大学卒業後と同時にスタートした会社員人生。多くの人は60歳で引退しますが、38年間の間に勝ち組・負け組の間には年収差「600万円超」もの大きな差が生じるようです。しかし、誰もが羨む圧倒的勝ち組サラリーマンも「老後も安泰」とはいかないようです。詳しくみていきましょう。

大卒サラリーマン「勝ち組」と「負け組」の圧倒的給与差

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』で大卒サラリーマン(正社員)の月収(所定内給与額)の分布をみると、中央値は34万7,900円。上位10%は62万6,700円、下位10%は22万7,200円。その差は月40万円に上り、賞与も含めた年収でみると、600万円超の差が生じていることになります。

これだけの圧倒的な給与差は定年退職後、年金生活に突入した後も格差となって現れます。

会社員や公務員が加入する厚生年金は、加入期間が2003年3月までは①「平均標準報酬月額(≒平均月収)×7.125/1000×2003年3月までの加入月数」、加入期間2003年4月以降は②「平均標準報酬額(≒平均月収+賞与)×5.481/1000×2003年4月以降の加入月数」で計算されます。

また平均標準報酬額は2020年9月以降、1等級8万8,000円から32等級65万円に区分されています。大学卒業から勤続38年、60歳定年で引退したサラリーマンの場合、平均標準報酬額が1等級なら厚生年金部分は1万7,846円。一方、32等級なら厚生年金部分は13万1,818円となり、月11万3,972円・年間136万円ほどの差が生じることになります。

平均標準報酬額は引退時点の給与額ではなく、会社員人生を通じての給与の平均。勤続38年として計算すると、1等級のサラリーマンは推定の生涯年収4,400万円以下。一方、32等級であれば2億8,860円。両者の間に2億円以上の差があることを考えると、老後に受け取る年金額の差は小さくみえます。

同期のなかで上位10%に入る収入を得ていた勝ち組サラリーマン。引退後、年金生活に入ると現役時代の収入との大きなギャップに直面することになります。もっとも等級の高いサラリーマンの場合、50代で給与水準がピークを迎えた頃の収入と、65歳以降の月ごとの年金額を比べると、その差は40万円以上に上ると考えられます。

“高給取り”だったサラリーマンほど、注意が必要なワケ

現役引退後の生活を想像したことはあるでしょうか。どれだけ入念にシミュレーションしたとしても、すべてが想定通り進む訳はありませんから、どれだけ貯蓄があっても完全に不安を拭い去ることはできないでしょう。

そうした意味では、現役時代の給与が少なく、老後に強い不安を抱えている人ほど、着実に資産形成を行い、堅実な老後生活を迎えられる可能性は高いのかもしれません。実際、サラリーマン時代に“勝ち組”と呼ばれていた高給取りの人が老後に苦しむことになるケースは意外にも多いようです。

総務省『家計調査 家計収支編』(2022年平均)をみると、世帯主の月収が65万円程度の世帯における毎月の消費支出は46万円ほど。一方、世帯主の月収20万円程度の世帯の消費支出は27万円弱とされています。

月50万円近くを消費するライフスタイルのまま、年金生活に突入した場合……平均的なスピードで部長まで出世して引退したサラリーマンの場合、年金の受取額は厚生年金国民年金を合わせて月20万円弱、妻が専業主婦だとすると夫婦で26万円程度を受け取ることになりますから、毎月20万円以上が不足することになります。赤字額は1年で240万円、20年で4,800万円を超え、サラリーマン引退時に5,000万円の貯蓄があったとしても、平均寿命を迎える前に残高は底をつきかけ、「万事休す」といった状況に陥ります。

これはあくまでも統計上の数値を用いたシミュレーションに過ぎません。多くの人は、収入の減少や加齢によってライフスタイルを見直すでしょうから、すべての元・勝ち組サラリーマンが上記のようなルートを辿るはずでもないはずです。

ただ、程度の差はあれ、現役時代に高給取りだった元・サラリーマンが老後破産を迎えるというケースは少なくありません。長年維持してきた生活レベルは簡単には落とすことはできませんから、現役時代に派手な生活を送ってきた人ほど、注意が必要なのは間違いないでしょう。

2040年半ばころには年金が2割目減りするとする政府の試算もあり、今後、老後の収入が減ることはあっても、増えるとは考えにくい、というのが厳然たる事実です。サラリーマンの勝ち組であろうと、負け組であろうと、誰もが等しく「老後破産」に陥るリスクを抱えていますから、できるだけ早く対策を講じる必要があります。いまの現役世代は収入の多寡にかかわらず、物価上昇や年金の目減りを念頭に置き、資産形成を加速させていくことが不可欠です。

(※写真はイメージです/PIXTA)