愛が生まれると別れが訪れるときもある。愛していた人との別れを思うとき、感傷的になったり心が苦しくなったりするのは誰にでもあることだろう。
人生において重要な経験をしたあとには、2人が共有した「物」が残される。
ある人は何年経っても思い出が詰まった物を大切に保管し、ある人は過去と決別するため物を捨ててしまう。良くも悪くも、物は目に見えることのできる思い出だからだ。ひとつひとつの物はひっそりと誰かの物語を背負っている。
そんな別れのほろ苦い物語が「遺品」として展示された「失恋博物館」が、クロアチアの首都ザグレブにある。
See Inside the Museum of Broken Relationships
クロアチアで最も珍しい博物館のひとつが、ザグレブにある「失恋博物館(The Museum of Broken Relationships)」だ。
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ここは今や、世界中で終わりを迎えた恋愛に関係のある感傷的なアイテムやオブジェ、衣服などが展示されている市内のランドマーク的な場所となっている。
この博物館のコレクションは、2006年に共同設立者であるクロアチア人の映画監督オリンカ・ヴィシュティカさんと彫刻家ドラジェン・グルビシチさんが、実際に経験した別れに端を発している。
20年前に出会い交際に発展した2人の愛は、残念ながら4~5年ほどで終わりを迎えた。
一緒に暮らしていた2人は多くの物を共有していた。それをひとつずつ分けていったが、一緒に手に入れた小さなフワフワのウサギのおもちゃだけは、どうしていいかわからなかった。
ネジを巻くと動くからくりのウサギは、2人にとって同じほど思い入れがある特別な物だったからだ。
どちらかが帰宅すると、もう一方がふわふわのウサギを手にして「おかえり」って言うんです。
そして、どちらか片方が海外出張に出かけるときはウサギを一緒に連れて行き、観光地で写真を撮りました。
そのウサギは2人が一緒にいた時間を象徴するようなものだったから、どちらかが持って行くべきだとは思わなかったんです。(ヴィシュティカさん)
そこで、ウサギの適切な保管場所を探そうと思いを巡らせたことが、失恋博物館の誕生につながった。
一時的なプロジェクトが大人気に
ヴィシュティカさんとグルビシチさんが自身の経験と遺品からアイデアが生まれたのは2006年のことだ。
世界中のカップルが別れたあと、遺品を送れる場所があったら素敵じゃない?それらを集めて展示できる博物館を作ろうよ、って話になったんです。
終わりを迎えた恋愛の世界的なアーカイブは、恋人たちが失恋から立ち直る手助けになるだろうと思ったんです。(ヴィシュティカさん)
当時は一時的なプロジェクトとして始まった。
最初の展示は友人たちから提供されたものだったが、展示が終わるとこのインスタレーションのバージョンを世界中で発表してほしいというメールや電話が2人のもとに届くようになったという。
やがて2人は、アメリカ・カリフォルニア州のアートギャラリーやトルコのショッピングモールなどでポップアップ展を開催し、それぞれの場所でさらに寄付を募った。
メキシコシティで展示を行った際には、何百もの品物と物語が寄せられた。
そして2010年、失恋博物館は現在の場所にザグレブ初のプライベート・ミュージアムとしてオープンした。
現在は4000点を超えるコレクション数
かつての恋人同士は、別れてからも互いをリスペクトして友情を保ち続け、今は良きビジネスパートナーとしてとても良好な関係を築いているという。
ザグレブの旧市街にある元宮殿の中にあるこの博物館には、世界中の失恋した恋人たちから集められた品々が、それぞれにまつわる物語とともに展示されている。
現在、博物館のコレクションは4000点を超え、そのうち約70点が一度に展示されている。
コレクションを管理し、海外での臨時展示を手配する学芸員のシャルロット・フエンテス氏によると、毎週たくさんの新しい展示品が郵送されてくるという。
提供者を匿名のままにしているのは真実を語ってもらうためだそうだ。
展示品についての説明書きは、提供者によってありのまま綴られている。3行~4行という短い物語もあれば、長文のもある。そのどれもが見る人の想像を膨らませる。
見知らぬ人たちの物語と愛を遺品でシェア
世界中の人々の思い出をつなぎ合わせたキュレーション・コレクションは、一見平凡なオブジェとして館内を埋め尽くしているが、ユーモラスなものから悲嘆にくれるもの、恋愛や家族関係など、さまざまなストーリーが展示されている。
思い出の品には、「彼女は自分のファッション感覚を私に押し付けようとした」というメモが添えられた白いドレスシューズもあれば、スカイダイビングの事故で恋人を亡くした女性が寄贈したパラシュートも展示されている。
また、ユーゴスラビアを崩壊させた戦争の瀬戸際、サラエボで別れた初恋の人からの手紙は、チャンスに恵まれなかったロマンスの記念だ。
コレクションとして展示される遺品を選ぶ基準というものはありません。
すべての物がそれぞれの物語を持っていて美しいからです。
世界中の巨大なコミュニティの一員となって、見知らぬ人たちの中に参加するわけです。
でもそこには愛を通じて人間的なつながりを共有するという目的が存在しています。(ヴィシュティカさん)
ヴィシュティカさんとグルビシチさんは、「終わってしまった関係から何かを生み出すことは可能だ」と言う。
ちょうど僕たち2人がそれを証明しているよ(笑)
世界中でもクロアチアでも博物館は大好評
現在、失恋博物館ザグレブで最も人気のあるユニークなアトラクションのひとつとなった。
さらに、展示物たちは東京、ロンドン、メキシコシティなど世界中を巡り、ロサンゼルスに第二の故郷を見つけた。
寄付が殺到し、展示されているラブレター、オブジェ、写真は現在博物館が所蔵する魅力的な悲劇のほんの一部にすぎない。
今日、この博物館は世界中から遺品を受け入れている。すべての遺品はクラウドソーシングで集められたものであるため、グルビシチさんによれば、しばしば自分たちのドアの前に現れたものに驚かされるという。
携帯電話、レコード、衣服など典型的なものもあるが、ドレッドヘア、トースター、義足、斧、37年前のウエディングケーキまであるそうだ。
クロアチアで一番人気の博物館になったことは、正直驚いているよ。
多くの展示品が世界中を巡って、いろんな人の目に触れて人々が大きな反応をしてくれることがやっぱりうれしいね。(グルビシチさん)
誰かの失った思い出を目にしたとき、もしかしたら新たな思いが心に浮かぶかもしれない。それが遺品を共有し共感しあうことの醍醐味だと2人は語っている。
失恋博物館には、風変わりな物から感傷的な物まで誰でも恋愛の思い出の品を寄贈することができるということだ。
Visit the Museum of Broken Relationships
References:A Visit to the Museum of Broken Relationships/ written by Scarlet / edited by parumo
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