『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス26巻を熱く語る
キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス26巻を熱く語る

主人公不在の大将戦、ロビンマスクマリポーサから始まり、ビッグボディの大奮闘、さらには伝説の集団"超人血盟軍"の結成秘話まで......まさに見どころ超満載の一冊です!

●『キン肉マン』26巻

レビュー投稿者名 おぎぬまX
★★★★★ 星5つ中の5

●円熟味を増す至高の超人バトルミステリー

ロビンマスクマリポーサの激闘も早々にやはり気になるのはマリポーサの新技"マッスル・リベンジャー"。そしてそれこそが王族の証、キン肉族三大奥義のひとつであることを示すという、前巻ラストで突如語られた"フィニッシュ・ホールドの壁画"なる謎のレリーフの存在です。

はやおなじみの感もある、バトルの中にいきなり割って入ってくるゆでたまご流ミステリー。その極め具合はここらで唯一無二の域に達してきたのではないでしょうか。

いや、もちろん他のバトル漫画でも、用意した謎を読者に考察させていく手法は散見されます。例えば「この中に裏切者がいる。誰だ?」というミステリー。謎めいた手がかりだけがまずあって、それが何なのか徐々に明かされ最後に答えにたどり着く......「裏切者はコイツだった!」という流れです。

でも"フィニッシュ・ホールドの壁画"の謎かけ技法は、それらとは明らかに一線を画しています。その最大のポイントは、先に答えを出しているという点。どんな技かはもう壁画に明示されている。つまり手がかりどころか、まず解答ありきで始まっているのです。でもその答えを見ても、誰もそこにはたどり着けない。

いわば数学の世界でいうところのリーマン予想、ホッジ予想みたいなもので、ゴールとなる結論だけ先に提示して「この答えにどうやれば正しくたどりつけるのか、さあ、みなさんで考えてください」というまさに究極の謎かけです。正しくたどりついたと信じて堂々宣言したら、実は間違いだったというケースも大いにありえます。先に言ってしまうと、ここでマリポーサの提示した"マッスル・リベンジャー"がまさにそれでした。フィニッシュへと至る過程に不備があって破られた、すなわちニセモノの技だった!

しかし、その事実がわかるのもまたこの闘いの最後。マリポーサはこの大技を筆頭に持ち前の身軽さを駆使して、我らがロビンをどんどん死地に追い込んでいきます。一方のロビンは......これまた驚きです。途中から抵抗する気力を失い、むしろ甘んじてその攻撃を受け続けます。

理由は、マリポーサのあまりに悲惨な生い立ちを聞いてしまったから。ロビンが試合中に涙まで流して同情を示すシーンは僕にとっても衝撃でした。良家の息子として不自由なく育った彼には負い目を感じる部分もあったでしょう。貧富の差という社会問題までバトルに盛り込み、自分たちを虐げてきたブルジョワ層への積年の鬱憤(うっぷん)を晴らすがごとく、マリポーサは責め苦を与え続けます。

しかし、そこでテリーマンの叱咤が飛びます。自分たちの仲間のキン肉マンだって、ブタと間違われて地球に捨てられ悲惨な生活を送ってきた。しかし彼は世の中を恨みなどしていない。その言葉にロビンは奮起、反撃へと転じます。きっかけとなったのが、炎を操るマリポーサの秘密道具"アノアロの杖"。まさにこれは、盗っ人時代のマリポーサが偶然入ったロビン家から拝借した家宝でした。それが盗っ人の手を離れ、本来の持ち主のところへ帰ったことが、試合の潮目を変えたのです。

なんという皮肉でしょう。結果、幼き頃から積み重ねてきた罪の報いを、人生の最も肝心な場面でマリポーサは受けることとなりました。これぞまさに因果応報。悪いことをしてきた者は決して真の栄誉にはたどり着かない、いつかどこかで手痛いしっぺ返しをくらうんだ。リング上のバトルという体をとってはいますがこの一戦、人々に道徳を説く民話の趣(おもむき)すらただよう、重厚な人間ドラマでもありました。そして、こんな話が主人公のキン肉マンではなく、ロビンマスクの試合で魅せられるというのも本作の凄まじさ。僕の想いとしてはこの試合、全話通しても五本の指に入るくらい大好きな一戦です!

●泥船に見えた血盟丸は超絶大当たりの宝船!?

さて、そんな大勝負が終わってもなお、後に伝説となった場面がこの巻にはまだふたつも残ってます。そのひとつがフェニックス対ビッグボディの大一番、こちらも一回戦の大将戦です。でも熊本城の大熱戦とは対照的に、こちらはひたすら一方的。ビッグボディ気の毒になるほどの勢いで、フェニックスに瞬殺されてしまいます。

大将とは思えぬビッグボディのこの発言には驚いた
大将とは思えぬビッグボディのこの発言には驚いた

後世、ファンの間ではネタ的に語られることも多い一戦となってしまったわけですが、今となってはこの試合をそんな評価だけで終わらせるわけにはいけません。なぜならこの約30年後、ビッグボディはここでやられたフェニックスを上回るほどの大人気を獲得するのですから......。そんな下剋上的な立場大逆転が結構あるのもまた『キン肉マン』ならではの痛快さ。それを楽しむためにも、しっかり抑えておきたい一幕です。

30年後にビッグボディの株がうなぎ上りとなる(JC65巻より)
30年後にビッグボディの株がうなぎ上りとなる(JC65巻より)

そしてもう一幕、外せないのがソルジャー・チーム"超人血盟軍"結成秘話ではないでしょうか。仲間集めに旅立ったソルジャーの勧誘先でまず出てくるのがブロッケン。さらにアシュラマンバッファローマン、あげくザ・ニンジャまで。正直、最初にこのメンバーを見た僕は反発感を抱きました。だってどう見てもラスボス候補はフェニックスで、そうなるとこのチームは彼らの引き立て役。そんな泥船に僕の大好きな超人たちを乗せないでくれよ......と。

しかし結果として、この船は泥船どころか大当たりの宝船でした。負けこそしましたが彼らの壮絶な戦いぶりは伝説となり、今なお超人総選挙で上位を独占、その後30年以上も色あせることのない大人気集団となったのです。

JC26巻は、特にエピソードが多く、本稿ですべて触れることは不可能!
JC26巻は、特にエピソードが多く、本稿ですべて触れることは不可能!

さらに、その裏で同時に始まるキン肉マンゼブラ・チームの新たな闘い。そんな注目の各試合の詳細については......次巻以降のレビューに譲ることと致しましょう!

●『キン肉マン』4コマ

●こんな見どころにも注目!

キン肉マン・チームが初戦突破した直後のこのシーン。パルテノンバイクマンを従え、偵察に来ていたゼブラのなんと強そうなこと! 新たな敵としての迫力&魅力満点で読者も大興奮したと思うのですが、こんなかっこいいのによく見ると配下のふたりは神殿にバイク、そしてそれをまとめあげるシマウマ柄の男と、モチーフに何ひとつ接点が感じられない......のに、彼らがここまでかっこよく見えるのはなぜなのか!? 僕にはこの1ページに『キン肉マン』という作品の全てが詰まっているように思えてなりません。

漫画/おぎぬまX 構成/山下貴弘 ©ゆでたまご集英社

おぎぬまXの『キン肉マン』26巻四コマ

『キン肉マン』大好き漫画家のおぎぬまXが、コミックス26巻を熱く語る