少子高齢化が懸念されている日本ですが、数十年前は大家族が珍しくありませんでした。つまり、複数名の兄弟姉妹をもつ高齢者は珍しくなく、その方が子を持たずに亡くなった場合、配偶者以外に多数の相続人が登場する可能性があるということです。多くの相続問題の解決に実績を持つ司法書士の近藤崇氏が、実例をもとにわかりやすく解説します。

子どもはいないが、兄弟姉妹は多い人が亡くなると…

筆者のもとに寄せられる相談として、年々「子どものいない方が亡くなった場合の相続」の割合が増えているように感じます。理由のひとつに、いま天寿を全うさせる年代の方には兄弟姉妹が多く、それにより「相続にかかわる人数が膨らむ」ことがあると思われます。

子どものいない夫婦の一方が亡くなった場合、相続人は配偶者(夫・妻)だけではありません。例えば夫が亡くなったとき、

①夫の父母(または祖父母など)が生きていれば、父母が相続人

②夫の父母が亡くなっていても、夫の兄弟姉妹(または甥姪)がいれば、相続人

となるのです。

いま亡くなる世代の方は、とくに②のケースが多くみられます。

よくある勘違いに「存命の兄弟姉妹は相続人だと知っていたが、亡くなった兄弟姉妹は相続人でなはいと思っていた」というものがあり、実際に筆者のクライアントでも、同様のことをおっしゃる方がしばしばいます。

民法第889条

1. 次に掲げる者は、第887条の規定により相続人となるべき者がない場合には、次に掲げる順序の順位に従って相続人となる。

一 被相続人の直系尊属。ただし、親等の異なる者の間では、その近い者を先にする。

二 被相続人の兄弟姉妹

2. 第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。

兄弟姉妹の代襲相続については、被相続人の「甥姪」までで、再代襲は認められていません。

この条文の作りは、筆者もなかなかわかりづらいと思います。

ポイントになるのは「第887条第2項の規定は、前項第二号の場合について準用する。」という部分ではないでしょうか。

民法第887条第2項

被相続人の子が、相続の開始以前に死亡したとき、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その相続権を失ったときは、その者の子がこれを代襲して相続人となる。ただし、被相続人の直系卑属でない者は、この限りでない。

民法第887条第3項

前項の規定は、代襲者が、相続の開始以前に死亡し、又は第891条の規定に該当し、若しくは廃除によって、その代襲相続権を失った場合について準用する。

兄弟姉妹の代襲相続は、887条3項を準用していません。よって、このため代襲相続ができるのは「(被代襲者の)子」までに限られています。

子どもがいない方の相続が発生した場合、通常、尊属(親や祖父母)は亡くなっていますので、第三順位の兄弟姉妹が相続人となります。

亡くなった方の兄弟姉妹ですから、同年代(~15歳差前後)であり、当然、先に亡くなっている場合もあります。すると、代襲相続人は甥や姪ということになります。

年代が上の方は、兄弟姉妹が多く相続人も増える傾向

前述したように、代襲相続が甥姪までで止まるとはいえ、昔の方は兄弟姉妹が多いため、相続人が増加しやすい傾向にあるといえます。

国勢調査の古いデータを見ても、1920年の第1回国勢調査当時、10人以上の大家族は1112万世帯のうち50万世帯(4.5%)と、それほど珍しいものではありませんでしたが、現在ではこのような大家族はあまり見られません(総務省統計局論文『国勢調査結果にみる家族類型の変化』 )。

下記は、実際に筆者が取り扱ったケースです。

8人兄弟姉妹で、子どものいない1名が死亡。残り7名のうち、5名が死亡していたとして、その5名に各3人ずつの子ども(被相続人からみて甥姪)がいました。

さて、相続人が何名いるか、わかるでしょうか。

簡単な小学生の算数のようですが、数次相続でなくすべて代襲相続と仮定しても、17人の相続人となります。

相続登記や相続手続きを懈怠(けたい)した場合や、連続して相続が起きてしまう数次相続の場合、さらに人数が増えることがあります。

大人数と意思疎通を図り、相続手続きを全うできるか?

最も顕著となる問題は「意思疎通の問題」だといえます。遺言のない相続手続きは「二人三脚」と似ています。小学校などの運動会で行ったあの競技です。

裁判や調停にならない相続で必要なのは、要は「意思の合致」です。主導的に相続手続きを行う人が現れない場合、この手続きがなかなか進みません。子どものみの2~3人の場合、意思疎通が取りやすいですし、家族内でもうまくいくかもしれません(こうしたケースであっても、依頼される場合もありますが)。

相続人が多いケース、例えば先ほどの17人の相続人のケースなどはそれだけの人数と意思疎通を図ることが必要になります。

多くの時間と労力を割き、手間をいとわず音頭を取ってくれる相続人が現れない限り、相続手続きを完了するのは極めて難しいといえるのではないでしょうか。

近藤 崇 司法書士法人近藤事務所 代表司法書士

(※写真はイメージです/PIXTA)