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 硬い表面にぽたりと水滴を落としたときの振る舞いはさまざまだ。ある表面にはべたっとくっつくだろうし、ある表面はパッと弾く。

 フィンランドの研究チームが開発した「最強の撥水性能で、世界一水が滑りやすい表面」は、そうした日常的な物理現象の理解を変えてしまうかもしれない。

 その表面はまるで液体のように機能して、水滴の挙動を分子レベルで研究する道を開くだけでなく、家庭の配管から自動車にいたるまで、さまざまな技術への応用が期待されている。

【画像】 とにかく水を弾く、液体のような表面

 水と硬い表面は、切っても切れぬ縁で結ばれている。

 あなたの周囲を見渡してみれば、料理から交通機関にいたるまで、さまざまなものの表面で、水がくっついたり、はじいたりといったことが起きている。

 水を弾いた方が好ましい台所の流し台やトイレなどに撥水効果のある溶剤を塗る人もいるだろう。

 だからこそ、もしもミクロの世界の水滴の振る舞いを解明できれば、家庭用技術も工業用の技術も大幅に性能をアップさせることができる。

 そのための1つのアイデアが、まるで液体のような表面だ。

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 それは土台となる素材に動く分子層をくっつけたもの。そのおかげで液体のような性質を発揮し、表面についた水滴をなめらかに滑らさせる天然の潤滑油として働いてくれる。

 今回フィンランド、アールト大学の研究チームは、専用に設計したリアクターを使って、シリコンの表面に液体のような「自己組織化単分子層(SAM)」を作ることに成功した。

 「分子的に不均一な表面が直接ナノメートルレベルで作られたのは初のこと」と、アールト大学のサカリ・レピッコ氏は述べている。

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 その自己組織化単分子層は、専用リアクターの状態(水分量など)を調整することで、シリコンをおおう割合(被覆率)を変えることができる。

 これを利用してさまざまな被覆率を試してみたところ、意外なことがわかったのだ。自己組織化単分子層の被覆率は、低くても高くても、その表面の水がツルツルとよく滑るのである。

 事前の予想では、被覆率が低ければ、摩擦は高くなる…つまり水滴は滑らなくなるだろうと考えられていた。

 ところが、被覆率が低い表面では、水が自己組織化単分子層の分子のスキマに流れ込み、そこをツルツルと滑っていくのだ。

 もちろん反対に被覆率が高ければ、水は自己組織化単分子層のうえをツルツルと滑っていく。

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あらゆるものの水を弾く

 研究チームに曰く「世界一滑りやすい液体の表面」は、日常生活から産業技術への活用まで、水を弾きたいものに対する幅広い応用が期待されている。

 一例を挙げるなら、パイプの熱伝導、除氷、曇り止めといったものだ。

 また、ミクロの液滴をスムーズに移動させる必要があるマイクロ流体工学や、自分で勝手にクリーニングしてくれる表面の開発などにも役立つだろうという。

 とはいえ、液体表面はこれで完成したわけではない。研究チームの次のステップは、自己組織化単分子層のセッティングを工夫し、さらに改良することだ。

 今の自己組織化単分子層は、あまりにも薄すぎて、何かが触れるとすぐに飛散してしまうこという欠点がある。これを克服し、もっと耐久性を持たせることができれば、さらに実用的なものになるとのことだ。

 この研究は『Nature Chemistry』(2023年10月23日付)に掲載された。

References:Scientists make the most water-slippery surface in the world / Researchers create the most water-repellent surface ever | Aalto University / written by hiroching / edited by / parumo

 
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世界で最も水を弾く、超撥水性の液体のような面を開発