MiZ株式会社は、慶應義塾大学の武藤佳恭名誉教授と共著で「糖尿病性腎臓病を含む様々な腎臓病の治療における水素分子の臨床使用と治療メカニズム」と題した論文を発表しました。
 糖尿病性腎臓病(DKD)は糖尿病が進展した患者さんに見られる合併症の一つです。DKDに対する様々な治療薬が開発されていますが、現在の医療はDKDから末期腎不全(ESRD、注1)への進展を止めることができません。DKDの発症や進展にはミトコンドリア(注2)機能や酸化ストレス(注3)が関与しているため、水素分子(H2)が有効性を示す可能性があります。そこで、本論文で我々は各種の腎臓疾患モデル動物およびヒトの透析患者に対するH2の有効性を報告した文献を調査し、その解析結果と我々のこれまでの研究成果を併せて考察してH2がミトコンドリア機能の保護作用を介してDKDに治療効果を発揮する可能性を示しました。
 本論文は、2023年10月17日(欧州時間)にスイスを拠点とする世界的な科学出版社のMDPI社が発行する雑誌・Biomedicines(IF: 4.8)に掲載されました。

研究の背景と目的

 慢性糸球体腎炎、腎硬化症、DKD、多発性嚢胞腎など、慢性に進展する疾患を包括して慢性腎臓病(CKD)と呼びます。DKDは糖尿病の合併症の一つであり、また重症化するとESRDへ進展するCKDの主な原因疾患でもあります。国際糖尿病連合が2021年における世界の糖尿病の有病率は10.5%(5億3660万人)に達し、2045年には12.2%(7億8320万人)になると推定しています。世界の糖尿病患者の急速な増加に伴い、DKDの患者数は増加の一途を辿っています。DKDはESRDへの進展のリスクだけでなく、心血管病を併発して死亡する主なリスクとなっています。糖尿病患者の約30~40%がDKDに進展しますので、DKDは世界の公衆衛生上や医療経済上の問題となっています。2022年において、ESRDのため透析治療を受けている患者数は米国および日本でそれぞれ約56万人および約35万人と報告されています。

DKDの発症と進展には多くの要因が関与していますが、その中でもミトコンドリア機能の障害、酸化ストレス、炎症などの関与が強く示唆されています。最近の前臨床試験および臨床試験において、酸化ストレスを軽減する新しい治療薬がDKDの進展を遅らせる可能性が示唆されています。H2が様々な腎疾患モデル動物に有効性を示した論文は数多く報告されています。また、H2ガスの吸入療法または透析液にH2を含有させる療法が透析患者の酸化ストレスを改善させた論文も報告されています。しかし、私達の知る限り、H2がDKDに治療効果を示す可能性はこれまで知られていません。H2はミトコンドリア機能の改善を介して様々な疾患を改善させる効果がありますので、我々はH2が本総説においてH2がミトコンドリア機能の改善を介してDKDに治療効果を示す仮説を立てました。上記のH2が様々な腎疾患モデル動物に有効性を示した論文やH2が透析患者に効果を示した文献調査と私達のこれまでの研究成果に基づき、私達はH2がミトコンドリア機能の改善を介してDKDに治療効果を示す可能性を示しました。

文献調査の方法と結果

今回の研究で私達は、医学論文が掲載されているデータベースを様々なキーワードの組み合わせを使って検索し、H2が各種の腎臓疾患モデル動物およびヒトの透析患者に対するH2の有効性を報告した論文27報を選択しました。また、腎機能には血管内皮細胞の機能が影響を与えているため、H2が血管内皮機能に効果を示した論文7報を選択しました。それらの文献を解析した結果、H2が腎臓疾患および血管内皮機能に及ぼす効果には、ミトコンドリア機能の改善効果をベースとして、その他に抗酸化作用、抗炎症作用、細胞死の制御作用、細胞内情報伝達の制御作用が複合的に関与している可能性が示唆されました(図1)。

図1 腎臓疾患におけるH2の有効性メカニズム

H2のDKDに対する治療可能性

DKDの発症と進展には炎症が原因および結果となっています。自然免疫によって放出される炎症性サイトカイン(注4)により炎症が誘発されます。細胞外からのシグナルはミトコンドリアの機能不全を引き起こし、活性酸素種の過剰産生を誘導します。ミトコンドリア内で過剰な活性酸素種の産生が生じ、酸化されたDNAが細胞質へ放出されると、NLRP3と呼ばれるインフラマソーム(注5)の形成が誘発されます。そして、NLRP3インフラマソームは、カスパーゼ-1を活性化し、マクロファージや好中球などの免疫細胞から成熟した炎症性サイトカインが放出され、炎症が誘発されます(図2)。

図2  H2がDKD患者のミトコンドリア障害を改善するメカニズム仮説

また、DKDの間質病変形成には高度タンパク尿が進行リスクとなっています。高度タンパク尿に伴う尿細管間質障害では、遊離脂肪酸の過剰再吸収により尿細管障害が惹起されますが、そのメカニズムにはミトコンドリア障害を介したNLRP3インフラマソームの活性化が関与しています。また、腎臓の炎症や線維化にはミネラルコルチコイド受容体(MR)の活性化が深く関与しており、MRの活性化によりミトコンドリアの活性酸素種の産生が誘発されます。さらに、DKDでは糸球体上皮細胞におけるカスパーゼ-1の活性化が糸球体硬化病変の形成に重要である可能性が示唆されています。

一方、炎症疾患モデルに対するH2の有効性を調べた多くの文献から、H2が急性炎症および慢性炎症を抑制するメカニズムには、H2によるミトコンドリアの活性酸素種の産生抑制が関与していることが示唆されています。そこで、私達はH2の炎症疾患モデルに対する有効性のメカニズムとして、H2が活性酸素種の中のヒドロキシルラジカルを還元しミトコンドリアDNAの酸化的損傷を抑制し、その結果、NLRP3インフラマソームの活性化から炎症性サイトカインの放出に至る一連のシグナル伝達経路が抑制される可能性を提唱しました。H2は、NLRP3インフラマソームの活性化を抑制し、DKDにおける炎症や線維化を改善することにより、DKDの間質病変形成を改善する可能性があります。最近、私達はH2が様々な疾患モデル動物ならびにコロナウイルス感染症2019(COVID-19)の「後遺症」(post COVID-19)や筋痛性脳脊髄炎/慢性疲労症候群(ME/CFS)などのヒト慢性炎症疾患に有効性を示すメカニズムには、H2によるミトコンドリア機能の改善が関与していることを示しました。これらの結果は、H2がミトコンドリア機能の改善を介してDKDに治療効果を示す可能性を示唆しています(図2)。

結論

H2の治療効果は広範囲の疾患で認められ、130報を超える臨床論文でその有効性が報告されています。これらの臨床論文ではH2の副作用は認められていませんので、H2は有効性と安全性に優れた医療ガスであると言えます。また、H2は利便性の良いガス状分子であり、ガスとして直接吸入するか、あるいは水または生理食塩液に溶存させて飲用または点滴投与することができます。さらに、H2は体内動態や細胞内動態に優れた特徴を持ちます。現在、酸化ストレスやミトコンドリア機能の改善を標的とする多くのDKD治療薬が開発途上にありますが、有効性と安全性に優れた治療薬は出現していません。DKDの発症や進展にはミトコンドリア機能障害、酸化ストレス、炎症、細胞死が密接に関わっていますので、H2が有効性を示す可能性があります。H2が様々な腎疾患モデル動物やヒト透析患者に有効性を示したメカニズムと私達のこれまでの研究結果は、H2のDKDに対する治療可能性の根拠となります。この可能性を実証するための大規模な臨床試験の実施が必要です。

論文

英文タイトル:Clinical Use and Treatment Mechanism of Molecular Hydrogen in the Treatment of Various Kidney Diseases Including Diabetic Kidney Disease

タイトル和訳: 糖尿病性腎臓病を含む様々な腎臓病の治療における水素分子の臨床使用と治療メカニズム

著者名:平野伸一1、市川祐介1、佐藤文平1、武藤佳恭2,3、佐藤文武1

所属: 1 MiZ株式会社、2慶應義塾大学、3 武蔵野大学・データサイエンス学部

掲載雑誌:Biomedicines 2023, 11, 2817

論文URL:https://www.mdpi.com/2227-9059/11/10/2817

[用語解説]

注1(末期腎不全、ESRD):腎臓の障害がゆっくりと進行し、腎機能が障害される病気を慢性腎臓病(CKD)と呼ぶ。CKDの進行に伴い腎機能が障害された状態を慢性腎不全と呼ぶ。そして、腎不全が悪化し、ついには命にかかわる状態になると、腎臓の代わりとなる治療、いわゆる腎代替療法(透析、移植)が必要となる。このような状態、または近い将来に、そうなると診断される状態をESRDと呼ぶ。ESRDの原因の中で最も多いのはDKDで、約4割を占める。

注2(ミトコンドリア):真核生物の細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNA を持ち、分裂および増殖する。ミトコンドリアDNAはATP合成(エネルギー合成)以外 の生命現象にも関与する他、酸素呼吸の場として知られている。

注3(酸化ストレス):活性酸素は、細胞伝達物質や免疫機能として働く一方で、過剰な産生は細胞を傷害し、がんや生活習慣病など様々な疾患を誘発する要因となる。そのため生体内には、活性酸素種の傷害から生体を防御する抗酸化防御機構が備わっているが、活性酸素種の産生が抗酸化防御機構を上回った状態を酸化ストレスという。

注4(炎症性サイトカイン):サイトカインとは、主に免疫細胞から分泌される蛋白質で、細胞間 の情報伝達を担っている物質である。サイトカインの中でも炎症症状を引き起こすものを 炎症性サイトカインと呼ぶ。

注5(インフラマソーム):複数のタンパク質からなる複合体で、細胞質内の異物(病原微生 物成分や尿酸結晶など)を宿主細胞に対する危険シグナルとして認識し、細胞内の シグナル伝達を介して炎症性サイトカインの遊離を行い、炎症反応の誘導や進展に 重要な役割を果たす。

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