ドローンに代表されるように、現代戦では無人機が活躍しています。では、戦争を全てロボットが行う時代は来るのでしょうか。人間の意志を介さずにロボットが武器を使用する時代が、もう近づいています。

ロボット工学にも影響を与えたSF小説

無人機(ドローン)の登場が21世紀の戦場環境を大きく変えたことは議論をまちません。空軍や航空部隊など専門家の占有領域であった空を、安価に誰でも簡単に使えるようになったのは革命的なことです。これにはロボティクス技術の進歩が大きく寄与しています。

人間のリスクを避けるため、危険な任務はロボットに代行させようという発想は古くからありました。それが一番早く実現したのが空の領域です。いまや大小様々な無人機(ドローン)が爆弾を抱えて地上を攻撃しています。その操縦はほとんど自動化され、特段難しい操縦訓練も必要ありません。人間は飛ばしたい方向を指示するだけです。

ただ、武器の使用、すなわち引き金を引くことは、自動ではありません。

SF作家・アイザック・アシモフの小説に「ロボットは1.人間に危害を加えてはならない。2.人間の命令をきかなければならない。3.自分を守らなければならない。」という、ロボット三原則といわれるものが出てきます。この原則は後のSF作品だけでなく、現実のロボット工学にも影響を及ぼしました。

自ら思考し、自ら判断して行動する自律型ロボットに適用されると考えられ、未来のSF的な話でしたが、21世紀に入ると人工知能(AI)の急速な発達で現実味を帯びるようになっています。ドローンの武器使用は自動ではないと書きましたが、人の指示を受けることなく、AIで自ら標的を選択し攻撃するロボット、いわゆる自律型致死兵器システムLAWS)も、すでに登場しています。

対ロボットのロボット、2メーカーが展示

一口にロボット兵器といっても、武器使用はリモコンで人間が制御するものと、LAWSのように自動化されたものがありますが、どの国でも武器使用を決心するのは人間の専権ということを表明しています。突き詰めれば「人間に危害を加えるのはあくまで人間でなければならない」ということです。

この解釈で、「ロボットは人間に危害を加えてはならない」というアシモフの第一原則と整合を図ろうとしています。しかし、ロボット同士が対峙した場合はどうでしょう。

無人機(ドローン)の発達の一方で、対抗するロボットが登場するのも自然な流れです。2023年、アメリカの合衆国陸軍協会(AUSA)の年次総会に、2つのメーカーが短距離防空システム(SHORAD)を無人車に搭載したデモンストレーターを展示しました。空のロボットに地上ロボットで反撃しようというわけです。

ひとつが、アメリカン・ラインメタルの短距離防空システム(SHORAD)「スカイレンジャー30」をテクストロン・ディフェンス・システムの無人車「リップソウM5」に搭載したものです。スカイレンジャー30はエリコンの30mm機関砲、FIM-92スティンガーミストラル短距離防空ミサイルを装備しています。

2つ目がゼネラル・ダイナミクス・ランドシステムズ(GDLS)が展示した、スティンガー地対空ミサイル30mm機関砲のSHORADを搭載した無人車「TRX」。SHORADを無人車に搭載する理由は、人員が直接攻撃を受けるリスク低減のほか、対空システムがコンパクトになって使い勝手が良くなるからです。

「人間の存在」はむしろリスクに?

SHORADの砲塔を搭載すると、ストライカー装甲車IM-SHORADが重さ20t、ボクサー装甲車搭載のスカイレンジャーだと40t近くになってしまいますが、無人車に搭載すれば約10tに抑えられ、小型化されて小部隊の援護など運用の柔軟性が得られます。

このSHORAD無人車が戦場に投入されれば、陸と空のロボット同士が対峙することになります。武器使用の決心は人間の専権と紹介しましたが、相手がロボットであることが明らかな場合、「人間に危害を加えるのはあくまで人間でなければならない」という規範は当てはまりません。AIに学習させて、相手がロボットと判定できる場合に限り武器使用させることは、技術的に可能です。

戦場では一瞬の判断が勝敗を決しますが、ロボットの意思決定ループに人間が介在すれば行動が遅れます。LAWSなら人間を排除してループを短縮できるので有利になります。

そうしたリスクを負ってまで、戦場に人間が存在する最大の理由は道義的な規範にあって、人間の「業(ごう)」といえるかもしれません。LAWSの規制は議論されているものの各国の思惑は様々で、LAWSは投入された時点で「人間が武器使用を決心した」とする解釈も可能です。

人間の「業」までロボットに代行させるのは道義的にも問題ありと思いますが、ロボット同士の戦争なら規範は必要ないということにはならないはずです。技術が規範を追い越し、戦争の形は変わり始めています。

ゼネラル・ダイナミクス・ランドシステムズが開発した、スティンガー地対空ミサイルと30mm機関砲「SHORAD」を搭載した無人車「TRX」(画像:GDLS)。