所得税・住民税で所得控除を受けられるものの一つに「医療費控除」があります。対象となる費用の範囲は意外に広く、実は要件を満たしているのに、対象外だと思い込んで活用していないケースも想定されます。本記事では、医療費控除の制度と、対象となる費用について解説します。

医療費控除とは

医療費控除は、その年度内に支払った医療費が所定の基準額を超えた場合、その超過額について、最大200万円まで、所得控除を受けられる制度です。所得税と住民税の両方について所得控除を受けられます。

基準額は所得に応じて異なります。以下の通りです。

・所得金額200万円以上の人:10万円

・所得金額200万円未満の人:所得金額×5%

ただし、公的医療保険や民間の医療保険等の保険金によって補てんされた額については、控除を受けられません。

医療費控除の対象となる費用の基準

法令上、医療費控除の対象となる費用の基準は以下の通りです。

・医師等による診療や治療を受けるために支払った費用

・治療や療養に必要な医薬品の購入費用

この基準によると、治療等に必要な費用が広く含まれます。国税庁のHPをみると、さらに具体的に示されています。

1.医師または歯科医師による診療または治療の対価

2.治療または療養に必要な医薬品の購入の対価

3.病院、診療所、介護老人保健施設、介護医療院、指定介護療養型医療施設、指定介護老人福祉施設、指定地域密着型介護老人福祉施設または助産所へ収容されるための人的役務の提供の対価

4.あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師、柔道整復師による施術の対価

5.保健師、看護師、准看護師または特に依頼した人による療養上の世話の対価

6.助産師による分べんの介助の対価

7.介護福祉士等による一定の喀痰吸引および経管栄養の対価

8.介護保険等制度で提供された一定の施設・居宅サービスの自己負担額

9.医師等による診療、治療、施術または分べんの介助を受けるために直接必要な諸費用

10.骨髄移植推進財団に支払う骨髄移植のあっせんに係る患者負担金

11.日本臓器移植ネットワークに支払う臓器移植のあっせんに係る患者負担金

12.高齢者の医療の確保に関する法律に規定する特定保健指導

このように、医療費控除の対象は広く設定されています。これらのなかには、一見、「こんなものまで?」と感じられるようなものも含まれています。次項で4つ取り上げて解説します。

意外?実は医療費控除の対象となる4つの費用

医療費控除の対象となる費用のなかには、意外なものが含まれていることがあります。以下、列挙して紹介します。

◆通院・入院のための「交通費」

まず、通院・入院のために医療機関へ行くのに公共交通機関を利用した場合、交通費は基本的に医療費控除の対象となります。なぜなら、医療機関へ行くのにかかった費用は治療を受けるのに必要な支出だといえるからです。

ついでに買い物等のために寄り道をしたとしても、治療を受けるのに必要な支出であったことに変わりはないので、医療費控除の対象となります。

これに対し、マイカーのガソリン代は含まれません。マイカーの利用は日常生活の一部であり、通院ための移動だけ独立させることが困難だからです。

タクシーを使った場合は、原則として対象外ですが、やむを得ない事情があれば医療費控除の対象となることがあります。たとえば、一人暮らしで足が悪くて歩くのが困難な場合、鉄道の最寄り駅やバス停等が遠すぎる場合等です。

マッサージ、鍼灸の費用

次に、整骨院・接骨院で受けたマッサージ、鍼灸の費用です。これは、「あん摩マッサージ指圧師」「はり師」「きゅう師」「柔道整復師」等の有資格者から「治療」の目的で施術を受けた場合に、医療費控除の対象となります。

これに対し、疲労回復や体調を整える目的で施術を受けた場合は、治療の目的ではないので、対象外です。判断がつかない場合は、施術を受けた整骨院等に確認する必要があります。

◆視力回復のための施術の費用

「オルソケラトロジー」や「レーシック手術」といった視力回復のための施術は治療にあたるので、医療費控除の対象です。

これに対し、メガネコンタクトレンズを購入した場合は、原則として医療費控除の対象ではありません。なぜなら、視力を回復させる効果はなく、使用することで矯正するにすぎないからです。ただし、例外として、メガネ等が医師等の治療を受けるため必要なものであれば、医療費控除の対象となりえます。

◆歯のインプラント治療等の費用

歯のインプラント治療は、失った歯を補うためのものであり、治療にあたります。したがって、治療費が高すぎず、常識的な範囲内の金額であれば、医療費控除の対象となります。

歯のインプラント治療は健康保険適応外ですが、医療費控除はそれとは別の問題です。

同様に、歯列矯正の費用も、不正咬合の治療を目的とするものであれば、医療費控除の対象に含まれます。他方で、美容目的の歯列矯正は対象外です。

ここまでお伝えしてきたように、医療費控除は、治療を受けるために必要な費用であれば、幅広い範囲で対象となります。対象外だと思い込んでいたが、計算に入れれば要件を満たしていた、という可能性も考えられますので、思い当たる場合は、確認してみることをおすすめします。

(※画像はイメージです/PIXTA)