宅配便

ふるさと納税はすっかりお馴染みになって、返礼品目当ての人も含め、利用者は増えており、2022年度の寄付額は9654億円に上っている。しかし、様々な問題が出てきている。

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■制度のメリット

菅義偉

ふるさと納税は、当時の菅義偉総務相がイニシアティブをとって作られた制度である。秋田県出身の菅は、地方の過疎化、疲弊に心を痛め、故郷の自治体に税金を納める手はないかと考えて、この仕組みを創設したという。2008年に正式に始まった。

納税者が寄付先を選択できるという利点は、寄付文化が根付かない日本に「チャリティー」の精神を育むのに役に立つと考えられた。

また、寄付してもらうために、地方自治体が自分の魅力をアップする努力をすることは地方の活性化につながる。さらに、災害などで被害を受けた地域に善意を届ける手段として活用もできる。

地方で育った人が、大人になって東京や大阪のような大都市で生活するようになると、税金はその地で払う。育てた地方の自治体にしてみれば、それまで多額の教育養成費を支払いながら、何も戻ってこないのは問題だという不満となる。その不満の解消にも役立つ。

 

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■様々な弊害

ふるさと納税で、寄付した額のうち2千円を超える部分は翌年の所得税や住民税から控除される。この制度を活用すれば高額所得者ほど恩恵が増えることになる。

寄付額が急増したのは、2015年以降である。それは、税控除が受けられる上限額を2倍に引き上げ、しかも確定申告を省略できる「ワンストップ特例制度」を導入したからである。

つまり手続きが簡単になったため、返礼品を目的とする寄付が増えたのである。自分の故郷ではなく、自分の欲しい返礼品を提供する自治体を選ぶ者が大半となった。そのため地域間で返礼品競争が加熱する状態となった。制度の趣旨とは反する方向である。

2022年度の自治体別ふるさと納税寄付金額ランキングでは、1位が宮崎県都城市(196億円)、2位が北海道紋別市(194億円)、3位が北海道根室市(176億円)、4位が北海道白糠町(148億円)、5位が大阪府泉佐野市(137億円)である。いずれも、宮崎牛、ホタテ、ウニ、牛タンなど魅力的な返礼品を揃えている。

総務省は、2017年には返礼品を寄付額の3割以下とするように要請し、2019年に法改正を行い、返礼品は地場産品のみ、調達費は寄付額の3割以下、経費総額は5割以下という基準を設けた。しかし、様々な抜け穴があり、このルールは形骸化してしまっている。たとえば、仕入れに農林水産省の補助金を利用すると、それは自治体の支出と見なされないので、寄付額の6割もの返礼品が可能となっている。その他にも多くのルール違反が黙認されている。

結局は、制度の趣旨が活かされず、酷評すれば、ふるさと納税関連業者が潤っているだけという状態になっている。ネットで「ふるさと納税」を検索すれば、出てくるのは、スポンサー提供のサイトばかりである。

 

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■抜本的な改革を阻害

ふるさと納税で潤う自治体がある反面、大都市を中心に住民税が流出した自治体も多い。写真はその状況に危機感を抱いた神奈川川崎市が4年前、市内の鉄道に掲出した車内広告である。

直近の流出額ランキングを見ると、1位が横浜市(272億円)、2位が名古屋市(159億円)、3位が大阪市148億円)、4位が川崎市(121億円)、5位が世田谷区(98億円)。

地方税は、自分の住む自治体から、ゴミ収集などの行政サービスを受けるために支払うものである。そこで、ふるさと納税によって税収が減った自治体ではサービスが低下する。住民はたまったものではない。返礼品によって見返りを受けた住民のみが恩恵を受け、ふるさと納税をしない私のような住民が不利を被ることなる。

また、ワンストップによって、国が負担すべき所得税控除分を地方自治体が個人住民税控除で負担している。地方の財源が不足するというのなら、地方交付税交付金や地方税財源を拡充すれば済むことである。

ふるさと納税は麻薬のようなものである。体質を抜本的に変える構造改革をせずに、ふるさと納税という目先の寄付金、いわば麻薬で身体を持たせている。今必要なのは地方再生のための抜本的な地方制度改革である。この麻薬はそれを邪魔している。先述した寄付金額上位の自治体で日本中が瞠目するような人口増加や企業誘致が進んでいるという話はきかない。

私は、この制度の導入には反対であったし、今もそうである。

 

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■執筆者プロフィール

舛添要一

Sirabeeでは、風雲急を告げる国際政治や紛争などのリアルや展望について、元厚生労働大臣・前東京都知事で政治学者の舛添要一(ますぞえよういち)さんが解説する連載コラム【国際政治の表と裏】を毎週公開しています。

今週は、「ふるさと納税」をテーマにお届けしました。

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