声優アーティストの水瀬いのりが、10月28日と29日に神奈川ぴあアリーナMMで【Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART】を開催した。

 9月17日の兵庫・ワールド記念ホールからスタートし、宮城、愛知、福岡、神奈川と全国5か所、全6公演を完走した自身最大規模のライブツアー。それぞれの楽曲が持つ世界観を1曲ごとアートに見立てたかのようなコンセプチュアルなステージに挑戦した、ツアーファイナルをレポートする。

 オーディエンスをライブの世界へと誘うオープニングムービーでは、薄暗いスクラップ工場に佇む水瀬の姿が映し出された。スクラップで作られた猫のT2(テツ)を追いかけ、工場の外へと飛び出していく。その映像とリンクする形で、夜の街を表現したステージに出現した水瀬。ツアータイトルにもなっている、9月13日にリリースされた「スクラップアート」からライブはスタートした。楽曲の世界観に合わせ、感情を抑えたようなボーカル。曲の途中で、深く被っていたフードをはずし、リミッターを解除するような歌声を響かせると、会場のボルテージが一気に上がった。2曲目の「identity」は夜の街に黎明が射し込み、夜明けとともに走り出す疾走感のあるナンバーだ。バンドサウンドのパワフルな音に支えられ、オープニングから飛ばしていく水瀬。「brave climber」ではイントロから拳を振り上げ、力強いメッセージを1フレーズ毎に噛みしめるように歌い上げた。

 大きな拍手と約4年ぶりの大歓声を受けながら、笑顔で挨拶をする水瀬。今回のツアーでは、みんなを驚かせるようなことをしたかったという。「自分にとって実りのあるツアーになっていると感じています。今日はその集大成として、みなさんと一緒にこの時間を楽しみたいと思います。みなさんも自分らしく、この場所にいることを楽しんでください!」と呼びかけた。ツアーのテーマは、廃材芸術。不要な物から作り出されたアートという意味だが、水瀬はそれを日常の暮らしに置き換えたという。諦めたり立ち止まったりしても、その経験が再生へとつながる…。そんな思いを込めたツアーだということを、真摯に伝えた。また、4年ぶりの声出し解禁ツアーということもあり、拍手だけでなく歓声でもコミュニケーションが取れるように。アットホームな空間に包まれながら、「泣いても笑っても最終日、ツアーファイナル神奈川スタート!」という合図で始まったのは、「僕らだけの鼓動」だ。リメイクデニムの衣装にチェンジした水瀬は、会えた喜びを1人1人に伝えるよう、ステージを端から端へと移動。スペイシーなデジタルサウンドが特徴的な「クリスタライズ」では、クラップしたり声を出したり、一緒にライブを作っていく楽しみを思い出させてくれた。

 ライブを支える“いのりバンド”の紹介を挟み、カラフルな水玉がアクセントになっているキュートなフワフワ衣装に着替えると、恋のときめきや戸惑いを描いた楽曲を2曲続けて披露。「アイマイモコ」では軽やかなステップと共に恋心をポップに、「運命の赤い糸」では大好きな人に向けた想いをメルティーボイスで歌い紡いでいった。「くらりのうた」は、水瀬自身がデザインした公式キャラクター“くらりちゃん”のテーマソング。「リラックスしながら、ゆらりゆらりと聴いてください」と紹介されたように、クラゲがモチーフとなっているくらりちゃんに合わせて、ふわふわと浮遊するような世界が会場全体に広がっていく。ファンも公式グッズの“くらりライトチャーム”を揺らして、ゆらゆら…。じつは水瀬の衣装もくらりちゃんイメージで作られたもの。目から耳から癒しを感じられた1曲だ。

 ドラマティックな「あの日の空へ」で再び芯の通った歌声を聴かせた後は、水瀬が様々なアートに挑戦する様子を記録したムービーが会場に流れた。会場ごとに異なるアートを完成させてきたそうで、この日は巨大絵画にチャレンジ。真っ白なキャンバスにブルーの絵の具を広げ、伸び伸びと筆を走らせる水瀬画伯。くらりちゃんを中心に不思議な生き物(?)が生息する「くらりの仲間たち」を完成させた。ファイナルということで、全会場のアートの頭の文字をつなげると「スクラップアート」という文字になる…という伏線回収もあり、客席からは拍手が湧き上がった。

 ライブ後半戦は「アイオライト」からスタート。アーティスティックな映像が投影された紗幕の向こうに、ハイチェアに腰掛けた水瀬の姿が。艶めいた歌声とアイオライト色のタイトなミニのドレスが、楽曲の持つ妖しさをより際立たせる。「クータスタ」ではギターのカッティングに重なる歯切れの良いボーカルと、私小説のような歌詞にドキリ。独特の世界観を持つ2曲で酔わせた後は、エモーショナルな「TRUST IN ETERNITY」でライブの熱を一気に上げていく。MCでも「次は皆さんとコール&レスポンスしたい1曲になっています。ここらで“ブチ上がるぞスイッチ”を入れてください!」と煽り、「約束のアステリズム」へ突入。力強いイントロに呼応するよう、強く拳を突き上げるオーディエンスたち。マイクを向けると、♪WOW WOW~と声が返ってくる。いのりバンドとともに中央に集まり、歓声に込められたパワーを一身に受け止める水瀬。そのパワーを、すぐに自身のボーカルへと注ぎ込んでいく。「Million Futures」で「せーの!」と呼びかければ、ライブの定番である観客からの「Million Futures」コールが起こる。水瀬は力一杯の応援に「ありがとう!」と声を上げた。

 まるでクライマックスのような熱気を帯びた会場。だが彼女のアートはまだまだ終わらない。オルゴールのネジを巻くような音が聴こえると、絵本に出てくるウィンター・ホリデーのようなイラストがステージに映し出された。そこから飛び出してきたのは、真っ赤なジャケットにネクタイ、花のプリントがあしらわれたスカート姿の水瀬だ。楽曲の頭文字から「WWWシリーズ」と呼ばれ、親しまれてきた「Well Wishing Word」、「While We Walk」、「Winter Wonder Wander」の三部作をついに連続披露。絵本のページをめくるたび、季節が変わっていく…。まるでミュージカルを見ているようなファンタジックな演出に、三部作の完成を心から喜ぶように歌う、伸びやかな水瀬のボーカルがステージを彩っていく。気づけば空からは白い雪が降り、会場は幸せな空気で満ちていった。

 WWWシリーズ三部作を始め、数々の楽曲たちをみんなの前で歌える喜びを、噛み締めながら歌ってきた水瀬。「皆さんにも想いが届いているでしょうか?」と問いかけると、大きな拍手が帰ってきた。「私自身、音楽に支えられて今日もこうして歌えています。これからもそんな想いを胸にライブをしていきたいと思えるのは、紛れもなく皆さんのおかげです」と感謝を伝えた。「最後の曲は皆さんと一緒に完成させたい1曲です。最後の力、声を振り絞って、一緒にひとつになりましょう」と語り終えると、スタンドマイクを握り締め「僕らは今」を歌い出した。祈りをこめた声は、やがてオーディエンスの歓声と一体化。今夜一番のコール&レスポンスが湧き上がり、最後はスクリーンに映し出された歌詞を全員で大合唱する。水瀬は両手を広げ、みんなの声を全身で受け止めた。

 「いのりん!」というファンの熱いコールに応え、 “くらりちゃんフロート”に乗って再登場した水瀬。ツアーTシャツに着替え、アリーナ通路を滑走し「Morning Prism」「ココロMerry-Go-Round」を歌いながら、ハンドサインでファンとコミュニケーションを楽しんだ。ステージに戻った水瀬は、「みんなの笑顔に私も癒されました!」とニッコリ。今夜のライブが11月25日からオンライン配信されるという嬉しいお知らせを挟み、「今日という日を『最高だったね!』と締めくくりましょう!」と「Ready Steady Go!」を熱唱。ファンはタオルを力一杯回し、水瀬もタオル片手にステージを自由に飛び回った。そしてツアーファイナルを惜しむファンたちの「もう1回!」というラブコールに応え、Wアンコールも実現した。ツアーを振り返り、チームいのりへの感謝の想いを語ろうとするのだが、瞳を潤ませて言葉に詰まってしまう。チームいのりの前では弱音を吐けると呟いた水瀬に、温かい拍手と声援が飛ぶと、さらに涙…。「弱音を吐くことも勇気だからね。でもライブを楽しい場所することができたのは、みなさんのおかげです!」と気合を入れ直し、「Catch the Rainbow!」を披露。虹色カラーに光る照明とペンライトが、会場中の笑顔を輝かせた。止まない大歓声に、すっかりパワーチャージ完了の水瀬。「みんな、大好きだよー!」と、とびきりの笑顔を見せた。

Photo by
加藤アラタ(Kato Arata)
三浦一喜(Miura Kazuki)


◎公演情報
Inori Minase LIVE TOUR 2023 SCRAP ART】
2023年10月29日
神奈川ぴあアリーナMM
セットリスト
M1 スクラップアート
M2 identity
M3 brave climber
M4 僕らだけの鼓動
M5 クリスタライズ
M6 アイマイモコ
M7 運命の赤い糸
M8 くらりのうた
M9 あの日の空へ
M10イオライト
M11 クータスタ
M12 TRUST IN ETERNITY
M13 約束のアステリズム
M14 Million Futures
M15 Well Wishing Word
M16 While We Walk
M17 Winter Wonder Wader
M18 僕らは今

アンコール
EN1 Morning Prism
EN2 ココロMerry-Go-Round
EN3 Ready Steady Go!

<Wアンコール
EN4 Catch the Rainbow

水瀬いのり、自身最大規模となるライブツアーのオフィシャルレポート到着