(小林偉:大学教授・放送作家)

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柏木由紀がAKB48卒業を発表

 かつて、女性アイドルといえば山口百恵松田聖子などのように“ピン”か、もしくはキャンディーズピンクレディーなどのように2~3人の少人数ユニットで活動するものでした。

 しかし1980年代半ばに登場した、秋元康プロデュースのおニャン子クラブ(メンバー11人で活動開始)が契機となり、90年代に入ってからはモーニング娘。に代表されるハロープロジェクトの諸グループ、21世紀以降のAKB48グループ、その公式ライバルとしてデビューした乃木坂46とそれに続く坂道シリーズなどなど、最低でも5人以上の大所帯で活動するグループがすっかり主流化。さらに現在では、そんな大所帯アイドルグループが、かなりのマニアでも把握しきれないほど乱立・細分化し、一大マーケットを確立しています。

 その一方で、グループを“卒業”もしくは“脱退”するメンバーの数も激増。これまでの総数は、概算で軽く1000名超とも言われています。今年に限っても、先日17年在籍した柏木由紀が卒業を発表したAKBグループでは73名、坂道シリーズで9名、その他のグループでは実に100名超に及びます。マァ、アイドルとしての活動期間は平均すると5~6年と言われていますから、ある意味当然の結果でもあるワケですが・・・。

 アイドルグループからの卒業・脱退は、いわば退社や転職を意味します。しかも多くが15~16歳で活動を開始する女性アイドルですから、それぞれの“セカンドキャリア”のスタートは、大学新卒者とさほど変わらない20代前半頃。アイドル時代に幅広い知名度を得ていた者はともかく、そうでない者にとっては茨の道とも言えるのです。

 SDN48の2期生として活躍した大木亜希子(当時は亜希子名義)は卒業後、作家に転身。

 その最初の著書として刊行した『アイドルやめました。~AKB48セカンドキャリア』(2019年/宝島社)では、保育士バーテンダー広告代理店社員、アパレル販売員などに転職した8人の元アイドルが登場。それぞれのセカンドキャリアが語られていて、とても興味深いものでした。また彼女が自らの実体験を元に、初めて書いた小説『人生に詰んだ元アイドルは、赤の他人おっさんと住む選択をした』(2019年/祥伝社)は今年映画化。その主演を、元乃木坂46深川麻衣が務めるという面白い展開も生んでいます。

 さて、そんな大木亜希子に刺激を受けた筆者は、今をときめく坂道シリーズのセカンドキャリアについて調べてみようと思い立った次第。

 その話をする前に、あまり詳しくないであろう多くの皆さんへ、坂道グループのメンバー変遷を簡単にご説明しますね。

坂道グループのメンバー変遷と現在

 2011年8月に、当時全盛期を迎えていたAKB48の公式ライバルとして乃木坂46が結成。そのオリジナルメンバーである1期生にはオーディションを経た36名が選出。その中から本格活動開始前に2名が辞退し、事実上34名でスタートしました(ご存知の通り、プロデュースするのはAKBグループ同様の秋元康)。ちなみに“46”としたのは“48”より少なくても負けないという想いが込められています。

 約1年半後の2013年3月には、2期生14名が加入。さらに2016年9月に3期生12名、2018年11月に4期生11名、2020年2月に新4期生5名、2022年2月に5期生11名がそれぞれ加入。2014年2月から1年間、SKE48からの交換留学生として加入した松井玲奈を含め、これまでに計88名(活動辞退者を除く)が在籍しています。

 その乃木坂46に続く坂道シリーズ第二弾として2015年8月に結成されたのが、欅坂46。こちらは1期生21名でスタートし、2018年11月には2期生9名、2020年2月に新2期生6名が加入、2020年10月には櫻坂46と改名。2023年1月に3期生11名が加入と、これまでに計47名が在籍しています。

 その欅坂46から分派するような形で2016年5月にけやき坂46(通称、ひらがなけやき)が誕生。諸事情により最終オーディションを受けずに欅坂46へ加入した長濱ねるの別ユニットのような形でした。1期生はオーディションで選ばれた11名に長濱を加えた12名でスタート。2017年8月には追加メンバー(後の2期生)9名、2018年11月に3期生1名が加入。2019年2月に日向坂46に改名。さらに2020年2月に新3期生3名、2022年9月に4期生12名が加入と、現在までに計37名が在籍しています。

 ・・・という坂道シリーズですが、これまでの卒業・脱退メンバー数は以下の通り。

乃木坂46・・・既に1、2期生の全員と、3期生1名、4期生2名の計52名。

●欅坂・櫻坂46・・・1期生16名と2期生2名の18名。

●けやき坂・日向坂46・・・1期生3名と2期生2名の計5名。

 さらにそのセカンドキャリア(活動の中心としている職種)をみると・・

乃木坂46・・・引退(不明も含む)13名、テレビ局アナウンサー2名、歌手2名、モデル2名、実業家など2名、タレント6名、声優、ヨガインストラクター、心理カウンセラーが各1名、そして俳優が22名(!)。

●欅坂・櫻坂46・・・引退(不明も含む)9名、テレビ局アナウンサー1名、タレント4名、俳優5名。

●けやき・日向坂46・・・引退2名、作家1名、タレント1名、俳優1名。

 乃木坂46の市來玲奈(日本テレビ)、斎藤ちはる(テレビ朝日)、欅坂・櫻坂46の原田葵(フジテレビ)と3名の局アナを生んでいるのも凄いですが、特筆すべきは、歌手への転向の少なさと、俳優の多さ。特に乃木坂46からの俳優22名は驚くべき数字です。

 しかも、その多くが各局の連続ドラマに登場。最近では『ポケットに冒険をつめこんで』(テレビ東京系)に西野七瀬が、『灰色の乙女』(TBS系)に桜井玲香が、『日常の絶景』(テレビ東京系)に伊藤万理華が、『彼女たちの犯罪』(日本テレビ系)に深川麻衣が、『ショジョ恋』(フジテレビ系)に松村沙友理が、『超人間要塞ヒロシ戦記』(NHK総合)に高山一実が、それぞれ主演。『何曜日に生まれたの』(テレビ朝日系)に若月佑美が、『こっち向いてよ、向井くん』(日本テレビ系)に生田絵梨花が、『月読くんの禁断お夜食』(テレビ朝日系)に樋口日奈が、『好感度上昇サプリ』(テレビ東京系)に生駒里奈が、『それってパクリじゃないですか?』(日本テレビ系)に秋元真夏が、『風間公親-教場0』(フジテレビ系)に白石麻衣が、各々重要な役どころで登場。さらに今年5月に卒業コンサートを開いたばかりの齋藤飛鳥も、この10月から『いちばん好きな花』(フジテレビ系)と『マイホームヒーロー』(TBS系)の2作で満を持して女優として出演という具合。この他にも、永島聖羅、堀未央奈北野日奈子鈴木絢音らも各々ドラマを彩り、加えて舞台を中心としている井上小百合、能條愛未、伊藤純奈、渡辺みり愛などなどもいます。

 さらにさらに、在籍中のメンバーでも山下美月が『さらば、佳き日』(テレビ東京系)に、遠藤さくらが『トラックガール』(フジテレビ系)に、与田祐希が『量産型リコ~もう1人のプラモ女子の人生組み立て記』(テレビ東京系)にそれぞれ主演するなど、さながら“俳優養成所”といった感を呈しています。

 また欅坂・櫻坂46出身者も、平手友梨奈が『うちの弁護士は手がかかる』(フジテレビ系)に、渡邊理佐が『ブラックファミリア~新堂家の復讐』(日本テレビ系)に登場など、相変わらず存在感を発揮していますし、日向坂46出身者も、渡邊美穂が『ブラザー・トラップ』(TBS系)に、また現役メンバーの上村ひなのが『DIY!!~どぅー・いっと・ゆあせるふ』(TBS系)に、齋藤京子が『泥濘の食卓』(テレビ朝日系)にそれぞれ主演するなど、こちらもドラマ界での活躍が目立ってきました。

 総括すると、坂道シリーズのセカンドキャリアは、他のアイドルグループと比べて、際立って俳優転向が多いという結論。

 その背景には、坂道シリーズの運営がデビュー直後から複数のメンバーによる舞台出演に積極的だったことがあるのではと筆者は分析します。例を挙げると、坂道合同プロジェクトだった舞台「ザンビ」や、けやき坂46による舞台「あゆみ」、乃木坂46はさらに多く、「16人のプリンシパル」「じょしらく」「すべての犬は天国へ行く」など、多数のメンバーが出演する舞台が幾つも用意されていました。こうした経験が彼女たちの演技への興味を高めていったのかもしれません。事実、在籍していた頃から個々のメンバーの舞台出演機会も非常に多くなっていましたし。

 一方で、ソロ歌手への転向が少ないのは、他のアイドルグループでも同様の傾向が見て取れます。やはり大人数での歌唱に慣れ親しんでいるため、ソロとして歌唱することに高いハードルを感じるということがあるのかもしれませんね。

 ある意味、他のアイドルグループとは一線を画した特異なセカンドキャリアを歩もうとしている坂道シリーズ。これからも、彼女たちの“第二の人生”に幸あらんことを願ってやみません。

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