共同通信は26日、中朝関係に詳しい外交筋の情報として、中国当局が国内で拘束している多数の脱北者を近く北朝鮮に追加で強制送還する準備を進めているもようだと伝えた。また、韓国の朴振(パク・ジン)外相は27日の国会外交統一委員会の総合監査で、脱北者を北朝鮮に強制送還してはならないとする立場を中国の王毅外相に伝えたと明らかにした。

ウクライナ戦争イスラエルハマスの武力衝突の陰に隠れてしまっている観があるが、中国による脱北者の強制送還は、国際的な人権イシューとなる要素を秘めている。

韓国デイリーNKは今月20日、脱北女性であるイ・ヨンジュさんのインタビューをソウル市内で行った。イさんは1997年3月以降、3回にわたって脱北に失敗しながら、2011年7月に4回目の挑戦でようやく韓国入りを果たした。その間、繰り返し強制送還されたイさんは、脱北者の中間勾留施設である集結所と教化所(刑務所)で様々な人権侵害を受けた。

イさんが語る各施設の惨状は、にわかには想像し難いものだ。たとえば集結所について、彼女は次のように語っている。

「(集結所は)人が獣のように扱われる場所と言ってもいいだろう。狭い独房にもやしのようにぎっしりと人を閉じ込め、座ると他の人と足が当たり、少しも動けない状態で一日中すごさなければならなかった。夜も横になることができなかった。各独房には便所があったが、糞まみれのネズミがウロウロするなど、衛生のことなど全く考えられない場所だった。

体を洗うこともできず、人が大勢いるためノミやナンキンムシ、シラミが非常に多かった。ご飯から血の味がして、ノミが混じっているのかと思った」

さらには性的虐待も日常茶飯事だった。

強制送還される脱北者は女性が多い。理由は主に2つだ。職場への所属が法的義務とされている男性と比べ、女性は行動の自由があること。そして人身売買のターゲットにされていることだ。

それなのに、集結所には女性の職員がほとんどいない。だから隠し持った現金などを取り上げるための厳しい身体検査は、必然的に性的虐待につながる。またイさん以外の脱北女性の証言からは、看守が常習的に性的暴行を働いている実態も垣間見える。

このような当事者の証言は、これまでにも数多く世に出ている。だがその多くは、加害の主体が北朝鮮当局だけになっているように思われる。しかし実際には、強制送還を続ける中国も共犯なのだ。その点に注目が集まることで、この脱北者の強制送還は「古くて新しい問題」として扱われる可能性がある。

食事の準備をする北朝鮮の女性兵士たち(アリランday)