マーベル・スタジオが製作するオリジナルドラマ「ロキ」シーズン2の第5話「サイエンスフィクション」が11月3日に配信された。第4話のラスト、ヴィクター・タイムリー(ジョナサンメジャース)が時間織り機を処理速度倍増器を使って延命させようとしたが失敗し、ヴィクターは消えてしまう。そして時間織り機も臨界点を迎えた。第5話は、誰もいなくなってしまったTVAにロキ(トム・ヒドルストン)一人だけが取り残された状態からスタート。いよいよ次回が最終話ということでストーリーも大詰めに。そこで今回は、ロキの一番の相棒と言えるメビウスを演じるオーウェン・ウィルソンについて、経歴などを振り返ってみたいと思う。(以下、ネタバレを含みます)

【写真】めっちゃダンディー…!オーウェン・ウィルソン“メビウス”&トム・ヒドルストン“ロキ”の正装姿

■ロキの身に再びタイムスリップが

シーズン2の第5話では、第1話で頻繁に起こっていた「タイムスリップ」現象が再びロキの身に起こり、自分では制御できない様子。TVA自体は「フェイルセーフ・モード」に切り替わったという館内アナウンスがあったように、エラーが発生した時の非常時モードに切り替わっている。ロキはタイムスリップして、TVAの中にいる少し前(過去)の自分の姿を見たり、分岐時間軸の1962年で難攻不落と言われていた刑務所があるアルカトラズ島から脱出しようとするケイシー(ユージン・ コルデロ)を見つけたり、2012年のニューヨークで医師として働いているハンター・B-15(ウンミ・モサク)と会ったり、2022年のオハイオ州でジェットスキーの販売員をしているメビウスと遭遇したり、1994年カリフォルニア州でSF作家になっていたウロボロス(キー・ホイ・クァン)を見つけたり、TVAからいなくなった者たちと時間を超えて会うことができた。ただし、自身でコントロールできないので思った所に行けるわけではない。それぞれ分岐時間軸で生きる彼らはロキのことなど知らないし、TVAのことも知らない。

一方、シルヴィ(ソフィア・ディ・マルティーノ)は他の人たちと違ってロキのことを認識している。飲みながらロキに「どうしたいの?」と聞くと、ロキは「友達に戻りたい。友達を取り戻す。一人は嫌だ」と本音がこぼれた。“裏切り王子”と呼ばれ、自分以外誰も信じず単独行動することが多かったロキ。TVAに来てから心境に変化があり、今はそういう“友達”を思う気持ちも生まれている。それこそがタイムスリップをコントロールできる鍵でもあった。

そんな“友達”という考えを生むきっかけとなったのが、メビウスだ。メビウスはTVAの分析官で、捕獲の難しい変異体が出てきた時は現場を仕切ることも。逃亡している変異体の情報などを徹底的に収取し、調査する。ロキと出会った時は、変異体と分析官という対立する立場で、言い争いをしながらも、いつしか奇妙な友情が生まれていった。

■盟友ウェス・アンダーソン監督と大学在学中に出会う

メビウスを演じるオーウェン・ウィルソンは、1968年11月18日に米国テキサス州ダラスで生まれた。大学在学中にウェス・アンダーソンと出会い、脚本を共同執筆した1996年公開の映画「アンソニーハッピー・モーテル」に出演。同年、俳優でもあるベン・スティラーが監督を務めたジム・キャリー主演の「ケーブルガイ」にも出演している。ウェス・アンダーソン監督の作品に多く関わっているだけでなく、ベン・スティラーともその後多くの作品で共演していたりするので、この最初の頃の縁というのは強いものがあると言える。

1997年公開の映画「アナコンダ」では録音技師のゲアリー・ディクソンを演じ、「パーマネント・ミッドナイト」にも出演。実在するハリウッドの人気脚本家の成功と破滅、麻薬漬けの日々を描いた物語で、シリアスな一面が見える作品になっていた。

1998年には日本でも大ヒットした映画「アルマゲドン」に出演。演じた“オスカー・チョイ”という人物は、カウボーイを気取る陽気なテキサス男。小惑星破壊計画を聞いた時、他の人たちが物怖じする中、一人だけポジティブに受け止め、ジョークを飛ばしたりして場の雰囲気を変えていった。メインキャストではなかったが印象に残る役となった。

2000年には「ミート・ザ・ペアレンツ」でまたしてもベン・スティラーと共演。2004年、2010年の続編にも登場している。同じく2000年に「シャンハイ・ヌーン」でジャッキー・チェン演じる“チョン・ウェン”とコンビとなるロイ・オバノンを演じた。アクション満載の作品で、ジャッキーとの凸凹コンビの活躍が楽しい作品だった。こちらも続編として「シャンハイ・ナイト」が制作され2003年に公開されている。

面白かったコンビといえば、2003年公開の「アイ・スパイ」もそう。ボクシング世界ミドル級チャンピオンで無敗を誇るケリー・ロビンソン(エディ・マーフィ)と組むことになった国際保安局BNSスパイアレックス・スコットを好演している。

さらに2005年の「ウェディング・クラッシャーズ」、2006年の「トラブル・マリッジ カレと私とデュプリーの場合」で主演を務めており、コメディー作品に定評がある俳優として存在感を発揮。そういったコメディーという意味では、「ナイトミュージアム」シリーズで演じているミニチュアカウボーイ“ジェデダイア”役もハマり役だった。2001年公開の「ザ・ロイヤル・テネンバウムズ」はウェス・アンダーソンが監督で、オーウェン・ウィルソンが共同で脚本・製作を手掛けている作品ということで役者としての彼の良さもより引き立っている。

■人気シリーズ「カーズ」で声優初挑戦

ちょっと変わったところだと、幅広い層に人気のアニメ「カーズ」の主人公ライトニングマックィーン役。これが初めての声優作品となったが、マックィーンの決めゼリフとなっている“カチャウ!”はオーウェン・ウィルソンの発案。このシリーズの声優を楽しみながら演じていたのが分かるエピソードの一つだ。

ある時期まで軽めの役だったりコメディーの印象が強かったりしたが、2011年公開のウディ・アレン監督の「ミッドナイト・イン・パリ」や2017年の「ワンダー 君は太陽」などを見ると、幅広いジャンルに対応できる俳優だということが分かる。「ミッドナイト―」は、ハリウッドで脚本家として成功を収めながら、小説家を目指しているギル・ペンダーという役を演じた。まさにウディ・アレン自身を写したような役で、苦悩する姿、鬱屈した雰囲気を見せ、心の動きを繊細に演じている。ちなみに、この作品にロキ役のトム・ヒドルストンも作家のF・スコット・フィッツジェラルド役で出演している。

ワンダー 君は太陽」では、遺伝子疾患で変形した顔を持つ息子を励ましながら明るく育てていく父親を演じた。愛情深く、人間味のある役を演じ、また一つ俳優としての違う一面が感じられる作品でもあった。

2021年、オリジナルドラマ「ロキ」でMCU作品に初参加。これまでの出演作を知っている人は“メビウス”を演じる姿に驚いたのではないだろうか。見た目やキャラなど、これまで演じてきた役と全然違っていて、ここに来て新しい一面を出してきたことに驚いたはず。かと思えば、配信されたばかりの「ホーンテッドマンション」では調子の良過ぎる神父“ケント”を演じ、「カールの絵画教室」ではアフロヘアのカールのコミカルさと悲哀を表現し、彼らしさをしっかり感じさせてくれてている。

さて、「ロキ」シーズン2は次回で最終話。続きが気になるところで第5話は終わってしまったが、メビウスも物語の重要なピースの一つ。結末とともに最終話で彼がどんな演技を見せてくれるのかも楽しみに待ちたい。

「ロキ」シーズン2は、ディズニープラスで毎週金曜に最新話独占配信中。最終話11月10日(金)に配信となる。

◆文=田中隆信

「ロキ」でオーウェン・ウィルソンが演じているメビウス/(C) 2023 Marvel