北朝鮮で配給は、自分が所属する工場、企業所、機関、朝鮮人民軍北朝鮮軍)などを通じて受け取ることになっていた。しかし、1990年代以降にそのシステムが崩壊し、まともな配給が行われなくなった。

そこで、企業や行政機関、軍は自前の農地を持つようになった。これを「副業地」と呼ぶ。個人でも「トゥエギバッ」と呼ばれる自前の農地を持っている人が多い。当局はそんな畑を協同農場のものとして組み込む方針を示していたが、どうやらうまくいっていないようだ。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の金策(キムチェク)にある城津(ソンジン)製鋼所も、他の企業所同様に副業地を擁しているが、そこで取れたトウモロコシを盗んだ青年同盟員2人が摘発された。しかし、処罰が非常に軽いもので済まされたことが話題になっていると、現地のデイリーNK内部情報筋が伝えた。

城津製鋼所の従業員は、9月末から10月初めにかけて副業地で収穫したトウモロコシを、朝に倉庫から出して工場内の空き地で乾燥させ、夕方になったら倉庫に移すという作業を行っていた。それを見た2人の青年同盟員は、倉庫から2つの麻袋に入ったトウモロコシ35キロ分を盗んで、警備に当たっている保衛隊員(警備員)2人にカネを掴ませ、正門から逃走した。

翌朝、麻袋がなくなっていることに気づいた経理課の職員が上部に報告した。秘密裏の調査の結果、青年同盟員の犯行であることがわかった。取り調べで2人は「トウモロコシは近隣の居酒屋に売り渡して、酒10リットルと現金を受け取った」と自白したという。

これを受けて城津製鋼所は10月下旬に、青年同盟員を対象にした思想闘争会議を開いた。これは吊し上げ、人民裁判のようなものだ。盗みを働いた2人には3カ月間の無報酬労働、ワイロを受け取った2人の保衛隊員には4カ月間の無報酬労働の処罰の処分が下された。

その結果を見た従業員と青年同盟員のほとんどから、こんな声が上がった。

「軽い処分で済まされてよかった」

協同農場でも副業地でも、穀物の窃盗が相次いでいる。生活費を稼ぐため、私腹を肥やすためとその理由は様々だが、当局は穀物窃盗犯に対して銃撃を許可するほど、厳しい対処を行っている。

穀物は本来、個人間の売買が禁止され、国からの配給でのみ得られることになっていたが、1990年代に配給システムがまともに機能しなくなったことで、なし崩し的に穀物の市場での売買が行われるようになった。国に納めるより市場で売り払ったほうが儲かるため、農場の場合は農民、企業所の副業地の場合は従業員による窃盗が相次いだ。

穀物流通の主導権を取り戻したい当局は、窃盗に対して厳罰で対処するようになった。

もし、今回の事案が企業所内の安全部(警察署)や朝鮮労働党委員会の書記の耳に入っていれば、激しく騒ぎ立てて、4人には重罰が下されていただろう。しかし、後方部(補給担当部署)の支配人など行政イルクン(幹部)が思想闘争会議を主導して、軽い罪で済まされたというのが、情報筋の説明だ。

従業員の間では、「第1回各道・市・郡人民委員長講習会をきっかけに、行政イルクンの権限が強化されたのではないか」との噂が流れている。

道・市・郡人民委員会(道庁、市役所、郡庁)のトップを集めて9月29日から10月2日まで、平壌の朝鮮労働党中央委員会の会議室で行われた今回の講習会では、「市・郡人民委員会の機能と役割を画期的に強めるための方途的問題が取り扱われた」と国営の朝鮮中央通信は伝えている。

北朝鮮のすべての組織、企業では、朝鮮労働党が指導的役割を担うことになっている。党の方針には詳しくても、経営や技術に関しては門外漢である彼らが企業経営に口出し、無理な技術開発などを強いて事故に繋がるなど、様々な弊害が出ている。このような体制に何らかの変化が生じたのか、詳細は不明だ。

黄海北道黄州でのトウモロコシの収穫の様子(画像:労働新聞)