1974年に放送された「暗闇仕留人」は、スタイリッシュ&ハードボイルドな演出が人気の時代劇「必殺」シリーズの4作目。藤田まこと演じる「中村主水」シリーズの2作目にあたる時代劇だ。勧善懲悪で終わらないアンチヒーローものとしての側面だけでなく、人らしい悩みに揺れ動く暗殺者の姿に多くの視聴者が共感した名作。いまなお色あせない輝きを放つ「必殺」シリーズのなかで、特に暗い光を放った「暗闇仕留人」の魅力について深堀りする。

【写真】仕事の意味を問い続ける仕事人“糸井貢”を石坂浩二が演じる

■法の目を掻い潜る悪を裁くアンチヒーロー

池波正太郎による原作小説をもとに始まった「必殺」シリーズ。勧善懲悪を主題とする王道の時代劇ではなく、金銭目的で“仕事=殺し”をおこなうアンチヒーローをメインキャストとした作品群だ。法の下では裁かれることのない悪を、“仕事人”たちがそれぞれの技で成敗するまでが描かれる。

暗闇仕留人」は、「必殺」シリーズの第4作目。メインキャストである石坂浩二が演じた糸井貢は元蘭学者だったが、政府による蘭学者などを弾圧する事件を境にお上から狙われる身になった。芝居小屋の三味線弾きとなるも病弱な妻の薬代を稼ぐため仕留人になり、自身の手を血で染めていくことになる…という役どころだ。

後に「金田一耕助」シリーズの金田一耕助が当たり役となる石坂浩二だが、それまではいわゆる好青年的なキャラクターを演じることが多かった。しかし糸井貢ではそれまでのイメージを一新。気さくで優しく、情に流されがちな表の顔、鋭利な三味線のバチで標的を仕留める裏の顔、妻のために悪の道に染まっていく“哀しき善の人”たる姿を見事にやってのけた。

法の目を掻い潜る悪党とはいえ、当初は金銭目的で人を暗殺することに躊躇いを見せていた糸井。だが同業との抗争で妻・あやを失ったことでプロの暗殺者としての自覚を持つように。しかし次第に仕留人である自身の存在、そして“仕事”に対して懐疑的な気持ちを押さえられなくなる…。

■「暗闇仕留人」が描いた“必殺”シリーズの原点

シリーズを通じて、“仕事人”“仕置人”“仕留人”と呼ばれる者たちは金と依頼があれば人の命を奪うことも厭わない。爽やかに悪を切って一件落着…という王道にはない、コールタールのように薄暗い闇がベタつくハードボイルドな作風が「必殺」シリーズの特徴といえるだろう。私情を挟まずに「仕事に見合った報酬か」を基準にした姿は、まさしく“仕事人”の名に相応しい。

だがそんな「必殺」シリーズのなかでも、「暗闇仕留人」は特に“仕事”に関する懊悩を深く掘り下げたタイトルだ。もちろん流行語にもなった妙心尼の「なりませぬ」を筆頭に、恒例の日常シーンで飛び出すお笑いは健在。主水に子どもができないことを痛切になじる中村せん(菅井きん)の「種なしカボチャ」という罵詈雑言も、「暗闇仕留人」で聴くことができる。

しかし同作には前述のとおり糸井の妻・あやの死だけでなく、密偵として手を貸してくれていた仲間にも危害が及ぶシーンが。明るくコメディックな日常シーンが、より仕事人たちが懐に抱く影を深く濃く映し出した。

その象徴が、「暗闇仕留人」の最終回。糸井貢が中村主水、村雨の大吉(近藤洋介)に発した「俺たちのやってきたことで、世の中少しでもよくなったか?」という問いかけに詰まっている。誰かの恨みを晴らした先で誰も救われずに終わるというエンディングは、「必殺」シリーズの定番。元一般人で善良な心を持つ糸井だからこそ口にしたその疑問に、真正面から正解を告げる者はいなかった。

ちなみにシリーズで身内の死を取り扱ったのは、前作にあたる「助け人走る」が初。「暗闇仕留人」は「助け人走る」から続く骨太なハードボイルド路線を強化し、後に続く作品へ大きな影響を残すことになる。

陰と陽、さまざまな魅力を持つ「必殺」シリーズ。善悪の二元論では割り切れない人間の弱さにフォーカスした「暗闇仕留人」は、BS松竹東急(全国無料放送・BS260ch)で11月3日(金)昼3時から放送開始予定だ。

石坂浩二出演の「必殺」シリーズ4作目「暗闇仕留人」/(C)ABCTV/松竹