的存在として「ロックマンワールド」シリーズ、そして発売から25年が経過しながらも復刻が進まないスーパーファミコンの『ロックマン&フォルテ』を掲げ、出してみるのも一興ではと思うのだが、いかがだろう……?

 とにもかくにも、いつの日かそんな吉報が聞ける時をファンのひとりとして心待ちしたいところだ。繰り返しになるが、締めにこの一言を綴ろう。

 「ロックマン」シリーズを語るとなれば、『ロックマンワールド4』は決して外すことができない重要な名作なのだ!

(文=シェループ)

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