JR東海は2023年10月30日深夜、東海道新幹線の車内で不審者が暴れたという想定で「実車を用いた異常時対応訓練」を実施しました。

定期的な訓練に新たな項目も

JR東海は2023年10月30日深夜、東海道新幹線の車内で不審者が暴れたという想定で「実車を用いた異常時対応訓練」を実施しました。

訓練の要点は大きく3つ。「非常停止ボタンが押された際、最寄りの通過駅に緊急停車する」「グループ通話システムによる連携」「駅ホームでの緊急降車」です。

一般的には非常停止ボタンが押されれば電車は非常停止します。しかしボタンが複数箇所で押されるなど不測の事態が発生した場合、最寄りの駅へ電車を走らせ、そこで降車対応などを行う必要が出てきます。今回は、進路上にある信号を指令が緊急で制御し、本来停まらない駅・ホームへ停車させるため、信号やポイントの切り替えを行う対応を実践訓練しました。

駅に列車が差し掛かると、停車までにホームドアは開放されていました。停車位置が多少ズレても、とにかくそこで扉を開けて乗客を下ろします。

警察や関係他社をふくめ200人を超える体制で終電後に行われた訓練。東海道新幹線を舞台に行われるのは昨年6月以来のことです。

スマホ通話システムで迅速な状況共有

非常事態は、新幹線が発車ししばらくした後に発生する想定で行われました。きっかけは客同士のトラブルです。

「あの、スマホから音が漏れてますよ。聞いてますか? 周りのみんなが迷惑してるんです。音を出すのをやめてください」
「あぁ?なんだとこら、おい。うっせえんだよ」
うるさいじゃなくて。なんですかいきなり。やめてくださいよ。あなたが悪いんですよ」
「ああこら?おい殺すぞこら!」
うわああああ!ナイフだ!」

騒然とする車内。客は我先に別の号車へ逃げていき、誰かが非常停止ボタンを押したようで、ピーピーと音が鳴り響きます。

「ただいま12号車で脅威発生、脅威発生、負傷者が出ている模様です」
「こちら車掌、現在8号車です。各クルー、現在位置を教えてください。避難の誘導をお願いします」
「マネージャー、8号車にいます。現場に急行します」

これらの連絡は、スマホを通じたグループ通話システムで、リアルタイムで各乗務員に共有されます。現場の状況も、現場にいるスタッフのマイクを通じて分かるようになっています。

「おい。開けろ!開けろっつってんだよコラ!」
「刃物を下ろしてください。落ち着いて」
「開けろっつってんだコラ!!」

不審者の位置は適宜通知され、反対側の貫通路から警備員がさすまたや盾を手に乗り込みます。不審者を足止めしているあいだに、車内に取り残された負傷者が運び出されます。あとは不審者だけになりました。

「おい開けろっつってんだよ!」

やがて電車は緊急停車駅に到着。不審者を車内に閉じ込めているあいだ、乗客が次々と降車していきます。降車が完了すると、代わりに乗り込んできたのは鉄道警察隊。やがて不審者は制圧され、確保となりました。

新幹線鉄道事業本部副本部長・運輸営業部長の近藤 雅文さんは「これまで異常事態への訓練を繰り返し行ってきましたが、今回の初めての試みとして、進路変更による緊急停車の実践訓練を取り入れました。上手くいったと手ごたえを感じています。これからも引き続き実践的な訓練に取り組んでいき、乗務員や関係者の対応力を向上させてまいります」と話しました。

東海道新幹線(画像:写真AC)。