板倉滉が語る日本代表、大躍進のワケ

森保ジャパンの快進撃が止まらない。9月、10月の親善試合では4戦全勝。しかし、慢心することなく完封勝利を求め続ける板倉滉が〝秋の陣〟を分析。11月から始まるW杯アジア2次予選、さらに来年のアジア杯への展望も語る。

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■大勝したドイツ戦の後、「ハンジ」と呼ばれて

いよいよ、11月からW杯アジア2次予選が始まる。その先の1月にはアジア杯カタール大会も控えている。9月、10月に行なわれた親善試合は、僕ら代表メンバーの間では言葉に出さずとも、W杯やアジア杯に向けた〝前哨戦〟という意識は強かったと思う。

まずは、ドイツ戦(9月9日ヴォルフスブルク)。意外なことにトミ(冨安健洋)とCBで組むのは初めてだったけど、あうんの呼吸というか、トミの存在は練習の時点ですでに絶対的な安心感をもたらしてくれた。

例えば、僕がプレスをかけに行くとき、後ろにはトミが必ずカバーリングでついてくれる。お互いの存在を感じ合えるのだ。もちろん、絶えず声もかけ合うんだけど、トミの場合は気配でわかり合える。

万が一、相手の攻撃陣に抜かれたとしても、間違いなく僕とトミ、どちらかは潰しに行ける自信があった。だからこそ、高いDFラインを引くことができた。

紅白戦では「高く、高くいこう」と。それは中盤の(遠藤)航君とも話していて、ドイツは中盤とDFラインの間を使うのがうまいから、僕らはできるだけコンパクトに守ることを意識していた。

いざ、フタを開けてみれば、予想どおりドイツは立ち上がりからガンガン攻めてきた。最終ラインは、僕らDF4人に対して、ドイツの前線5人が畳みかけてきて、5対4の数的不利な状況をかなりつくられていた。

けど、それも試合前から予測できていたこと。昨年のカタールW杯のような展開にさせるつもりはまったくなかった。僕らDF4枚の機動力でラインは高く保ちつつ、両サイドもカバーしていこうと、事前に決めていた。

ひとりひとり、カバーするエリアが広がり、移動距離も増えるというフィジカル的な負担は覚悟の上だ。でも、僕らは誰ひとりとしてサボらず、きっちり守れた。

1失点したことは悔しかったけど〝本気〟で向かってくる強豪国ドイツに対して臆することなく、結果的に4-1で返り討ちにすることができたのは大きな収穫だった。

一方で、ドイツ国内の反応はすさまじかった。試合直後のスタジアム。自国代表に対するドイツサポーターの大ブーイングは、これまでブンデスリーガでも戦ってきたけど、一度も味わったことのない強烈なものだった。

クラブに戻ってからは、しばらくの間、ドイツ人のチームメイトに「ハンジ!」と呼ばれた。前ドイツ代表監督フリックのファーストネームだ。解任に追い込んだ張本人としてけっこういじられた。

僕も負けじと「チャオ!(さようならの意)」と、手を振るジェスチャーで返した(笑)。それだけ日本の勝利と、監督の解任はドイツ国内でインパクトの大きい出来事だったのだろう。


強豪国ドイツとの一戦で安定した守備を見せた板倉

■惨敗したチュニジアにリベンジ成功の要因

10月17日、3試合ぶりの先発でチュニジア戦に臨んだ。場所は、〝第二の故郷〟ともいえる兵庫県ノエビアスタジアム神戸だった。

昨年6月14日大阪府パナソニックスタジアム吹田で対戦したときは、0-3で完敗した。4連戦の最後の試合ということもあり、かなり疲労がたまっていたとはいえ、全体的に不甲斐ない出来だったのは覚えている。とにかく、個々のフィジカルが強いという印象の相手だった。

今回も、試合が始まるとチュニジアのフィジカルと球際の強さは相変わらずだった。立ち上がりから、全体的に守備的でかなり引いて守られた。

CBを務めた僕とトミはフリーでボールを持てる時間帯が多く、正直、心の中では「もっと前に出てきてくれないと超やりづらいじゃん」とさえ感じていた。

僕らがフリーすぎる状況だった分、前線はガチガチに固められていてタイトだった。そこをどうやって剥がしていこうか一番に考えながら、プレーした。例えば、ボールを持ち出して仕掛けていき、相手がつられて出てきたスペースを探したり。

でも、試合が進むにつれて、徐々に空いたスペースも生まれ始めた。(久保)建英が左右両サイドへ自由に動き回ることで、相手はマークをつかまえづらくなり、ガチガチのディフェンスにもほころびが生じたからだった。

建英は、中盤の様子を見つつ、試合全体の流れを把握しながら巧みにポジションを取ってくれていた。僕らからいいパスを出せば、前を向いたときにチャンスが生まれると感じていた。

もちろん、建英だけでなく、前線の選手はみんなポジショニングが良かったので、割と楽しみながらビルドアップできた。

そんな戦況だったので、僕らDF陣はカウンターだけを絶対に食らわないよう注意して、基本的には強気の守備で通した。前線の選手たちも、ボールを奪われたときの切り替えがしっかりできていたので、あまり怖さは感じなかった。試合の主導権は握れていたと思う。

その証拠に、チュニジアのシュート数はたったの1本。僕は後半27分に(谷口)彰悟さんと交代したけど、クリーンシート(無失点)で試合を終えることができた。

およそ1年半前に惨敗した相手を今回完封できた要因、そして6月の強化試合から6連勝できたのは、僕らの連動性が高まったことが大きいと思う。

日頃からヨーロッパのリーグで多くの選手がもまれながら戦っている。世界中から集まった代表選手たちがチームメイトだったり、対峙する相手だったり。今や、日本代表のメンバーの8割以上がそんな環境に身を置いている。だから、全体としてレベルアップするのは必然的だ。

おのおのの経験やスキルがベースとなった上で意思の疎通もだいぶ深まっている。どうしても代表期間というのは短いし、集まってから試合までの日数も少ない。しかも、それぞれの所属クラブでの活動が収まった人から順次合流するので、早い段階からみんな一斉に集まれるわけではない。

はっきり言って、まとまって練習ができる時間は限られている。だからこそ、僕らは合間を縫って、できるだけ情報交換や意見を交わすことで共通認識をつくり上げていく。

例えば、トミとだったら、アーセナルでのことを詳しく話してくれる。ほかの選手たちもそれぞれの所属先について細かく丁寧に説明してくれる。毎回代表で集まるたび、これが大きな刺激になっている。

試合前には、対戦国の分析と戦い方についてもしっかり話し合う。ニュアンスとしては「相手はこういう動きが予想されるから、ここは自分が出ていったほうがいい」とか、「いや、そこはDFが出ていかず、中盤に任せたほうがいい」といった具合だ。

特に、CBの場合は、時間さえあれば互いに話し合うことが大事だと思っている。共通認識ができていないと、それが命取りになる場合があるからだ。

一方で、日本代表がこれだけレベルアップ、選手層が厚くなったわけだから、同時に競争が激化して、レギュラー確保も容易でないことは思い知らされる。

僕としては、代表に招集されるからには全試合にフルで出たいという気持ちを持って臨んでいる。出たくて、出たくて、仕方がない。

トルコ戦(9月12日ベルギー・ゲンクにて4-2で勝利)とカナダ戦(10月13日、新潟・デンカビッグスワンスタジアムにて4-1で勝利)には出場できなかったけど、特にカナダ戦はチームがいい勝ち方をしていたので危機感を覚えた。

決して、レギュラーというのは約束されているわけではなく、常に初心を持って臨まないとダメなんだと。とにかく、DFは結果を求められる。FWならば、シュート10本のうちの1本を決めれば認められるけど、僕らはそうはいかない。

10本のピンチがあれば、その10本すべてを止めなければいけない。試合に負ければ、真っ先に責められるのも守備陣だからだ。


板倉滉(奥)と冨安健洋選手(手前)の日本代表CBコンビ

■板倉が取り組む自分への課題

僕自身もさらなる高みを目指して、課題に取り組んでいる。フィジカル強化だ。ドイツ戦の入場の際、僕の後ろに(菅原)由勢がいた。

彼は並行して入ってきた相手DFのズーレ、リュディガー、GKのテア・シュテーゲンを見て、ぼそっとひと言。「でけぇ......」

確かに、まるで〝大熊〟のような体で、とてつもない威圧感があった。今の自分にはDFとして彼らのような迫力が必要だと思った。なので、体を大きくするトレーニングを行なっている。

さらに、現代サッカーは、ひとりの守備範囲というものが本当に広くなっている。いろんな国のリーグを見ていて、心底そう思う。だとすれば、当たりの強さやスピード、走り切れるスタミナが当然求められる。

理想は、ひとりですべて完結できるDF。それが後ろに4枚並んでいたら相当強い。現に、強豪国はそういった選手をそろえている。だから、フィジカルのみならず、スピードやスタミナも意識したトレーニングに重点的に取り組み続けている。

試合中、意識的に1対1の状況をつくり出し、競り勝つことにも取り組んでいる。もちろん、ひとりよがりではなく、全体の流れをちゃんと把握した上で。

所属先のボルシアMGでは、基本的にマンツーマンで相手と対峙して潰しに行く、あるいはロングボールが入ってきたときに1対1の競り合いで必ず勝つことが前提になっている。

ファウルやカードをもらう回数は昨シーズンよりも増えてしまったけど、着実に積極性を含めた手応えを実感している。

W杯2次予選、最初の相手はミャンマー、次いでシリアだ。今の日本代表ならば楽勝だという声は多いかもしれない。でも、W杯となるといろんな意味で別格だ。緊張の度合いもまるで違う。油断大敵だ。

事実、一昨年のカタールW杯アジア最終予選の初陣オマーン戦は0-1の黒星スタート。続いての中国戦は1-0で辛勝したけど、10月7日のアウェー、サウジアラビア戦は0-1で負けてしまった。

僕はこのとき、MFとして招集されたけど、絶対的な危機を迎えて、チーム内に重苦しい空気が漂っていたことは今も忘れられない。中東勢は手ごわいし、アウェーの雰囲気も独特だ。ゲームの入り方からしっかりしていかないとダメ。前回の最終予選のように足をすくわれてしまう。

アジア杯についても、やはり油断はできないけど、はっきり言って優勝以外は考えられない。優勝して当たり前という姿勢で臨まないといけない。どこの国と当たっても、必ず勝つこと。それを今の僕ら日本代表はスタンダードにする必要がある。皆さんにはこれからも期待していてほしい。


板倉滉プロフィール
板倉滉(Ko ITAKURA) 
1997年1月27日生まれ、神奈川県出身。日本代表CB。川崎Fでプロ入り、19年に1シーズン在籍したベガルタ仙台からイングランド1部マンチェスターCへ移籍。その後、オランダ1部フローニンゲンドイツ2部シャルケへと移り、現在はドイツ1部のボルシアMGに在籍。昨年のカタールW杯ではベスト16入りの立役者となった。

構成・文/高橋史門 撮影/山上徳幸 写真/アフロ

板倉滉が語る、日本代表大躍進のワケ