給与は全然上がらない、なのに物価は上がるばかり。老後を考えれば年金はあてにならないし……そんな話ばかりで、とても「子どもを持つ」ことは考えらえないと、はじめから「夫婦ふたりだけの人生」を選択して結婚する人たちが増えています。経済的に余裕があり、悠々自適。しかし「子を持たない」ことへの不安は尽きないようです。みていきましょう。

夫婦の子ども問題…やっぱりネックは「お金」

結婚持続期間(結婚からの経過期間)15〜19年夫婦の平均出生子ども数である完結出児数。夫婦の最終的な子どもの数とみなされ、国立社会保障・人口問題研究所『第16回出生動向基本調査』(2021調査)では1.90人。過去最低を記録しています。

一方で未婚者に聞いた「理想の子どもの数」は2.25人。既婚者が「予定している子ども」は2.01人。「子どもは2人欲しいね」と新婚カップルはよくいうものの、実際は2人を下回っています。

なぜ理想の子どもの数を持たないのか。その理由(複数回答)として最も多くあがったのが「子育てや教育にお金がかかりすぎるから」で52.6%。「高齢で生むのはいやだから」40.4%、「ほしいけどできないから」23.9%、「これ以上、育児の心理的、肉体的負担に耐えられないから」23.0%と続きます。

また公益財団法人1more Baby応援団が行った『夫婦の出産意識調査』では、2人目以降の出産をためらう「2人目の壁」の存在を明らかにしています。

この調査は2013年以降、定期的に行われているものですが、2023年調査では「2人目の壁が存在する」と回答した人が過去最高の78.6%。その理由もやはり「経済的理由」がトップで76.8%。そして具体的に壁を感じた瞬間としてトップだったのが「物価上昇や増税で家計の圧迫を感じるとき」で51.2%。「1人目の育児が大変だと感じるとき」45.8%、「身体的な疲労や体力の衰えを感じるとき」45.0%、「子ひとり育てるのにいくら必要という話を見聞きするとき」44.5%、「自分の時間がないと感じるとき」42.6%と続きます。

夫婦によって色々事情はあるものの、子どもについて考えるとやはりネックになるのは「お金」のようです。

子のない夫婦の家計に「子育て世帯」から羨望の眼差し

「子どもにはお金がかかる→2人目」はムリという、昨今の夫婦。そのような背景もあり、そもそも完結出生子ども数がゼロ人、つまり「子のない夫婦」は「2005年」に5.6%→「2010年」6.4%→「2015年」6.2%→「2021年」7.7%と増加傾向。もちろんこのなかには、望んでもできなかったという夫婦もいるでしょう。また未婚女性のなかで「結婚するが子どもは持たず、仕事を続ける」という、いわゆる「DINKs」を望む人が、出生動向基本調査の2015年調査では4.1%だったのが、2021年調査では7.7%と増えています。「結婚=子ども」という価値観も少しずつ変わってきているのかもしれません。

このようなDINKs。基本的に共働きの夫婦で、子どもの育児・教育費がかからない分、家計に余裕があり、趣味にキャリアアップにと次々と自己実現していく姿には羨望の眼差しが送られます。

たとえば「夫婦ともに大卒で正社員のDINKs世帯」、そんなふたりのお金事情を考えてみましょう。厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、大卒男性会社員(平均年齢42.4歳)の平均給与は、月収で40.0万円、年収で658.4万円。そして大卒女性会社員(平均年齢36.0歳)の平均給与は、月収で30.0万円、年収で478.8万円。夫婦合算で1,000万円を超えます。

子どもがいれば、まずは教育費を優先……みたいな話になりますが、そこはDINKs。すべて自分たちのために使うことも、貯めることもできるわけです。子どもの進学を見据えると背筋が凍る……そんな思いをしている世の中の子持ち世帯にとっては、ただただ羨ましいのひと言です。

子のない夫婦のリスクは「後期高齢者」に突入してから拡大

一方で、当の本人たちからは「子どもがいない」ことへの不安が語られることがあります。お金があろうとなかろうと、年を重ねていけば介護リスクが高まります。要介護の割合は70代前半では5.8%、70代後半では12.7%、80代前半では26.4%、85歳以上で59.8%に。認知症の有病率も同様で、70代後半では13.6%だったのが、80代前半では21.8%、80代後半では41.4%に上昇します。後期高齢者となる75歳以降、介護リスク、そして認知症リスクは飛躍的にアップするのです。

介護が必要になったら、誰が介護をするのか……厚生労働省令和4年 国民生活基礎調査』によると、トップは「同居する配偶者」で22.9%、「同居する子」が16.2%と続きます。DINKsは子どもがいないわけですから、自ずと配偶者に負担がかかるようになるでしょう。夫婦の平均的な年齢差を考えると、まずは夫の介護を妻が行い、看取ったら、次は妻が介護される側に……となりますが、子どもがいない、さらに近隣に親しい身内もいないとなると、サービス事業者に頼るか、老人ホームへの入居が既定路線になります。

これらはすべて「お金」で解決できることではありますが、頼る人がいない晩年を想像してか、どこか寂しさを感じさせるDINKsも。

子のない夫婦…疎遠な甥や姪と遺産をめぐる争いが勃発

「子どものいない」リスクはもうひとつ。夫婦どちらか一方が亡くなり、相続が発生した時に起こります。ここで法定相続人について確認しておきましょう。死亡した人の配偶者は常に相続人。以降の相続人には優先順位があり、相続割合である「法定相続分」も変わってきます。第1順位は子ども。DINKsは自動的に次の順位にスライドとなり、第2順位の両親へ。すでに亡くなっているのであれば、第3順位の兄弟姉妹へとスライドしていきます。

80代で夫(妻)が亡くなったとすると両親が存命である可能性は低いので、兄弟姉妹が相続人というケースが多くなりますが、もしその兄弟姉妹が亡くなっていた場合、法定相続人の子どもが代わりに遺産相続する代襲相続となり、甥や姪が相続人として登場することになります。

兄弟姉妹ならまだしも、甥や姪と日ごろから仲が良いというケースは少ないのではないでしょうか。そんな人たちとお金の話をするわけですから大変です。突然わいてきたお金の話に、甥や姪は強欲丸出し。トラブルになることが多いのです。

年収1,000万円超、40代×30代の「子のない夫婦」。現役時代、悠々自適な毎日を送り、老後のスタートも順調に進むでしょう。しかし後期高齢者となり介護リスクが高まってきたあたりから、「子のない夫婦」のリスクは徐々に大きくなっていきます。これらを見据えて、要介護になったらどのような対応を求めたいのか、相続であればしっかりと遺言書を用意しておくなど、日ごろから夫婦で話し合い、準備を進めていくことが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)