空前の将棋ブームの功労者は、藤井聡太八冠だけじゃない。好敵手の永瀬拓矢九段や日本将棋連盟羽生善治会長の存在も大きいのだ。羽生会長は10月28日放送のABEMA「NewsBAR橋下」に出演。自らと藤井八冠の世代間ギャップと違いについて言及した。

「例えば言葉で話していても、世代が違えば言葉使いも違う」

 まずは一般論から始まり、将棋の戦法の違いについて話を広げていく。

「ルールは同じでも、自分にこういう発想はないとか、こういう手は好みだとか、そういうのが微妙に違うんですね。その違いを詰めていかないと、なかなか新しい人の感覚を取り入れられないんです。勉強してきた背景や知識の違いというところがあるんだと思います。将棋ソフトを使って勉強してきていたりだとか、そういう影響は共通しているものとして間違いなくありますね」

 羽生会長はAI将棋を否定していたが、悲願のタイトル通算100期への挑戦と若手棋士対策のため、この1年でAIとの向き合い方を変えたと言われる。

 羽生会長が長らく思考の拠り所としていたのは「脳内将棋盤」だ。これは実際に対戦している将棋盤とは別に、棋士の頭の将棋盤を動かして形勢判断や戦術をイメージしていく、プロ棋士ならではの特殊能力。羽生会長は同番組で、次のように説明している。

「脳内盤は4分割。全部を覚えているわけではなくて上、右下、みたいな感じで覚えています」

 過去のプロ棋士との対戦も、脳内盤に再現する形で記憶していると明かした。

 ところが藤井八冠は「脳内盤はありません」と答えている。藤井八冠の読みと戦術は盤をイメージせず、コンピューターの思考回路に近い。筆者のような羽生世代には、藤井八冠がどのように1000手以上の選択肢から最善手を選んでいるのか、全く想像がつかない。

「脳内将棋盤がある」羽生会長の七冠達成時と「脳内に将棋盤はない」今の藤井八冠が対戦したら…。過去に尋ねられた羽生会長は、

「全然かなわないですけど。全くかなわないです」

 実にあっけらかんと、笑顔で答えたのだった。

 だが羽生会長がすごいのは、50歳を過ぎてから、七冠の偉業を確立した「脳内盤」に執着せず、AI将棋という異種格闘技に挑戦したことにある。中年になって、脳や思考回路はそう簡単に変えられるものなのか。

 10月30日には第73期ALSOK杯王将戦で、後手の羽生会長が渡辺明九段を80手で下し、王将戦の挑戦権の可能性を残した。羽生会長は3勝2敗、永瀬九段は3戦全勝。脳内盤とAI将棋を組み合わせた羽生会長と、AI将棋を追求する永瀬九段の対決は11月14日の予定だ。

(那須優子)

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