国際社会の経済制裁に苦しんでいた北朝鮮にとって、観光業はドル箱産業だ。メインターゲットは、13億もの人口を擁する隣国、中国からの観光客である。

国境を流れる鴨緑江を挟んで北朝鮮と向かう合う中国の丹東には、北朝鮮を眺めようと多くの中国人観光客が訪れていたが、北朝鮮当局は対岸にある新義州(シニジュ)を、パスポートを持たずしても日帰り観光が楽しめる地域として開放し、多くの中国人観光客を受け入れた。ツアー代金は食費、交通費込みで800元(約1万6400円)ほどで、手頃に楽しめる海外旅行だった。

一時はキャパシティを超える観光客が押し寄せ、受け入れ制限を行うほどの盛況ぶりだった。ところが2020年1月、新型コロナウイルスの世界的流行を受け、外国人観光客の受け入れを急遽中止し、国境を完全に閉じてしまった。観光業に携わっていた人はたちまち困窮に追い込まれた。

北朝鮮は、今年になってようやく国境を段階的に開放し、外国人観光客の受け入れに向けて準備を進めている。8月の最高人民会議常任委員会全員会議では、観光法が採択された。その内容は明らかにされていないが、外国人観光客の受け入れ拡大、それに向けた環境整備に関する法律と見られている。

この法採択の後続措置として、革命の聖地を観光地として売り出す議論が行われていると、両江道(リャンガンド)のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

民族の霊山と言われる白頭山を擁し、故金日成主席が抗日パルチザン活動を繰り広げ、故金正日総書記の生まれ故郷とされている両江道の三池淵(サムジヨン)市は、ここ数年で都市の大改造が行われた。この三池淵を観光都市とするプランについて、朝鮮労働党両江道委員会(道党)は、道内の観光部門のイルクン(幹部)を集めて今月中旬に拡大会議を開いた。

道党は、三池淵を世界的な観光都市にして、両江道が観光業で経済的に自立できなければならない、観光収入で党の資金確保に乗り出そうと強調した。そして、国をあげて三池淵を大改造し、三池淵郡から市に昇格させたのも、観光都市化が目的だと明らかにした。

現在、白頭山は中国の吉林省側から登るのが一般的だが、北朝鮮側から登る方がより景色が良いと言われている。また、中国側ではオーバーツーリズムが問題になるほど観光客が多い。そこで、外国人観光客を受け入れて白頭山ツアーに加え、踏事(革命史跡地の聖地巡礼)、三池淵市内の見学を抱き合わせで行うよう、行財政機関に指示した。

中国では、共産党の辿った歴史を巡るレッドツーリズムが盛んに行われているが、これを北朝鮮でも外国人を対象に行なって、自国のイメージを高めようというものだ。

道党はさらに、外国人観光客を誘致するには、観光関連の知識も必要だとして、解説員、案内員(ガイド)、通訳などの観光部門従事者に対する講習を頻繁に行い、試験を実施して実力を高めるべきとした。

一般住民にも、外国人観光客の受け入れに当たって基本的な資質が必要だとして、革命の聖地、革命烈士の魂が宿る革命史跡地、戦績地を大切にして、保護、管理、整備システムの立ち上げを求めた。

国家観光総局は今月中に、三池淵が内外の観光客を同時に受け入れられるかについて施設の検討を行うが、道党は現地視察で恥をかかされることのないように、革命の聖地を品格のある姿にするよう事前準備を行えと指示した。

北朝鮮は白頭山以外にも、2000メートル級の山を58座も擁し、高原植物の咲き乱れる高原、温泉、仏閣など観光業のポテンシャルはなかなか高いものがある。しかし、「外国人に見せたいものを見せる」という発想が強すぎて、観光客が何を求めているかの需要の読みが甘く、金正恩総書記の思いつきで的はずれなハコモノが作られてしまう傾向にある。

馬息嶺(マシンリョン)スキー場、元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区、陽徳(ヤンドク)温泉文化休養地がその悪しき事例と言えよう。

三池淵市の全景(画像:労働新聞)