人気アニメシリーズ「美少女戦士セーラームーン」 (1992年1997年)の主人公・セーラームーン月野うさぎをはじめ、「新世紀エヴァンゲリオン」(1995年1996年)の葛城ミサト、「呪術廻戦」(2020年ほか)ではフリーで活動する呪術師・冥冥(めいめい)の声を担うなど、日本の声優界を代表するリビングレジェンド三石琴乃海外ドラマでは、アメリカでロングヒット中の医療ドラマシリーズ「グレイズアナトミー」(2005年〜)の主人公メレディス・グレイ(エレン・ポンピオ)の吹き替えを18年間にわたって務め上げた。アニメーション声優、吹替、ナレーションなど、多様な“声”でファンを魅了する彼女は連続ドラマ「リコカツ」(TBS系、2021年)で主演の北川景子の母親役に起用されるなど、声優活動だけにとどまらず活躍の幅を広げており、次期“大河ドラマ”への出演も決まっている。今回は、そんなマルチプレイヤー・三石の軌跡をたどる。

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1990年代に現れた声優界のスーパースター

学生の頃から声優の仕事に興味を持っていたという三石。高校卒業後は声優養成所に通い、当時の同期にはアニメ「銀魂」やトム・クルーズの吹替でもおなじみの森川智之や、アニメ「名探偵コナン」などで声優を担当する高木渉らがおり、デビューを目指し切磋琢磨していたという。そんな三石の声優デビューは「エースをねらえ! ファイナルステージ」(1989年)の友代役。

そして1992年、三石は後に代表作の一つとして語られるアニメ「美少女戦士セーラームーン」の主人公・月野うさぎという運命的なキャラクターを演じることに。それまでのアニメとは一線を画すコンセプトやキャラクター設定などのインパクトも後押しとなり大ヒット。おなじみの決めぜりふ「月にかわっておしおきよ」の“名言”とともに彼女も声優として大ブレイクを果たす。

さらにアニメ「新世紀エヴァンゲリオン」の葛城ミサトの声も担当し、アニメファンから絶大な支持を得る人気声優の一人として1990年代のアニメシーンを支える存在へ。下積み時代には声優を目指すかたわら、東京都庁に就職した経歴を持つなど、社会人として働いていたことも声優の仕事に生かされているようだ。そういった下積み時代の夢を諦めない努力、何事も真摯(しんし)に取り組む姿勢があってその後の活躍につながったと言えるだろう。

■米・ロングラン医療ドラマの振替を担当

また三石といえば海外作品の吹替キャストとしてもその名をはせる声優だ。中でも2005年にシーズン1の放送がアメリカでスタートし、今もなお続くロングランヒット中の医療ドラマ「グレイズアナトミー」シリーズでは、恋や仕事に翻弄(ほんろう)されながらも医師として懸命に働く主人公・メレディスの声を18年間担当。

本人いわく「(ドラマは)シーズン1で終わると思っていた」そうだが、メレディスが医師のインターン生の頃からベテラン医師として病院を支えるようになったシーズン19まで、長きにわたり一人の女性医師と共に医療現場で奮闘してきた。

自身のSNSでは「なんだかんだで18年…。沢山失敗して沢山凹んで鍛えられた。お陰でもう一つの人生がある。関わって下さったスタッフキャストに感謝」と、本作に対する思いをコメント。惜しまれながらも、メレディスは「グレイズアナトミー シーズン19」(ディズニープラス「スター」で毎週水曜独占配信中)の11月8日(水)に配信される第7話でレギュラーから降板することになっており、三石は「これからの(メレディスの)人生が楽しみだ」と話している。

■近年は女優としても活躍の場を広げる

そんな“旧ビジネスパートナー”のようなメレディスはドラマを卒業し、新たな道に進むわけだが、三石自身も近年では声の出演だけでなく、女優としてのキャリアも積み上げており、声優とは異なるフィールドで着々と活躍の場を広げている。

プロデューサーの熱心なラブコールに応じ、ドラマ「リコカツ」(TBS系、2021年)で連続ドラマ初のレギュラー出演を果たし、“交際0日婚”をした夫婦の妻・咲(北川)の母・美土里を快演。劇中では「美少女戦士セーラームーンR」のエンディング曲「乙女のポリシー」を歌う場面があったり、美土里の着信音が「新世紀エヴァンゲリオン」の“ヤシマ作戦”のBGMだったりと三石をリスペクトした遊び心も満載で、放送当時にはドラマの視聴者から喜びの声があふれた。

さらに、2024年に放送予定の大河ドラマ「光る君へ」(NHK総合ほか)では、藤原道長の母・時姫を演じることが決定。大河ドラマは初出演ということもあり、「オファーを頂いたときは歓喜しました。和装が大好きなのでずっと時代劇に憧れていました。ほんとにうれしいです」などと喜びのコメントを発表しており、2024年は“大河女優”として声の演技だけでなく、表現者としての活躍がますます盛んになりそうだ。

■30年を超える声優人生の苦難をつづる著書も出版

また、2023年の3月には著書「ことのは」(主婦の友社)を出版し、30年を超える声優人生の苦難を振り返り、現在に至るまでのエピソードなどを披露。なかなか知ることのできない声優界の厳しさなどを彼女の言葉を通して感じ取ることができる内容となっている。

ベテラン、レジェンド声優と呼ばれる地位を築いた今でも前進し続ける姿はデビュー当時から変わっておらず、そういったひたむきな姿が多方面で活躍するマルチな彼女の才能を引き出した。それは月野うさぎやメレディスといったエネルギッシュなヒロインのような魅力を持つ、三石だからこそ成し遂げられる業だと思う。

◆文=suzuki

三石琴乃/※2023年ザテレビジョン撮影