北海道東北地方などでクマの出没が相次ぐ中、自治体や猟友会などがクマの駆除を進めています。一方、新聞やテレビの報道によると、駆除を行った自治体に対し、「クマがかわいそう」「なぜクマを殺した」といった苦情が多く寄せられており、中には長電話などにより、職員の業務に支障が出ているケースがあるといいます。

 自治体の職員に対して、窓口や電話で長時間苦情を言い続けたり、苦情を言うときに罵倒したりする人がいますが、その場合、どのような法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。佐藤みのり法律事務所の弁護士・佐藤みのりさんに聞きました。

損害賠償請求などの可能性

Q.自治体の職員に対して、電話や窓口で長時間苦情を言い続けたり、苦情を言うときに罵倒したりするなどの行為をする人がいます。こうした過度な苦情は、法的責任を問われる可能性があるのでしょうか。

佐藤さん「住民サービスを提供する自治体職員に対してであっても、過度な苦情を繰り返せば、法的責任を問われる可能性があります。

例えば、長年にわたり電話や窓口で長時間苦情を言い続けたり、罵声を浴びせたりしたことで、自治体から訴えられ、面談の強要禁止や損害賠償を求められたケースがあります。損害賠償では、苦情の対応にかかった人件費などを損害として請求されることになるでしょう。

こうした民事上の責任のほか、事案によっては罪に問われることもあり得ます。例えば、窓口に行き、『お前らは愚能』などと大声で罵声を浴びせ続けるようなケースでは、侮辱罪(刑法231条)が成立します。また、『お前を殺してやる』など、危害を加える旨の脅しがあれば脅迫罪(刑法222条)が成立するでしょう。

実際に、被害届が出され、刑事事件化するケースは多くありませんが、犯罪に当たる言動であることを意識することは必要だと思います」

Q.住民からの批判的な意見と過度な苦情は、何が違うのでしょうか。

佐藤さん「住民からの批判的な意見と、過度な苦情との線引きは難しく、自治体側が毅然(きぜん)とした対応を取りにくい現状があります。自治体における過度な苦情とは、一般的に、『公共サービスの利用者による、必要かつ相当な範囲を超える言動によって、労働者の就業環境が害されること』と考えられています。

実際の言動が違法かどうかは、社会通念(常識)に基づき判断されるため、常識的に行き過ぎた内容、方法による苦情は避けることが大切です」

Q.クマを駆除した自治体に対して、「クマがかわいそう」「なぜクマを殺した」などの苦情が多く寄せられているそうです。こうした苦情を言うことで職員の業務に支障が出た場合、苦情を言った人が法的責任を問われる可能性はありますか。

佐藤さん「先述のように、クマの駆除に関する意見についても、『必要かつ相当な範囲を超える言動』であれば、法的責任を追及される可能性があります。

一方、一人一人の苦情は、頻度や態様に照らし適切な範囲であったけれども、同様の苦情が数多く寄せられたことで、結果的に業務に支障が出てしまった場合、個人が法的責任を問われることはないでしょう」

Q.自治体への苦情が法的責任に発展した事例、判例について教えてください。

佐藤さん「自治体への苦情によって、訴訟が提起されるケースは存在します。例えば、2021年6月、大阪府は、動物愛護管理センターに罵詈雑言を並べる電話を700回以上かけてきた女性に対し、電話や大声を出すなどの行為を一切禁じる命令を出すよう求める訴えを起こしました。

本件については、控訴審で『業務上支障をもたらす態様で架電すること(電話を終了する求めに応じないことを含む)』との条件が付された上で、電話を禁止する旨の判断がなされ、確定しました。裁判所は、これまでの女性の言動がこれに該当するとし、『今後、判決に違反するような電話を繰り返せば、全面的な禁止もあり得る』と指摘しています。

自治体が面談の強要禁止や損害賠償を求め提訴した場合、自治体側の請求に理由があるとされ、損害賠償金や和解金を支払わなければならなくなることがほとんどです。

自治体が不当な苦情への処理に追われることは、本当に必要な人への住民サービスの提供が困難になることにつながります。住民として自治体に意見を伝えることは大切ですが、伝える内容や頻度、伝え方などに配慮し、適切に伝えるようにしましょう」

オトナンサー編集部

自治体職員への過度な苦情、法的リスクは?