強大な力を有する巨人と、それに抗う人類との壮絶な戦いを描いたテレビアニメ「進撃の巨人」が、2023年11月4日(土)に放送される「The Final Season完結編(後編)」でついにフィナーレを迎える。2013年4月7日の第1期放送開始から10年間、ヒトの弱さと醜さを見せつけ、なぜ戦うのかを糾し、命の使い道を切に問いかけ続けてきた。人類のために己の心臓を捧げ、血と悪意を浴び、幾万の仲間の屍を築き、“人類最悪の事態”を幾度となく乗り越えてきた調査兵団の戦いも、これが最後となる…はずだ。

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■巨人を率いるエレンがすべてを無に帰す「地ならし」を発動

「進撃」「始祖」「戦鎚」と3つの巨人の力を手に入れ、フリッツ王家の血を引く異母兄ジークイェーガー(声:子安武人)との接触で「道」に到達し、始祖ユミルを掌握して「終尾の巨人」となったエレン(声:梶裕貴)は、100年にわたり悪魔の民、エルディア人に安寧をもたらしていた「壁の中の巨人」を率いて、すべてを無に帰す「地ならし」を発動させた。

いまや6人となった調査兵団の生き残りであるミカサ(声:石川由依)、アルミン(声:井上麻里奈)、ジャン(声:谷山紀章)、コニー(声:下野紘)、ハンジ(声:朴ろ美)、リヴァイ(声:神谷浩史)は、ライナー(声:細谷佳正)、マーレ軍のエルディア人戦士隊元帥テオ・マガト(声:斉藤次郎)、「車力の巨人」を所有するピーク(声:沼倉愛美)と共闘し、戦士候補生のガビ(声:佐倉綾音)、「顎の巨人」を継承したファルコ(声:花江夏樹)、地ならしと同時に目覚めた「女型の巨人」を有するアニ(声:嶋村侑)、そして唯一、地ならしの目的地を知る反マーレ派義勇兵のリーダー、イェレナ(声:斎賀みつき)を連れ、エレンを止めるために行動を開始する。

推定時速50kmで進む地ならしに先回りするために、フロック(声:小野賢章)が指揮するイェーガー派と戦い、キヨミ・アズマビト(声:吉沢希梨)がヒィズル国から持って来た飛行艇を手に入れたアルミンたちだったが、飛行艇を飛ばすためにマーレ南東にあるオディハへの移動と、半日の整備時間の確保を余儀なくされる。しかも、ようやく整備が終わったと思った瞬間、パラディ島からの輸送船に潜んでいたフロックの銃弾で、燃料タンクに穴が空いてしまう。

巨人たちの地響きが迫るなか、修理と燃料補給の時間を稼ぐため、単身で巨人群に挑んだハンジは、文字通りその身を燃やして飛行艇を飛び立たせることに成功した。そしてオディハへの移動中、思いがけない平穏な時間のなかでアニと心を通わせたアルミンは、「もう戦いたくない」というアニを労り、ガビとファルコと共にキヨミに託し、エレンの元へと向かう。

目指すは、進撃を続ける終尾の巨人のエレンオニャンコポン(声:樋渡宏嗣)の見事な操縦で「獣の巨人」の投擲攻撃をかいくぐり、その巨大な骨の上に降り立ったミカサアルミンジャンコニーリヴァイ、そして鎧の巨人のライナー車力の巨人であるピークの7名。ライナーがふと漏らした「エレンは俺たちに止めてもらいたいのかも」という言葉を希望に、アルミンは呟く。

エレン、もう一度質問させてくれ。キミのどこが自由なのかって」

2000年にわたる人類と巨人の未来を懸けた戦いの、最後の幕が開ける…。

なぜエレンは地ならしを決行したのか。そしてなぜ、アルミンたちはエレンに立ち向かうのか。我々視聴者にとっても「長い夢を見ていた気がする」その物語を、シーズンごとにかいつまんで振り返ってみよう。

■巨人を“駆逐”するため、調査兵団に入団したエレン

Season1で描かれたのは、ヒト対巨人の戦い。ヒトを捕食する巨人の出現により存亡の危機に陥った人類が、三重の巨大な壁を築いて生き長らえながら、巨人という恐怖に立ち向かう姿が英雄的に描かれる。

エレンは、壁内の世界に漂う閉塞感と理不尽な不自由さに、激しい怒りを抱く10歳の子どもだった。自由を守るためには人殺しも厭わぬその苛烈な性質は、目の前で巨人に母を喰われたことによる憎悪でさらに増し、「すべての巨人を駆逐する」という確固たる意志を持つに至る。そしてかねてから希望していた調査兵団に入るため、ミカサアルミンと共に第104期訓練兵団に入団し、死線を共に越えるかけがえのない仲間たちと出会い、3年間の訓練を経て卒業を迎える。しかしその直前、「超大型巨人」と「鎧の巨人」が出現。再び壁内に侵入してきた巨人の討伐作戦で、己の弱さを自覚しないまま直情的な行動に出るという愚を犯したエレンは、アルミンを助けたものの、巨人に捕食されてしまう。

その時、エレンに秘められていた巨人の力が発現。エレンエルヴィン(声:小野大輔)率いる調査兵団に入ることで、自身の巨人の力を利用し巨人と戦うことを願うが、憲兵団だけでなく、新たに出現した「女型の巨人」にも身柄をねらわれることに。自分を守るために巨人と戦う仲間を見殺しにして逃げだすほかない己の弱さを悔い、込み上げる苦しみと悲しみを噛み殺して、エレンリヴァイの下で兵士として研鑽を積む。その戦いのなかで、訓練兵団の同期生アニが女型の巨人であることが判明。人類存亡のためアニの正体を暴き、ストヘス区での激闘を経て、硬質化したアニの捕獲に成功する。そして同時に、壁の中に巨人が居ることが判明した。

■共に戦ってきた仲間が敵だったと知り、命の選択も迫られる

Season2で描かれたのは、巨人の謎。「無垢の巨人」を操る特殊能力を有した「獣の巨人」の出現により、敵対する複数の巨人の存在が明らかとなった。とりわけエレンを激怒させたのは、ライナーベルトルト(声:橋詰知久)の裏切りだ。エレンは、戦闘能力が高く、仲間からの信頼が厚いライナーにあこがれを抱いていた。しかし5年前のあの日、ウォール・マリアの扉を破り巨人を壁内に引き入れて、母や大勢の命を奪ったうえに、平然と飯を食い、自分の近くで笑い合っていられたのかと激昂し、巨人同士の戦いが始まる。

エレンミカサアルミンジャンコニーら第104期訓練兵メンバーは、巨人を狩るための刃を仲間に向けられるのか?己が戦う理由と覚悟、そして救うべき命の選択を迫られる。結局、巨人同士の戦いでエレンは負け、ライナーベルトルト、そしてクリスタ(声:三上枝織)の身の安全と引き替えに離反したユミル(声:藤田咲)によって連れ去られるが、エルヴィンの捨て身の作戦とエレンが無垢の巨人に命令する力を発動させたことで、からくも帰還を果たした。この戦闘によってエレンが、ライナーたち戦士が探し求めていた「座標」であることが判明し、対立の構図は、壁外の戦士と調査兵団の戦いへと移行していく。

■巨人の力を巡る壁内人類による政治劇と戦い

続くSeason3は、ヒト対ヒトの戦い。巨人という人類共通の敵を前にしてもなお、己の欲望を優先し、一つになることができない人類のひ弱な精神と醜悪な言動が、様々な人物の視点から語られ、同時に、嘘と欺瞞で人類を統治してきた王家の謎も明らかにされる。

二部構成のPart1は壁内の政治劇。エレンの引き渡しに応じず、壁と巨人の謎に迫る調査兵団に対して、王政府は調査兵団が巨人と結託していると糾弾し、エルヴィンの死刑を決定。しかし政権は、現王政府に見切りをつけたドット・ピクシス駐屯兵団司令官(声:田中正彦)およびダリス・ザックレー総統(声:手塚秀彰)と組んだエルヴィンクーデターにより奪取され、調査兵団は晴れて自由を手に入れた。

一方その裏では、壁内人類の真の王家の血を引くロッド・レイス(声:屋良有作)の命を受けたケニー・アッカーマン(声:山路和弘)が、憲兵団対人立体機動部隊を使ってエレンクリスタを強奪し、巨人の力を本来の持ち主(真の王家の継承者だと判明したクリスタこと、ヒストリア・レイス)に戻す儀式の準備を整えていた。己が持つ巨人の力と由来について知るほどに、自分はいらない存在だったこと、そんな自分を守るために多くの仲間の命を奪ったという罪の重さにエレンは絶望の涙を流し、完全に生を諦めてしまう。しかしヒストリアは「胸張って生きろ」というユミルの言葉を思いだし、継承の儀を拒否してエレンを解放。そこに救出にきたリヴァイたちも駆けつけた。

目の前で超大型巨人を凌ぐ大きさに変化するロッド。その熱に炙られながら、「役立たず」と自分を責め続けるエレンを励ましたのは、いままでがそうじゃなかったのかと言わんばかりのジャンコニーの軽口、そして自分たちが人類の敵だからこのまま死ぬのかと問い、人間なんて巨人に駆逐されちゃえばいいと、やや乱暴な論理で彼を鼓舞するヒストリアの言葉だった。最後にもう一度だけ、自分を信じることを赦してほしいと願いながら、「Armor」と書かれた液体を飲んで巨人の硬質化能力を使って仲間を救い、エレンは再び人類の希望に、ヒストリアは女王になる。

■ついに壁の外へと飛び出し、未来を視てしまうエレン

Part2は壁外巨人と壁内人類、つまり“同族”の殺し合いとなった。ウォール・マリアの内側からエレンを追い詰める鎧の巨人と超大型巨人、壁外の無垢の巨人を操り、瓦礫を散弾のように飛ばす投擲攻撃を繰りだす獣の巨人と、大型砲を背中に装備した車力の巨人を相手に、多くの犠牲を払いながら辛勝した調査兵団は、究極の命の選択(瀕死のエルヴィンアルミン、どちらを巨人化薬で救うか)を迫られる。

躊躇なくエルヴィンを選んだリヴァイに、刃を向けるミカサエルヴィンを悪魔と呼び、まだ地獄が足りないとエレンの訴えを阻止するフロック。そこに善悪も正誤もなく、あるのはただ、リヴァイの意志のみと思われたが、エルヴィンは過去の夢を見ながら、薬を打とうとするリヴァイの手をはねのける。その時リヴァイの脳裏をかすめた、夢をあきらめ、目を伏せるエルヴィンと、壁外の世界にある海について目を輝かせて語るアルミン。結局リヴァイアルミンを選び、巨人化したアルミンは瀕死のベルトルトを喰い、その身に超大型巨人を宿して復活した。

その後、イェーガー家の地下に残されていた父の手記を読み、父親の記憶に触れて巨人に関する知識を得たエレンは、始祖の巨人の力を持つ自分と、王家の血筋を引く巨人、つまりヒストリアを巨人化して接触させれば、ユミルの民を自在に操ることができるという危険に気づく。そして、ヒストリアと触れて未来を視てしまう。

■壁外世界との攻防を経て、仲間を犠牲しながらも突き進むエレンが目指すものとは?

The Final Seasonは、悲壮な覚悟を持って、一人でなにかを実行しようとするエレンの動きと、壁外世界の勢力を受け入れたゆえに起きた内紛の進行を軸に、未来と過去を行き来しながら「お前は何者で、なぜ戦うのか」という問いをひたすら重ねていく。

故郷に戻ったライナーと戦士候補生のガビ、ファルコを通して描かれた、「悪魔」と忌み嫌われ、収容所の壁のなかで2000年前の罪を償えと搾取されるままに暮らすしかない、エルディア人の地獄。それは、調査兵団にとっても視聴者にとっても、衝撃的な視点の転換だった。そして、エレンの変貌にも…。

単身で海の向こう側にある大国マーレに潜伏していたエレンは、ファルコを通じてライナーと再会し、「俺も同じだ」と打ち明けると、「パラディ島殲滅宣言」の式典を強襲。世界各国の要人とマーレ軍上層部をまとめて屠ったうえ、タイバー家から「戦鎚の巨人」を奪取すると、だます形で戦いに巻き込んだ調査兵団のメンバーと合流。島に帰還する飛行艇の中で、獣の巨人、ジークイェーガーと結託していたことを明かしたのだった。

仲間を駒扱いした無謀な作戦でサシャ(声:小林ゆう)を含む8名を失ったことで、アルミンたち調査兵団の古参メンバーは、エレンへの不信感を募らせる。そしてエレンもまた、ミカサアルミンたち調査兵団をはっきりと遠ざけ始めた。

エレンは、目の前の仲間たちではなく、遠い未来しか視ていない。だからその瞳は光を失い、死んだように静かで凪いでいるのだ。なぜなら、未来を視た者はもう、夢をみることができないから。時を渡る進撃の巨人が見せた、苦しく悲惨な道の末に辿り着く一面の空を目指して、エレンは突き進む。彼は覚えているだろうか。父グリシャ(声:土田大)に進撃の巨人を継承させたエレンクルーガー(声:松本保典)の言葉を。

「妻でも、町の人でも、子どもでもいい。壁の中で人を愛せ。それができなければ繰り返すだけだ。同じ歴史を。同じ過ちを。何度も。ミカサアルミン、みんなを救いたいなら、使命を全うせよ」

すべてのエルディア人の魂が集まるという「道」で、死してなお王の命令に従い、巨人を作り続けてきた少女ユミル(声:三浦千幸)。エレンは彼女を抱きしめ、その孤独に共感することで、彼女に力を行使させた。そして「話し合いは無用だ」ということを伝えるために、アルミンたちを「道」に呼び出した時は、子どもの姿でユミルと手をつないで現れた。ユミルと同じ、瞳を失った状態で。だとしたらエレンもきっと、誰かに抱きしめてもらえるのを待っているのかもしれない。

文/ナカムラミナコ

朴ろ美の「ろ」は「王へんに路」が正式表記

テレビアニメ「進撃の巨人」の物語をSeason1から振り返り!/[c]諫山創・講談社/「進撃の巨人」The Final Season製作委員会