高齢者の住まいの選択肢である「老人ホーム」。その費用はピンキリなので、自身が払える範囲で選ぶことが基本ですが、「人生最後の贅沢」と、ちょっと背伸びをして施設を選ぶ人も多いようです。しかし、そこで「人生最大の失敗」を犯してしまう人も。みていきましょう。

日本の高齢者…「老人ホーム」に入居するきっかけ

高齢者の住まいのひとつとして選ぶ人が増えているという「老人ホーム」。高齢者でも住みやすいようにと、自宅をバリアフリーリフォームしていても、年を重ね、いろいろと制限が出てくると、自宅での暮らしは不安になるもの。また夫婦、どちらかに先立たれた後の1人暮らしに対して、本人も家族も不安を覚えるというケースも多いでしょう。そんな不安を解消するひとつの選択肢が「老人ホーム」なのです。

実際に「老人ホーム」への入居のきっかけで多いといわれているのが「認知症の発症」。症状が進むと徘徊なども問題も出てくるので、施設のほうが何かと安心です。認知症患者が入所できる施設は大きく4つ。

「特別養護老人ホーム」は「特養」と略される施設で、介護度が高くても入所でき、費用も安め。終身利用できるメリットもあります。そのため人気が高く、入所待ちが多いのがデメリットです。「有料老人ホーム」は、さらに「介護付き」と「住宅型」の2種類があり、前者であればケアスタッフが24時間体制で対応してくれます。「グループホーム」は高齢の認知症患者が5~9人で共同生活をする施設。「サービス付き高齢者向け住宅」、いわゆる「サ高住」は、基本的に介護度の低い人までが対象で、生活サービスは受けられるものの、介護サービスは外部サービスを利用します。

また老人ホームに入居するきっかけとして、「介護が必要となり、自宅での生活が不便になってきた」ということもあるでしょう。要介護1では排泄や入浴時に介助等が必要となり、要介護2になると歩行に際しても介助が必要になります。さらに要介護3になると、日常生活のほぼすべてに介助が必要に。同居する家族がいても終始つきそうのも困難ですし、おおよそ要介護2あたりまでに入居するケースが多いようです。

昨今は、自立型とか健康型といわれている老人ホームも増加。基本的に介護は必要としない人が対象で、食事や掃除、洗濯など、さまざまな生活サービスを受けることができます。単身者はもちろん、夫婦で入居できる施設も多く、「面倒な家事からの解放」と、施設への入居を決める人が増えています。

老人ホームの入居費用…自宅の売却益で用立てようとしている人は要注意!

老人ホームへの入居で気になるのは、やはり「お金」のことですが、公的な施設であれば安価であるものの、その分、人気は高く、入居待ちは当たり前。1年以上待っているけど、いまだに入居できないというケースも珍しくはありません。

スムーズに入居できる施設となると民間の施設となりますが、こちらの費用はピンキリ。まず初期費用となる入居一時金は、ゼロ円~億単位まで幅は広く、100万~300万円程度の施設が一般的。また生活サービスが充実している「高級老人ホーム」となると、1,000万円~というのが相場のようです。

月額費用は、15万~30万円程度が一般的ですが、こちらも利用するサービスによってピンキリ。さらに月額費用には含まれていない雑費等も考えておく必要があります。

たとえば、会社員だった夫を亡くした、80代の妻の場合、自身の国民年金が月6.6万円。さらに夫の遺族年金がもらえますが、厚生労働省の調査によると平均受給額は月8万円ほど。こちらは非課税になるので、毎月手取り14万円程度の年金収入があると考えられます。もし月30万円程度の月額費用+雑費と見込むなら、月15万円程度を貯蓄から補填する必要があります。施設への入居期間は平均5年程度といわれていますが、余裕をもって予算立てしたいもの。仮に10年と想定すると2,000万円程度。さらに入居一時金も貯蓄からと考えると、ちょっといい老人ホームへの入居は“夢”で終わりそうです。

ただ「もうこの家には住まないから」と、自宅を売却してちょっといい老人ホームに入居するケースは珍しくはありません。「数千万円で売れたら、高級老人ホームに入居できるかも」と夢が広がります。

温泉やフィットネス施設があったり、有名シェフが監修している食事が提供されていたり。ロケーションも、海沿いのリゾート地であったり、都心の一等地だったりとさまざまで、自身の趣向にあった理想のライフスタイルが叶います。

ーー人生最後の贅沢だし!

そう言い聞かせて、自宅の売却益で高級老人ホームに入居。最後の最後に叶う、悠々自適な暮らし……悪くはありません。ただ気をつけたいのが「自宅の売却時期」。

ーーちょっと、想像していたのと全然違う!

ーーあのスタッフが、本当にイヤっ、嫌い!

どんなに見学会に参加して入居を決めたとしても、実際に暮らしてみるとイメージと違った、ということは「老人ホーム」においてよくあることです。

株式会社Speee「ケアスル 介護」が行ったアンケート調査によると、「現在入居している施設は何施設目ですか?」の問いに対して、「1施設目」が最多で61.6%、つまり残り「4割は転居経験者」ということになります。退去理由で多かったのが「特養などに入所するための一時的な入居だった」で33.3%でしたが、続くのが「介護スタッフや施設職員への不満」で18.8%、「介護サービスの質が悪い」で17.7%。実際に入居してからでないと感じることのない不満が上位を占めています。老人ホームに入居したら亡くなるまで……とはいかないのが現状です。

老人ホームに入居も毎日、不満がたまるばかり……そんなときに一度戻る家があればいいのですが、自宅の売却益で入居を決めた人は、そんなことは許されません。場合によっては、我慢して施設に住み続けるという選択以外はないというケースも。つまり自宅の売却益を頼りに老人ホームに入居するのは、博打のようなもの。「いまさらながら、悔やんでます」と泣いても仕方がないのです。

老人ホームに入居も自身の嗜好に合わず、でも戻る家もない……そんな人生、最大のミスを犯さないよう、自宅を売るにしても「ずっとこの施設に住み続けたい」と感じるようになってからが基本です。

(※写真はイメージです/PIXTA)