実家暮らしの姉と、結婚して遠方に住んでいる妹。実家の相続をめぐってトラブルに……。相続では、不動産をめぐる兄弟姉妹間のトラブルが多いと、ベリーベスト法律事務所の代表・萩原達也弁護士はいいます。事例をもとに、兄弟姉妹で不動産を相続した際の注意点と解決策をみていきましょう。

兄弟姉妹の“ドロ沼・争族劇”…結婚したら相続権はなくなる?

兄弟姉妹間の相続トラブルとして多いのが「不動産」をめぐる相続です。特に、立地が良く資産価値の高い不動産の場合、売却する・しないのトラブルに発展しやすくなります。

たとえば、実家暮らしの姉が家の売却を拒み、その際「結婚した妹には相続権がない」と主張するケースなども散見されます。

そこでまずは、結婚して姓が変わった場合に相続権がどうなるのか確認していきましょう。

基本的な相続人の範囲と相続割合

亡くなった方(被相続人)の遺産を相続することができる人を「法定相続人」といいます。法定相続人の範囲は、以下のように定められています。

・配偶者……常に相続人になる

・子ども……第1順位の相続人

・両親……第2順位の相続人

・兄弟姉妹……第3順位の相続人

たとえば、母親が亡くなり、配偶者である父親と、長女次女がいるという場合には、父親(被相続人の配偶者)と長女、次女が相続人になります。

このケースでの法定相続割合は、父親が2分の1、長女と次女はそれぞれ4分の1(=2分の1×2分の1)になります。父親がすでに逝去している場合は、第1順位の相続人である長女と次女の法定相続割合が、2分の1ずつになります。

結婚したら相続権がなくなる?…相続に関するよくある誤解

「嫁に行って実家を出ていった娘に相続権はない」といわれることがありますが、これは間違った理解です。

娘が結婚したとしても、被相続人の「子ども」であることには変わりありませんので、第1順位の相続人として遺産を相続する権利があります。もちろん、相続割合にも変化は生じません。

また、「婿養子にも相続権が認められる」といわれることがありますが、これは“半分正解で、半分不正解”です。一般的に婿養子とは、結婚によって男性が女性側の姓を名乗ることを指すケースが多いですが、その事実だけでは妻の親の遺産を婿養子の夫に相続する権利はありません。

この場合、夫が妻の親の遺産を相続するためには、【夫】と【妻の親】とのあいだで「養子縁組」の手続きをする必要があります。養子縁組をすれば、夫と妻の親とは法的な親子関係が認められますので、相続権が発生することになります。

不動産の「4つ」の分割方法

次に、相続する財産についてみていきましょう。主な相続財産が自宅や土地といった不動産であり、かつ、その不動産で相続人の1人が生活しているというようなケースでは、どのように不動産を分けるのかでトラブルに発展するケースが少なくありません。

相続財産に不動産が含まれている場合には、4つの方法のいずれかで不動産の遺産分割を行います。

1.現物分割

「現物分割」とは、不動産をそのままの形で相続人に分配する方法です。たとえば、相続財産が建物と土地のみであった場合に、「長女に建物を、次女に土地を相続させる」といった方法が現物分割になります。

相続財産をそのまま分配すればよいため非常に簡単ですが、公平に分割するのが難しいというデメリットがあります。

2.換価分割

「換価分割」とは、不動産を売却して、売却代金を相続人に分配する方法です。不動産を売却することで分割しやすい金銭に換えることができますので、公平な遺産分割を実現できるというメリットがあります。

しかし、売却する不動産で生活している相続人がいると売却の合意ができなかったり、売却が難航したりする可能性があります。

3.代償分割

「代償分割」とは、特定の相続人が不動産を相続する代わりに、他の相続人に対して金銭を支払う方法です。

代償分割は、“相続人のうち1人は不動産を相続したい、そのほかの相続人はお金がもらえればいい”と考えている場合には向いている分割方法といえますが、不動産を相続する人が代償金を支払わなければなりませんので、十分な資力が必要になります。

4.共有分割

「共有分割」とは、不動産を相続人の共有状態で相続する方法です。これは遺産分割がまとまらないときに選択される方法ですが、権利関係が複雑化し、利活用も困難になることから、できる限り避けたほうがよいでしょう。

「実家暮らし=必ず不動産を相続できる」わけではない

誰がどのような遺産を相続するのかは、相続人全員による話し合いである「遺産分割協議」で決めていくことになります。前述したように、相続割合は法律で決まっていますが、相続人全員が合意すれば、その割合を変えることも可能です。

ただし、遺産分割協議を成立させるためには、全相続人が合意する必要があります。そのため、「実家で暮らしている」という理由だけで、必ず不動産を相続できるわけではありません。

なお、実家で暮らしていた相続人が不動産を相続した場合には、「小規模宅地の特例」という相続税の優遇措置を受けられる可能性があります。しかし、これはあくまでも税制上の優遇であり、遺産分割協議における優遇ではありませんので注意が必要です。

親の介護をしていたなどの事情がある場合は、「寄与分」が認められる可能性

「寄与分」とは、相続人の財産の維持・増加に貢献した相続人がいる場合に、その相続人が他の相続人よりも多くの遺産をもらうことができる制度です。

たとえば、献身的に親の介護をしていた相続人がいる場合には、寄与分が認められる可能性があります。ただし、寄与分が認められたとしても実家の不動産を優先的にもらうことができるというわけではありません。

不動産の価値がわかった途端、トラブルになるケースも

当初は円満に話し合いが進んでいたケースでも、予想外に不動産の価値が高額であることがわかった途端、相続争いに発展することがあります。

不動産は立地や条件しだいで価値が大化けする

不動産は、「負動産」という言葉があるように、資産価値のないマイナスの財産になる可能性があります。その一方で、立地や条件がよければ、不動産(特に土地)は大きな資産になることもあります。そのため、不動産が相続財産に含まれている場合には、適切に不動産の評価を行うことが大切です。

不動産は、現金や預貯金とは異なり、簡単に分割することができない財産です。話し合いがこじれてしまうと、不動産の相続が未了のまま長期間放置されることになり、空き家問題や管理費・維持費の負担などさまざまな問題が発生してしまいます。

そのため、このような問題が発生する前に、しっかりと解決するようにしましょう。

話し合いがこじれた場合は「弁護士」を選択肢に

遺産相続に関する問題は、「相続人同士の話し合いで解決したい」と思っている人も多いでしょう。しかし、遺産に不動産が含まれている場合、話し合いがうまくいかず、相続人だけでは解決できないケースも少なくありません。

また、話し合いで解決できない問題については、裁判所が絡んで遺産分割調停や審判に進むことになるため、手間も労力もかかってしまいます。

このような場合、実は第三者が介入することでスムーズに話し合いが進むことが多々あります。家族間の問題を第三者へ相談することに抵抗を覚える人もいるかもしれませんが、相続トラブルを抱えてしまった場合は、弁護士などの専門家に相談することも検討してみてはいかがでしょうか。

※この記事は、公開日時点の法律をもとに執筆しています。

萩原 達也

ベリーベスト法律事務所

代表弁護士

(※写真はイメージです/PIXTA)