国民的アイドルグループ「モーニング娘。」に2001年に加入し、2007年に6代目リーダーに就任。ファンの間で“プラチナ期”と呼ばれる期間を牽引しながら「ハロー!プロジェクト」の2代目リーダーを兼任し、2011年9月30日に「モーニング娘。」と「ハロー!プロジェクト」を卒業した高橋愛。彼女が9年ぶりに出演した映画『おしょりん』(公開中)は、高橋の地元である福井県を代表する工業製品、メガネの誕生秘話を描いた物語だ。

【写真を見る】高橋愛が振り返る、モーニング娘。としてデビューした22年前の自分。現役ハロプロメンバーへの想いも

「自分が映画に出演させていただけるということ以上に、福井県の映画が作られるということが本当にうれしくて、福井県民として『ありがとうございます』という気持ちでいっぱいです」。声を弾ませながら我々の取材に応じてくれた高橋は、故郷へのあふれんばかりの愛情をあらわにする。

「出演させていただけることを家族に伝えたら、とにかく祖父がうれしそうで。おじいちゃん孝行ができたなぁって思っています。私が撮影に参加したのは数日だけだったのですが、地元の皆さんがたくさん差し入れをしてくれて、本当に福井の人たちの温かさで支えられている作品だと感じました。県外出身のスタッフやキャストの方々も福井の温かさを感じてくれたようで本当に幸せです」。

■「映画のとても大事なところに出させていただき光栄です」

藤岡陽子の同名小説を原作とした本作は、福井県メガネ工場をゼロから立ち上げた兄弟と“ものづくり”に魂を注ぐ職人たち、そして彼らを支える家族たちの姿を描いた物語だ。

福井県足羽郡麻生津村で、庄屋の長男の増永五左衛門(小泉孝太郎)と結婚したむめ(北乃きい)。明治37年のある日、五左衛門の弟の幸八(森崎ウィン)が大阪から帰郷し、村をあげてメガネ作りに取り組まないかと持ちかける。当時、まだほとんど知られていなかったメガネを作ることに懸念を示していた五左衛門だったが、視力の弱い村の子どもがメガネをかけて大喜びする姿を見て挑戦を決断。しかしその先には、さまざまな苦労と困難が待ち受けていた。

メガネといえば福井だと、いまでは国内外問わず多くの人に知ってもらえています。この映画を観ると、なぜこんなにも有名になったのかを知ることができます」と、高橋は福井県民を代表してアピールしていく。「国内シェア95%ですからね!日常的に使うものなので、もしかしたら気が付かないうちに使っている人も多いと思います。『お父さんが着けているメガネってこうやってできたんだねー』とか、この映画を観るとメガネに対する見方も変わってくるのではないでしょうか」。

劇中で高橋が演じているのは、五左衛門の幼なじみで宮大工の末吉(駿河太郎)の妻、小春役。娘のツネ(石森愛梨)は視力が悪く、そのせいで学校の勉強についていくことができない。それを知った幸八は大阪から持ってきたメガネを掛けさせ、ツネは見えなかった世界を見ることができるようになる。その出来事をきっかけに、五左衛門たちのメガネづくりへの挑戦が始まっていくのだ。

「オーディションで選ばれたツネ役の女の子が、すごく良い演技をしてくれました。初めてメガネをかけたツネから『母ちゃんそんな顔してたんだぁ』って言われた瞬間に、演じながら純粋にうれしくなりましたし、見えなかったことに気が付いてあげられなかった申し訳なさと、違う世界を見せてあげられた感動が入り混じった、すごく複雑な感情を味わいました」。

撮影を振り返りながら、すっかり役柄に共感しながら演じていたことを明かす高橋。「“見えないこと”が日常だったのが、“見える世界”を知る。それってたぶん、生まれ変わったぐらいのすごいことだと思います。この映画のとても大事なところに出させていただくことができて光栄に思っています」。

■「ただの“頑固”も、続けていけば“粘り強い”になっていく」

モーニング娘。としてデビューした当時、まだ14歳だった高橋の存在を広く印象付けたのは、まだ抜けきれていなかった福井訛り、福井弁だった。「当時は自分が訛っているなんて、全然気が付いていなかったんですけどね(笑)」と、照れくさそうに上京したてだった22年前を振り返る。

「同期で入ったこんこん(紺野あさ美)は北海道出身でしたが、モーニング娘。には安倍(なつみ)さんや飯田(圭織)さんがいたのでみんな北海道の方言や訛りには慣れていました。それにガキさん(新垣里沙)は横浜だったし、(小川)麻琴は新潟だからたまにイントネーションの違いがあるだけで、誰も通じないってことはなかったんです。6期で山口県出身のさゆ(道重さゆみ)が入ってきた時にはもうナイーブな時期は越えていたのですが、入りたてのころは私だけが言葉が通じないと感じていて、しゃべりたくないって思っていましたね…。そんな時に『うたばん』で石橋貴明さんや中居正広さんがいじって笑いに変えてくれて、それがきっかけでファンの方たちにも福井弁を知ってもらえることができました。いまとなっては感謝の気持ちでいっぱいです」。

本作の劇中で高橋は、自然体で福井の方言を披露している。「『このままだと役をいただいた時に迷惑がかかるから』と事務所の方に言われ、標準語のレッスンを受けたこともありました。それでもいまだに『訛りが出てるよ』と言われることがあります(笑)。福井で福井弁をしゃべっていた期間は人生のうちの十何年かしかないですが、いまでも自然と使えるのは家族や祖父母のおかげなんです。今回の映画ではそれがすごく役に立って、撮影中も『私、ネイティブなんで!』って誇らしく思っていました(笑)」。

撮影現場では、久々の映画撮影ということもあって緊張していたという高橋。それでも主演の北乃が積極的に話しかけてくれたことで、和やかに過ごすことができ、のびのびと演技に臨めたようだ。「完成した作品を観たら、メガネについてだけでなく『福井の景色ってこんなにも美しかったんだな…』と、これまで知らなかった福井の魅力をいっぱい発見することができました。だから県外の人にも観てもらいたいですけど、まずは福井県民みんなに観てほしいですね」と作品の出来栄えにも大満足の様子。

もうひとつ、高橋は本作を通して改めて感じた福井の魅力があるという。それは福井の県民性ともいえる“粘り強さ”だ。「主人公たちには諦めたくなるような瞬間が何度も訪れます。でも家のものが全部なくなろうが、借金をしようが絶対に折れない。目標を掲げてブレることなく挑戦していったからこそ、いまのメガネフレーム国内95%というシェアがあると感じました。何年も前に県外の人から、『福井の人たちが諦めずに20年近くも掘り続けたから(新種の)恐竜が発掘されたんだ』と言われたことがあります。この映画を観て、それがすごく納得できました」。

そして「私自身は、よく言えば“粘り強い”のかもしれませんが、ただ“頑固”なだけです。事務所の人にも『頑固だね』って言われていましたし(笑)。でもそういうのも、こうやって続けてきたから“粘り強い”になっていくんだと思います。続けていけば、ただの頑固で終わらない」。そう語りながら、自身のこれまでの経験を噛みしめる高橋にとって、いままでで一番大きかった挑戦はなんだったのか?その答えはやはり「モーニング娘。のオーディションを受けたこと」だという。

「当時は本当になにも考えていなかったんです(笑)。モーニング娘。に入りたいという漠然とした気持ちだけでバレエの発表会や合唱コンクールを欠席してオーディションを受けに行って。自分ではオーディション経験がないから受かるとは思っていなかったんです。でも最終選考の合宿でようやく負けたくないという気持ちが芽生えて…。あとは無我夢中でした。挑戦したから受かって、いまここにいる。そう思うと、チャレンジ精神のある福井県民で良かったです」。

■「アップデートされていくことが、モーニング娘。の良さであり、強さでもある」

高橋が10年間在籍した「モーニング娘。」と「ハロー!プロジェクト」は、2023年に25周年という大きなアニバーサリーイヤーを迎えた。「いまでは自分がいた場所だとは思えないくらい、ファン目線で見てしまう自分がいます(笑)。こんなにすごいところに自分がいられたんだと考えると、本当にありがたい気持ちでいっぱいなんです」と、ハロー!プロジェクトへの想いを感慨深げに語っていく。

ハロー!プロジェクトからの卒業後は、NHKの大河ドラマ「平清盛」やミュージカル「赤毛のアン」など女優としての経験も重ね、ファッションモデルとしても活躍。2020年には自身のYouTubeチャンネル「高橋愛lab。」を開設。なかでも歌唱動画やダンス動画、モーニング娘。のほかのOGメンバーとのコラボ動画は好評を博している。

また9月9日、10日には、国立代々木競技場第一体育館で「Hello! Project 25th ANNIVERSARY CONCERT」が行われ、その2日目の昼公演「ALL FOR ONE & ONE FOR ALL ACT I」に歴代のOGメンバーと共に出演。高橋自身が好きな曲のひとつと公言している「Do it! Now」やリーダー時代の代表曲「リゾナント ブルー」を現役のモーニング娘。’23のメンバーと一緒に歌いあげ、OGである保田圭矢口真里市井紗耶香石川梨華辻希美紺野あさ美道重さゆみ田中れいなと9名でヒット曲「恋愛レボリューション21」を披露した。

「一緒に活動する期間がなかった市井さんとお会いできて、『テレビで見ていた人だぁ!』と感動してしまいました(笑)。4年近く一緒に活動していた石川さんを見ても同じように感動してしまうし、現役のメンバーやほかのハロー!プロジェクトグループの後輩たちもみんな可愛くて、すごく不思議な気持ちになりました。自分も同じように歌っていたはずなんですけど、いろいろな感情が湧きでてきて、大好きな太陽とシスコムーンさんも観ることができたし、ステージに立っている時も『推しが隣にいる!』ってなりながら(笑)。本当に楽しんでいました」。

きらきらと目を輝かせながら夢のようなステージを振り返った高橋。「正直に言えば、客席から観ていたかったぐらいです(笑)。中澤(裕子)さんが30周年の時にはステージに立って歌って踊ると宣言されていたので、5年後も楽しみです」。モーニング娘。の一時代を築きあげた立役者である高橋は、いまではすっかり熱烈なファンのひとりになったようで、“福井愛”に負けないぐらい“モーニング愛”、“ハロプロ愛”が止まらない。

「私はモーニング娘。の楽曲では、『LOVEマシーン』よりも前の『Memory 青春の光』とか『抱いてHOLD ON ME!』のようなアンニュイな感じの曲が大好きなんです。初期のMVは当時からインパクトがあって、とにかくオシャレ。最近の曲は踊りがみんな揃っていてカッコいいけれど、当時はダンス経験のない人も多かったのでそれを活かした良さというか、“エモさ”みたいなものがあります。私が入ってからの曲では『Do it! Now』も好きですし、エンタテインメントとしては『Mr.Moonlight〜愛のビッグバンド〜』も最高です。私の大好きな宝塚歌劇団のようなテイストで、MV撮影の時には『私も相手役やりたい!』って憧れていました。最近MVが公開されたモーニング娘。’23の新曲『すっごいFEVER!』は懐かしい感じと現役メンバーのはっちゃけた感じが両方出ていてオススメです」。

そして「そういう歴史があっていまがあるんです。初期のモーニング娘。と私がいたモーニング娘。はどちらも同じグループなのに違った魅力があって、それはさゆ(道重)がリーダーをしていた時代も、いまのモーニング娘。‘23ともまた違う。時代によってアップデートされていくことが、モーニング娘。の良さであり、強さでもあると思うんです」。

11月28日(火)には再びモーニング娘。のOGメンバーとして、「モーニング娘。’23コンサートツアー秋『Neverending Shine Show』SPECIAL」に出演することが決定している高橋。このコンサートは、高橋の卒業直前に9期メンバーとして加入し9年間にわたってモーニング娘。のリーダーを務め、4年以上もハロー!プロジェクトのリーダーを務めてきた譜久村聖の卒業公演前日。モーニング娘。ハロー!プロジェクトがまたひとつアップデートを迎えようとする瞬間だ。

「後輩とたまにごはんに行ったりするのが楽しくって。特に野中(美希)のことは親友と思っています」と、現役のメンバーとも交流があることを明かす高橋は、数多のアイドルグループが乱立するなかでアイドルとしてアーティストとして、パフォーマンスを通して人々を魅了するために奮闘している現役のモーニング娘。’23メンバーやハロー!プロジェクトの後輩たちへの想いを明かす。

「彼女たちには自分が悩んでいたようなことで悩んでほしくないと思っています。お節介に思われてしまうかもしれないですけど、『よくない?』と言ってくれる誰かがいるだけで、すっと軽くなることもある。つんく♂さんがアーティストをやっていたから私たちの気持ちをわかってくれたように、私がモーニング娘。をやっていたから彼女たちにできることがあるし、わかってあげられることもある」。

そして「私自身がそうだったように、“こうじゃないといけない”という考えが本人たちを苦しめてしまうことがある。多少はそういうのもあっていいし、はみ出しちゃいけないこともあるけれど、もっと自由に、一人一人から生まれてくるものを止めないで輝いてもらいたいなって思います」。そう語りながら高橋は、自身のもうひとつの“故郷”の現在と未来を愛情いっぱいに見つめていた。

取材・文/久保田 和馬

辻希美の「辻」は「一点しんにょう」が正式表記

地元・福井を舞台にした『おしょりん』で9年ぶりに映画出演を果たした高橋愛にインタビュー!/撮影/suuu