日本銀行の金融政策決定会合が10月30日-31日にかけて行われ、日銀はYCC(イールドカーブ・コントロール、長短金利操作)の運用を一段と柔軟化させる決定を行った。7月に、金利の上限を1%とする修正が実施されたばかりだが、わずか3ヶ月での再修正となった。いよいよYCCの廃止なのか……、それともマイナス金利の解除が近づいているのか……。日銀の金融政策の大きな転換点が近づいていると言っていいかもしれない。そんな中で11月の為替相場はどうなるのか……。外為オンライン・シニアアナリストの佐藤正和さんに11月の為替相場の見通しを伺った。

――日銀が長期金利の上限を1%超に柔軟化すると決定しましたが……?

 日銀は、金融政策決定会合でYCCの再修正を決定しました。10年物国債の金利上限を、今年の7月に0.5%から1%へと見直したばかりですが、わずか3ヶ月で1%を上限ではなく「めど」とすることで、一定程度超えることを容認すると発表しました。長期金利の許容範囲を超えることを容認したことで、これまでの厳格なYCC運用が見直されることになります。市場機能の低下を避ける狙いがあったとされています。

 賛成8、反対1の賛成多数で決定したと報道されていますが、長期金利をゼロ%程度に誘導する「ゼロ金利政策」、さらに民間銀行の一部の金利をマイナスに設定するマイナス金利政策やETF(上場投資信託)の買入といった大規模緩和は依然として継続すると発表しています。市場関係者の間では、想像以上の「ハト派」だった会合と評価されたようです。

 3か月前、長期金利の上限を1%に拡大した際に、植田日銀総裁は「1%を超えることは想定していない」と発言をしましたが、わずか3ヶ月で「1%超」まで容認することになりました。その背景には米国長期金利の上昇があり、連動する形で日本の長期金利10月31日には0.955% まで上昇。1%に限りなく近づいていたことも、今回の再修正につながったと考えられます。
 
――日銀が動いた背景には何があるのでしょうか?

 今回の金融政策決定会合では、2023年度~25年度の物価見通しも上方修正されました。31日に公表された「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」によると、消費者物価指数の見通しは、23年度が前回2.5%((生鮮食品を除くコアCPI、以下同)だったのを2.8%に、24年度も前回の1.9%から2.8%へと上方修正。一方で、25年度は前回1.7%だったのが1.6%に下落すると予想しています。

 こうした日銀のインフレ見通しは日銀独特の指標を用いて判断されており、「(1)刈込平均値、(2)最頻値、(3)加重中央値」といった指標を試算して「基調的なインフレ率」として判断されています。しかし現在、この3つの指標はいずれも2%を超えており、統計的な意味でも目標であった年2%のインフレ率を超えているのが現実です。日銀は、現在の大規模金融緩和の修正を迫られている、と言って良いでしょう。

――「FOMC」も開催されていますが……?

 米中央銀行のFRB(連邦準備制度理事会)によるFOMC(連邦公開市場委員会)が、10月31日から11月1日のスケジュールで開催されていますが、いまのところ米国の金利は2回連続の据え置きになる、と予想されています。当初、予定されていた年内にもう一度利上げがあるとすれば、次の12月12日-13日のFOMCで利上げになると見られています。

 米国経済は依然として順調で、景気、雇用ともに順調な推移を見せています。本来12月は決算があるため利上げをするタイミングとしてはベストではありませんが、好調な経済を考えると年内利上げが妥当かもしれません。とりわけ、イスラエルによるガザ地区への地上侵攻やウクライナ戦争などによって、中東情勢が不安定化しており、インフレへの懸念は依然として継続。今後も利上げは続くことになると考えられています。

 11月は大きなイベントはありませんが、景気指標には要注目です。とりあえず11月3日に発表される10月の雇用統計も、大きな影響を与える可能性があります。非農業部門雇用者数の増加予想は19万人増(前月は33万6000人)、失業率は9月同様に10月も3.8%と予想されています。

――今後ドル円相場はどこまで円が売られていくのでしょうか?

 日銀のYCC再修正というハト派的な姿勢が明らかになるや1ドル=150円を再び超えて円が売られました。1ドル=150円を超えると財務省による為替介入があるのではないかという懸念が出てきますが、今回発表された資料の中で注目されたものに「為替介入実績」があります。政府が為替介入をやったかどうかがわかる資料です。

 今回は、この10月3日に起きたドル円相場の大きなボラティリティが、政府による為替介入だったのかに注目が集まりましたが、結果的には財務省の市場介入はゼロでした。政府による市場介入があった場合には、政府は150円を超えることを許さないと判断されますが、介入がなかったわけですから、投資家はもっと上のラインを狙えると判断するはずです。

 実際に、ニューヨーク市場では151円70銭台を付けており、もし151円94銭を超えるようなことになれば33年振りのドル高円安水準になります。また、ユーロ円も15年ぶりとなる1ユーロ=160円台を付けました。

――11月の予想レンジを教えてください。

 11月で注意したいのは、米国の債務上限問題があります。共和党の内紛でなかなか決まらなかった下院議長もトランプ氏の指示を受ける保守派のジョンソン氏が就任しましたが、共和党が消極的なウクライナ支援とは分けて審議されるイスラエル支援がスムーズに行くのか。暫定的なつなぎ予算を成立させて、政府機関封鎖を避けつつ時間稼ぎをする戦術のようですが、要注目です。

 米国の利上げや地政学リスクの高まりによる資源価格高騰への警戒などなど、為替も含めて11月もまたボラティリティの大きな金融相場になりそうです。11月の市場予想は次の通りです。

●ドル円……1ドル=147円-153
●ユーロ円……1ユーロ=152円-162円
●ユーロドル……1ユーロ=1.04ドル-1.08ドル 
●英国ポンド円……1ポンド=178円-185円 
●豪ドル円……1豪ドル=93円-96円50銭

――11月相場ではどんな点に注意すべきでしょうか?

 決定会合後の記者会見で植田総裁が指摘していたのが、想定外の米国の金利上昇のスピードでした。わずか3ヶ月で1%という長期金利の上限を再修正せざるを得なくなったのも、外部要因が大きかったからというわけですが、1%を「めど」としたことで、今度は日本の長期金利が想定外の上昇になるかもしれません。

 加えて、イスラエルの地上侵攻からイランイエメンレバノン(ヒズボラ)などが関わってくれば、かつての石油危機のような状況が再燃しないとも限りません。そうした状況を考慮に入れながら、為替市場と付き合う必要があります。ある程度ポジションを抑えながら、急激な変動に対応できるように準備しておくことが大切かもしれません。小まめな利益確定を心がけましょう。(文責:ウエルスアドバイザー編集部)。

YCC再柔軟化で「円安」が加速?外為オンライン・佐藤正和氏