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 羊は本来群れで暮らす生き物だ。仲間を思いやる共感力もあるし、絆を築くこともできる。ところがイギリススコットランドの北部ハイランド地方には、2年間ずっと崖のふもとに1匹だけで取り残されている羊がいる。

 その羊の毛は伸び放題で、ひとりぼっちでとても寂しそうだ。

 2年前、ある女性はこの羊と遭遇した。羊は悲しそうに鳴きながら後を追いかけてきたという。だがその2年後、女性が再び同じ場所を訪れると、孤独な羊はまだそこにいて、必死に女性に近づこうとしたという。

 女性は羊を気の毒に思い、保護するよう救助を要請したが、スコットランド動物虐待防止協会は「危険な状況ではない」という理由で拒否したという。

【画像】 ひとりぼっちで崖にいた羊と遭遇、人間の後をついてくる

 スコットランド・ハイランド北部サザランド州に住むジリアン・ターナーさんが、ひとりぼっちでぽつんと佇む羊に遭遇したのは2021年のことだ。

 ターナーさんはちょうどカヤッククラブの仲間とともに、険しい崖のふもとの海岸線をカヤックを漕いで移動している最中だった。

 羊を最初に見たとき、ターナーさんは羊が岩肌を登って仲間のもとへ帰っていくのだろうと思ったという。

険しい岩だらけの海岸線の下の砂浜に羊を見つけました。

私たちの姿を見て羊は悲しそうな鳴き声をあげて海岸沿いをついてきました。もうこれ以上進めないというところまで、羊は私たちの後を追ってきました。

 羊はきっと寂しかったのだろう。あるいは人間に救いを求めていたのかもしれない。

2年後、同じ場所で同じ羊に遭遇

 その光景は、ターナーさんの心を痛めるには十分だった。ところが、2年経って同じ場所へ戻ってきたときにも、羊はまだ1匹だけでそこにいたのだ。

 ターナーさんは、驚きとともに胸が張り裂けそうになった。2年経った羊の毛は背中の部分が地面に触れるほどに伸びていた。

まさかまだ同じ場所にいるなんて、なんてかわいそうなんだと思いました。あの羊は少なくとも2年間、自力で生きてきたようです。

群れで暮らす動物にとって、たったひとりぼっちで生きることは拷問に等しいと思います。

私たちが羊の前を通り過ぎた2回とも、羊は私たちと接触しようと必死でした。きっと助けを求めていたのでしょう。

羊の救助を要請するも断られる

 ターナーさんはなんとか羊を救助し、他の羊がいる場所に保護することはできないものかと、様々な機関に問い合わせた。

ケアンゴーム山岳救助隊に連絡したところとても同情してくれましたが、警察や消防隊のような緊急サービスからの要請がない限り何もできないと言われました。

SSPCA(スコットランド動物虐待防止協会)にも連絡しました。担当者は同情的でしたが、検査官から連絡があり、羊がいることは認識しているが、危険はないので救助はしないと言われました。

 ターナーさんは羊の様子を見るために崖の上を歩いてみたが、トゲのある植物がたくさん生えていて、羊がいる場所へのアクセスは困難だったそうだ。

 この羊の所有者は不明だが、近くに住む農家の人は何度も羊を助け出そうと試みたそうだ。だが、ここは複雑な地形で救助には危険が伴う。

 救助隊が使うような専用の道具がないと助け出すことは困難で、断念せざるを得なかったようだ。

 また今回、孤独な羊の件がメディアで伝えられたことで、危険を冒してまで羊を助けようとする人が現れ、怪我をするのではないかと、地元の人は心配しているという。

 最近イギリスは豪雨に見舞われ、スコットランドを襲ったひどい嵐はターナーさんにこの羊の窮状を一層心配させることとなった。

あの羊があんなところでたった1匹で生き延びられるかどうか心配です。

大きな海が押し寄せてきて大水が溝を流れ落ちたのですから、致命的ではないにせよ羊にとってはトラウマになったに違いありません。

ドローンで羊を監視中

 羊の救助は今のところ成し遂げられていないが、ターナーさんによると、海岸からのアクセスは可能なので救助チームを結成し、羊を保護することは不可能ではないと言う。

私自身羊を飼ったことがあるので可能だと思います。あの羊をなんとかして他の仲間の羊たちと一緒に数年でも過ごさせてあげたい。

 ひとりぼっちで佇むこの羊は、地元の農家の羊とは品種が違うようだが、一時的に近くの放牧地にいた羊の群れの1匹ではぐれてしまったのかもしれない。

 過去2年間、定期的にこの羊を目撃している地元の住人はこのように語った。

あの辺りには洞窟がいくつかあり、少なくともそのひとつに羊が避難していると思われます。

でも、天候のこともあるしあんなに露出した場所で2年も生き延びてきたのは、やっぱり驚くべきことです。

 SSPCAがこの羊を群れに戻すための救出作戦は行わないと発表したため、羊の孤独な生活は当分続きそうだ。

 同協会のマイクフリン主任管理官は次のように述べている。

SSPCAは、ブローラの崖下に取り残された羊のことを把握しています。この羊はこの地域で十分に草を食べることができてます。

所有者が誰なのかを確認できていません。天候が回復し安全が確認されれば調査を続ける予定です。

 今のところ、ドローンによる羊の監視が行われているとのことだが、ニュースで羊のことを知った人々からは「お願いだから助けて保護してあげて」といった声が相次いでいる。

References:Britain’s ‘loneliest sheep’ marooned at foot of Scottish cliff for two years/ written by Scarlet / edited by parumo

 
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2年間ひとりぼっちのイギリスで最も孤独な羊、今も仲間を思いながら崖で生きる