ドイツのラインメタル社が開発した最新歩兵戦闘車KF-41「リンクス」。イギリスで実車を見てきた元米軍将校は圧倒的な強さを感じ、敵に回したくないと語ります。ひょっとしたらアメリカ軍自身が採用するかもしれないそうです。

兵器大手ラインメタルが開発した「最強」IFV

昨年(2022年)6月、ドイツのラインメタル社が新型戦車としてKF-51「パンター」を発表しました。

ただ、新しい戦車を開発しても、それだけで使い物にはなりません。随伴する歩兵戦闘車IFV)が必要となります。この組み合わせが機甲部隊のデフォルト(標準)だからです。ラインメタルも、当然そのことを理解しており、次期IFVとしてKF-31/41「リンクス」を開発しています。

むしろ一般公開は「リンクス」の方が早く、重量35~38t、兵員6名収容で750馬力エンジン搭載のKF-31が2016年に、重量44~50t、兵員8名収容で1140馬力エンジンを搭載するKF-41が2018年に発表されています。

いうなれば軽量型がKF31、重量型がKF41になりますが、どちらのモデルも標準仕様のIFVに加えて、APC装甲兵員輸送車)、C2(指揮統制車両)、砲兵観測車、RV(戦闘偵察車)、MEV(救急車)、弾薬輸送車など、さまざまな派生モデルでバリエーション構成することが可能であり、機甲部隊を編成するために必要な車両を、1車種でカバーできるようになっています。なお、構成車両を同一車種の派生型でそろえることで、調達・運用コストの削減を図ることが可能です。

とはいえ、一見しただけではアメリカ陸軍のM2「ブラッドレー」を始めとした既存のIFVと新型のKF-31/41では、何が変わったのかイマイチ判然としないのも事実です。どういった部分で劇的な性能向上が図られているのでしょうか。

なお、筆者(飯柴智亮:元アメリカ陸軍将校)は現役時代、航空機からパラシュート降下する空挺部隊に所属していたことから、いわゆる軽歩兵という分類でした。戦闘車に乗りこむ機械化歩兵ではなかったため、「KF-31/41と戦うことになったら」という攻撃側、対戦車歩兵としての視点で見ていきたいと思います。

強敵「リンクス」もし攻撃するなら

筆者は、KF-41「リンクス」を今年(2023年)9月に開催された防衛・安全保障見本市「DSEIロンドン」で見てきました。

まず、注目したいのが搭載火砲です。M2「ブラッドレー」は25mm機関砲を搭載していますが、KF-41は35mm機関砲に大型化しています。これはつまり、攻撃可能な距離が長くなったということです。この口径の有効射程は短くても5~7kmもあります。対して「ジャベリン」などの肩撃ち式の対戦車ミサイルは射程が2~3km程度のため、対戦車兵としては非常に厄介です。

ちなみに、軽量型であるKF-31は30mm機関砲とワンランク小さくなるものの、それでもM2「ブラッドレー」より長射程・高威力であることは変わりません。

CSW(搭載火器)は車内から操作できるRWS(リモート武器システム)であり、砲には最新のFCS(火器管制システム)が組み込まれています。つまり、初弾から有効弾を撃ち込んでくるとみて間違いないため、対戦車兵としてはますます厳しい状況です。

よって、私がKF-31/41と戦うことになったら、まず主砲右横のFCSやLRF(レーザー測距器)が組み込まれている箇所を破壊し、反撃の精度を減じることを考えます(私は有線誘導式のTOWミサイルを主に使用していました)。しかし、これは「言うは易く、行うは難し」です。こちらが対戦車ミサイルの射程に近づく前に、KF-31/41に発見されてしまう可能性が高いでしょう。運よく発見されなかったとしても、最新のアクティブ防御システム(詳細は機密とのこと)が作動して、こちらの放った対戦車ミサイルは撃ち落されます。

加えて、KF-31/41では装甲もモジュラー式になっています。これにより万一被弾し装甲が破損しても、当該箇所の修理・交換が行いやすくなっているため、戦線復帰するまでの時間はかなり短くなっているはずです。また装甲のギャップ(スキマ)が少なく、真後ろ程度しか弱点がないことも攻撃の困難さを感じました。

案外アメリカ陸軍が採用するかも

そもそもIFVが1両だけでフラフラしているわけがありません。随伴するであろうKF-51戦車は、砲塔に小型UAV(無人航空機)を備えており、オプションとして徘徊型弾薬「HERO-120」を搭載できます。

運よくKF-31/41を破壊できたとしても、KF-51の正確無比な攻撃から、歩兵にすぎない対戦車チームは逃げることはできないでしょう。実戦を経験した筆者ですら、KF-51戦車とKF-31/41歩兵戦闘車のチームは、戦いたくない相手だと感じるほどです。ここから、いかに恐ろしいか、わかってもらえれば幸いです。

では、これらKFシリーズを採用して、ある意味「最強」の機甲部隊を編成するのは、どこの国になるでしょうか。

アメリカは最近、新規設計となる新型戦車「M1E3」の開発を発表しました。一方で、M2「ブラッドレー」の後継計画(XM30)も出ています。ただ、アメリカ軍の計画はコロコロ変わります。特に陸軍はその傾向は強いです。

もしかしたら、新型戦車をゼロから新規開発するよりも、既存の最新戦闘車両を手っ取り早く導入してしまおうと考え、ラインメタルのKFシリーズという選択肢が浮上する可能性もなきにしもあらずだと、筆者は考えています。

少なくともラインメタルのKFシリーズが示した次世代戦車&歩兵戦闘車のコンセプトは充分に研究されるでしょう。「世界最強のアメリカ軍」の座を維持するため、アメリカが次世代の機甲部隊にどのような判断をしていくのか、かつてアメリカ軍に属していた1人として、興味は尽きません。

「DSEIロンドン」で展示されていたKF-41歩兵戦闘車(飯柴智亮撮影)。