企業で働くサラリーマンにとって、管理職は1つの目標といえます。一般従業員に比べて管理職は高い報酬が支払われ、裁量も増えます。しかし一方で、「管理職には残業代が出ない」といわれることがあります。本記事では株式会社識学の経営コンサルである新村恭平氏が、管理職の残業代について解説します。

管理職に残業代は出るのか?

まずは、管理職に残業代が出るのか出ないのか問題を深掘りしていきます。

労働基準法における残業の定義

そもそも残業は、どこからどこまで残業だといえるのでしょうか。まず一般的に、従業員の労働時間は以下のように定められています。

・労働時間=1日に8時間、1週間に40時間まで

・休憩=1日6時間を超える場合は45分、8時間を超える場合は60分

・休日=毎週1日は休日を設ける必要がある

そして、これらの時間をオーバーする形で労働した場合に、割増賃金として残業代が支払われます。基本的には、通常の賃金の1.25倍以上が残業代です。

管理監督者には残業代を支払わなくてもいい

ただし、企業が残業代を支払わなくてもいいケースが存在します。それは、従業員が管理監督者である場合です。労働基準法では、管理監督者については、労働時間に関する規定の適用外となっています。

なぜ管理監督者に残業代を支払わなくてもいいのか。それは管理監督者が自らの労働時間をコントロールできる立場にあるためです。また、一般従業員に比べて基本給が高く設定されるために経済的に余裕があることから、残業代に関する規定を設ける必要がないと判断されています。

「管理監督者」の定義

では、管理監督者とは一体どのような定義になっているのでしょうか。厚生労働省は「労働基準法における管理監督者の範囲の適正化のために」にて、管理監督者の要件を以下のように紹介しています。

・労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者

・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な職務内容を有していること

・労働時間、休憩、休日等に関する規制の枠を超えて活動せざるを得ない重要な責任と権限を有していること

・現実の勤務態様も、労働時間等の規制になじまないようなものであること

・賃金等について、その地位にふさわしい待遇がなされていること

また、管理監督者の定義について重要なのは「役職名ではなく、その職務内容、責任と権限、勤務態様等の実態によって判断される」という点です。

ポイントは管理監督者であるかどうか

以上の管理監督者の定義を見るに、管理職が必ずしも管理監督者であるとは限らないことがわかります。たとえば管理職の役職についていても、労働時間をコントロールできる立場にない場合は、管理監督者とはいえないので、自分の対応によっては残業代が支払われる可能性があるのです。

【役職別】管理監督者かどうかのチェックポイント

ここでは以下の役職別に、管理監督者かどうかのチェックポイントを解説していきます。

・リーダー、係長、課長

・部長

・店長

・一般従業員

それぞれ詳しくみていきましょう。

リーダー、係長、課長の場合

リーダー、係長、課長という肩書きは、一見すると管理監督者に該当するように思えます。しかし先ほども述べたとおり、職務内容は勤務態様が管理監督者に該当しないケースも十分に考えられます。

たとえば、リーダーや課長であるにもかかわらず、多くの意思決定において上司に判断を仰ぐ必要がある場合は管理監督者に該当しないと考えられます。なぜなら、このケースでは「経営者と一体的な立場にある者」とはいえないためです。

また、リーダーや課長になったことで給与がむしろ少なくなっている場合や上がっていない場合も、管理監督者に該当しない可能性が高いといえるでしょう。なぜなら「その地位にふさわしい待遇」がなされていないためです。

部長の場合

部長は一部門を率いる重要な役職なので、こちらも一見すると管理監督者に該当するように思えます。しかし部長でも、職務内容や勤務態様に注目して、管理監督者かどうかを判断しなければなりません。

部長が管理監督者かどうかの決め手は、権限の強さにあります。もし経営層から、一部門の権限のすべてを委譲されている場合は管理監督者に該当するでしょう。たとえば、部門内の労務管理の指揮ができたり、自分自身の労働時間をコントロールできたりする場合は、管理監督者に該当するといえます。

ただし一口に部長といっても、役職が与えられただけの場合も珍しくありません。重要な意思決定の際に上司に判断を仰ぐ必要があったり、一般従業員と同様の勤務態様であったりする場合は、管理監督者に該当しないといえます。

店長の場合

管理監督者関連の問題が最も多く発生しているのが、飲食店や小売店の店長の領域です。店長自身が管理監督者であることを否定できる要素は、以下が挙げられます

アルバイトを採用できる権限がない

・人事考課に関与できない

・労働時間を管理できない

・長時間労働を余儀なくされている

・マニュアルに従った業務が大半

・基本給の優遇措置がない

・時間単価などでアルバイトの基準以下

厚生労働省によれば、以上のうち1つでも当てはまるようであれば、管理監督者を否定できる要素になり得るとのことです。

実際、自らが店長であっても、重要な意思決定の多くをエリアマネージャーが担当している場合も多く見受けられます。このような場合、エリアマネージャーが管理監督者であって、店長が管理監督者に該当することはないでしょう。

一般従業員の場合

一般従業員だと、流石に管理監督者に該当しないように思えるかもしれません。しかし管理監督者は役職ではなく職務内容や賃金で判断されます。そのため、場合によっては一般従業員でも管理監督者に該当する可能性があるのです。

経営者と一体となって職務をまっとうし、ふさわしい待遇が支払われ、勤務時間に制限がない場合、たとえ一般従業員であっても管理監督者に該当すると考えられます。このようなケースは、それなりの規模の企業では見られないかもしれません。

一方、少数精鋭だったり、スタートアップであったりする場合は、一般従業員でも管理監督者に該当する可能性があります。

残業代が支払われないだけの「名ばかり管理職」とは?

明らかに管理監督者に該当しないのに「管理職だから」ということで残業代が支払われないケースが頻繁に見受けられます。このような状況にある人は「名ばかり管理職」と呼ばれており、多くの職場で問題になっているようです。

先ほどまで紹介したチェックポイントを見ながら、自分自身や職場内で「名ばかり管理職」が発生していないかどうかを、常に確認しておいたほうがいいでしょう。場合によっては、大きな問題に発展する恐れがあります。

自分は名ばかり管理職かも…

「もしかしたら自分は名ばかり管理職かも」と思ったらどうすればよいのでしょうか。筆者は以下の対応をお勧めします。

1. 自分が管理監督者に該当するかをセルフチェックする

2. まずは企業と交渉する

3. 労基署に問い合わせる

4. 弁護士に相談する

5. 転職する

それぞれ詳しく解説していきます。

1.まずは自分が管理監督者に該当するかをセルフチェックする

まずは、自分が管理監督者に該当するのかどうかをセルフチェックしてみましょう。本記事でも紹介した管理監督者の定義や、現行の労働基準法を確認して、自分が管理監督者に該当するかどうかを確認してみてください。

2.企業と交渉する

もし自分が管理監督者に該当しなさそうで、それでいて残業代が支払われていない場合は、企業と交渉してみるのがいいでしょう。企業が、名ばかり管理職の事態に気づいていない可能性もあるので、交渉に応じて残業代を支払ってくれる可能性があります。

ただし、残業代請求の時効が3年である点に注意が必要です。また、仮に就業規則で「残業代を支払わない」と明記されていて、それが公序良俗に反している場合は、民法が優先される可能性があります。

3.労働基準監督署に問い合わせる

企業と交渉して上手く解決しなかった場合は、労働基準監督署(労基署)に問い合わせるのがいいでしょう。また、企業と交渉する際に「解決しなさそうだったら労基署に問い合わせる」と伝えておくことで、企業が交渉を無視できなくなります。

労基署に問い合わせる際の懸念点として、法的判断については対応できない点が挙げられます。管理監督者ではないと判断され、それでも企業が残業代の支払いに応じない場合は労基署で対応可能です。しかし企業側が、管理監督者でないことを認めない場合は、管理監督者かどうかの法的判断が必要になるため、裁判で決着をつけなければなりません。

3.弁護士に相談する

労基署に問い合わせても解決にならない場合は、弁護士に相談するのがベターです。これで、管理監督者であることを否定できそうであれば、裁判を起こします。

ただし、裁判を起こすには一定の費用が必要なので、仮に残業代を受け取れたとしても収支が赤字になる可能性もあります。総合的な収支がどうなるかを考慮して、裁判を起こすべきかどうかを検討するのがいいでしょう。

4.転職する

残業代の受け取りを諦めて、いっそのこと転職してしまうのも選択肢のひとつです。残業代が支払われない状態で働いても、得することはほとんどありません。待遇がいい企業に転職することも検討しておきましょう。

従業員と企業の双方が確認する

もしあなたが名ばかり管理職である場合は、残業代が支払われるように企業に交渉したほうがいいでしょう。また、企業側も、名ばかり管理職の問題が発生していないかどうかを確認しておくのが懸命です。

株式会社識学

(※画像はイメージです/PIXTA)