日本には北海道の「ヒグマ」と本州以南の「ツキノワグマ」という、2種類のクマが棲息している。このうちヒグマは、遡上するサケをはじめとする野生の生き物のほか、人間をも獲物として襲う獰猛性で知られている。一方、ツキノワグマは極めて臆病な性質で、もっぱら木の実や果実などをエサとし、人間を獲物として狙うことはないとされてきた。

 だが、ツキノワグマが人間を獲物として狙うことは本当にないのか。本州以南でツキノワグマによる人的被害が続出する中、クマの生態に詳しい動物学者に尋ねてみた。

「まず、ツキノワグマ木の実や果実ばかりを食べているというのは、完全な誤りです。ツキノワグマは雑食性であり、例えば野生のシカ、中でも子供のシカを襲って食べた、成獣のシカの死肉を一晩でペロリと平らげた、という報告が現に存在します。つまりツキノワグマは、動物を襲って食べている。当然、人間もその対象になりえます」

 2016年の初夏に秋田県で発生した「十和利山クマ襲撃事件」では、タケノコ採りをしていた4人の男女が相次いでツキノワグマに襲われ、命を落としている。しかも発見された遺体にはいずれも、無残な食害の痕跡(ツキノワグマに食べられた痕跡)が認められ、中には脇腹の肉が大きくえぐられた遺体や、内臓まで食べ尽くされた遺体もあった。また、その後に現場付近で捕殺された雌のツキノワグマの胃袋からは、形が残った耳なども含めて、相当量の人肉が発見されたのだ。先の動物学者が警告する。

「過去の一時期、ツキノワグマの個体数は激減し、人間との接触の機会も激減した。そのことが、ごくわずかな被害報告の陰に隠れる形で『ツキノワグマは人間を食べない』という、誤った都市伝説を生んだのでしょう。ところが絶滅危惧種としての保護が開始されて以降、ツキノワグマの個体数は増加の一途を辿り、人間がクマに遭遇する機会も劇的に増えた。しかもツキノワグマは学習能力が非常に高く、格好の獲物として人肉の味を知った個体が、次々と人間を襲うようになったのです」

 ちなみに、ツキノワグマの大好物のひとつは、山野のハチの巣にあるハチミツである。「人食い熊」にとって、まさに「人肉は蜜の味」なのだ。(つづく)

(石森巌)

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