ScTN質問紙に、無料でご利用いただける新たなパッケージ「+1(多重知能)」を追加しました

一般社団法人School Transformation Networking(ScTN)では、データの取得や連携、分析の基礎理論となるパラメータ体系として、(1)育成を目指す「資質・能力」、(2)(1)のために必要な「学習経験・教育環境」とともに、(3)(1)の育成や(2)の選択に影響する「気質・器質(素質)」を設定しています(下図)。


当法人の提供及び管理下にあるScTN質問紙(主体的・対話的で深い学びのための意識・実態調査質問紙)では、これまで、(1)と(2)に関する三つのパッケージ(ライト、ベーシック、アドバンス)を公開してきました。


このたび、(3)の「認知的個性」領域に関するパッケージとして「+1(多重知能)」を公開しましたので、お知らせいたします。

図 データの取得や連携、分析の基礎理論となるパラメータ体系

本パッケージは、学習や生活の場面における一人ひとりの「好き」や「得意」を捉える一指標としてご活用いただけるものです。既に公式ウェブページ内(https://sctn.jp/questionnaire)のファイル※1, 2を更新する形で公開しており、これまでに公開してきた全パッケージと同様、無償でご利用いただくことができます。また、現在、文部科学省が提供するMEXCBTへの搭載も申請しているところです。

※1 ScTN質問紙の内容(https://00m.in/S8bQ3、Googleスプレッドシート形式)

※2 ScTN質問紙の作成過程における調査の結果等(https://00m.in/yztTe、Googleスプレッドシート形式)

■認知的個性を捉えるための多重知能理論

知能に関する代表的な理論(捉え方)に、「一般知能説」と「多重知能説」があります。今回公開した+1パッケージは後者を継承して開発したものであり、全8つの知能側面それぞれについて「好き‐嫌い」「得意‐苦手」(いずれも5件法)で回答する計16問(=8×2問)から構成されます。


しかしながら、知能については、一般知能説を支持するエビデンスが多くあることも確かです。


たとえば、言語や計算、図形、記憶といった一見、異なる知能側面を対象にしているように思えるテストの結果間には、統計的に相関関係が認められます。このような分析結果からは、情報処理の大元になる知能(一般知能)がまずあり、その下でさまざまな側面の情報処理を行う知能(特殊知能)が働いているという知能の階層構造が仮定されます。最近では、脳神経学の知見もこれを支持しているようです。


一方、少し視野を広げてみると、知能、ひいては能力に関しては、その他にもさまざまな捉え方があることに気付きます。


たとえば、行動遺伝学の知見である「内的感覚」。私たちの理性による疑いや抗いを超えてなお「好きだな」「できそうだな」といった感覚が到来する物事については、遺伝的に素質がある可能性が高いというものです。


あるいは、社会学の知見である「能力の社会的構成」。そもそも能力は個人に備わった実体などではなく、選抜をはじめとしたその時代の社会システムによって仮定されたものにすぎないと捉える説です。


さらに、哲学の知見である「能力の共同性」。仮に知能や能力が個人に備わった実体だとしても、それは常に社会関係の中で発揮されるものであると捉える説です。


当法人では、現時点で、かつ、人間を生物学的側面から捉える場合には、情報処理の基本型ともいえる「経次処理/同時処理」の個人差や社会学的な概念としての出自をもつ「脳多様性(ニューロダイバーシティ)」も考慮した上で、一般知能説が妥当ではないかと考えています。そのうえで、教育という文脈においては、内的感覚を基盤とし、能力の社会的構成と共同性の側面を十二分に考慮して成長のための学びに伴走することが望ましいと考えております。


このような考えを前提すると、多重知能説には、「一般知能の対抗説」というこれまでの位置とは異なり、「認知的個性として自分の『好き』や『得意』を見付けるための手掛りとなる理論」という独自の地位を与えることができます。


つまり、公教育の本質である「自由と自由の相互承認の実質化」、正当性の原理である「一般意志に基づく普遍福祉」に照らし、誰もが共に自分らしく生きられるよう、互いの得意を生かし苦手を補い合えるような仕方を発見し伸ばす理論の一つとして多重知能説を活用できるということです。

■具体的な質問項目と今後の展望

 以上の考え方、すなわち、当法人が提唱する「哲学原理とエビデンスに基づいた実践(P-EBP: Philosophical principles and Evidence Based Practice)」として作成した+1パッケージの質問項目は、以下のとおりです。多重知能説が提唱する8つの側面を認知的個性を捉える一指標として継承しており、統計的にも一定の妥当性・信頼性を確認しています。

  1. 【言語】本を読んだり、文章を書いたりすること。

  2. 【論理数学】数の計算をしたり、物事を順序立てて考えたりすること。

  3. 【空間】大きさや広さを見積もったり、地図を書いたりすること。

  4. 【身体運動】運動したり、気持ちを身体の動きで表現したりすること。

  5. 【音楽】リズムを取ったり、思い付いたメロディを口ずさんだりすること。

  6. 【対人】他の人の気持ちを想像したり、いろいろな人と仲良くなったりすること。

  7. 【内省】自分の気持ちを確かめたり、他の人と自分の違いを考えたりすること。

  8. 【博物】興味のあることを調べたり、たくさんのものをグループに分けたりすること。

     ※それぞれについて「好き‐嫌い」「得意‐苦手」(いずれも5件法)で回答


しかしながら、多重知能説については、「なぜ、この8つの側面なのか」ということを筆頭に批判的な意見があることも承知しております。認知的個性の一指標として多重知能に関する+1パッケージをご利用いただく際には、この点を十分にご考慮いただければ幸いです。


そして、願わくば、もっとよい知能・能力側面の分類がないかどうかを吟味しながらご活用いただき、それを、よりよい成長のための学びや教育を伴走する理論の発展につなげていただければ、当法人として望外の喜びです。

■主な参考文献

・ハワード・ガードナー『MI:個性を生かす多重知能の理論』新曜社、2001年

・安藤寿康『能力はどのように遺伝するのか』講談社、2023年

・竹内洋『日本のメリトクラシー増補版』東京大学出版会、2016年

・竹内章郎『「弱者」の哲学』大月書店、1993年

・トーマス・アームストロング『脳の個性を才能にかえる』NHK出版、2013年

配信元企業:一般社団法人School Transformation Networking

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