東京バレエ団がこの11月、創立60周年記念シリーズ第2弾として、斎藤友佳理芸術監督総指揮のもと新制作『眠れる森の美女』を初演することが決定。11月11日(土)より東京文化会館(上野)で8公演、また浜松、横須賀、堺の3都市公演を含めて全11公演が実施される。

東京バレエ団 新制作『眠れる森の美女』ビジュアル

新制作の総指揮をとる芸術監督の斎藤友佳理は、2015年に監督就任以来、ブルメイステル版『白鳥の湖』(2016年1月)、斎藤自身の改訂による『くるみ割り人形』(2019年12月)とふたつの古典バレエの新制作を手掛けて成功へと導いた。創立60周年を控えたこの時期に、“チャイコフスキー三大バレエ”の残るレパートリーである『眠れる森の美女』をいかに実現させようとしているのか。濃密なリハーサルの最中、斎藤が取材に応じた。

1890年、クラシックバレエ最盛期に古典主義スタイルの完成形として成立し、古典バレエの最高峰と称される『眠れる森の美女』。今回、斎藤は受け継がれた傑作の品格、薫りを保ちつつ、現代のバレエ芸術に相応しいアップデートを行うことを目指した。

Photo:Shoko Matsuhashi

苦心したのは「本来あるべき『眠れる森の美女』の中核と、時代とともに少しずつ変わっている革新すべき技術とのバランスをとること」だと明かし、「ストーリーの根本は変えてはいけないし、古典バレエである薫りを残さなければいけない。根本のコアな部分は変えずに、時代とともにアップデートされていかなければいけない」と強いこだわりで、本公演に臨む。

特に注目し、新演出の主軸となったのが、リラの精とオーロラ姫の関係性。リラの精が、オーロラ姫、そしてデジレ王子の“洗礼の母”として、100年の歳月を経て、ライラックが生い茂る城で、両者を引き合わせるのだ。オーロラ姫とデジレ王子は「次元の違う存在」だといい、「リラを通して、眠っているオーロラと、現世を生きるデジレが出会う。ですから、ふたりを絶対に(物理的に)触れさせたくなかった」と語る。そうすることで、リラの精の導きの重要性が強調され、善悪が争うおとぎ話の枠を超えた、より深い物語性を追求した。

Photo:Shoko Matsuhashi
Photo:Shoko Matsuhashi
Photo:Shoko Matsuhashi

今年7月の『ジゼルオーストラリア公演が高く評価され、上昇気流に乗る東京バレエ団から、今回『眠れる森の美女』の主役のオーロラ姫とデジレ王子に選ばれたのは、沖香菜子・秋元康臣、秋山瑛・宮川新大、金子仁美・柄本弾の3組だ。

オーロラ姫を演じる3人について、「他のダンサーたちもそうですが、一緒に成長してきた3人と『眠れる森の美女』をやりたいという気持ちが強くありました」と起用理由を説明し、「プラスの部分が全面的に出て、長所を生かせるようにエネルギーを注ぎたい。皆、それぞれ可能性を持っていると思います」と信頼と期待を寄せた。また、デジレ王子とカラボスを日替わりで演じる柄本に対しては、「今の彼には、無限大の可能性を感じます。世界中どこを見ても、カラボスを踊った人が、数日の間に、デジレ王子を踊るのを私は見たことがありません」とやはり絶大の信頼を示している。

Photo:Shoko Matsuhashi

幻想的な世界観を表現する装置、衣裳も“新制作”となっており、大きな見せ場となる。特にこだわりを詰め込んだのが、リラの精の導きによって、デジレ王子がオーロラ姫の眠る城へと向かうパノラマだ。そこで必要なのが、現世と異界を隔てる“川”。「次元の違う人たちを連れていくために、必ず川を渡らなければいけない」。そのため、スモークの中をゴンドラで移動するといった従来の演出ではなく、およそ45メートルの背景幕が移動するというスペクタクル演出が登場する予定だ。

また、リラとカラボスの対立は、リラ(ライラック)の花々をあしらった鮮やかな紗幕と、カラボスの悪意を象徴する蜘蛛の巣が、視覚的にせめぎ合う効果的な演出が施され、物語を象徴的に導いていく。

前述した『白鳥の湖』『くるみ割り人形』、そして『眠れる森の美女』をもって、斎藤による“チャイコフスキー三大バレエ”が完成することに。「肩の荷が下りるというか、それまではどんなことがあっても、頑張っていきたいという気持ちが、すごくありました」と率直な思いを語り、『眠れる森の美女』の開幕に心を震わせていた。

<公演情報>
東京バレエ団 創立60周年記念シリーズ2
新制作初演
眠れる森の美女』全3幕 プロローグ

音楽ピョートル・チャイコフスキー
台本:イワン・フセヴォロシスキー、マリウス・プティパ(シャルル・ペローの童話に基づく)
原振付:マリウス・プティパ(1890年)
新演出・振付:斎藤友佳理
ステージング・アンド・プロダクション・コンセプト:ニコライ・フョードロフ
装置・衣裳コンセプト:ニコライ・フョードロフ
舞台美術:エレーナ・キンクルスカヤ
衣裳デザイン:ユーリア・ベルリャーエワ

【東京公演】
2023年11月11日(土)~14日(火)、16日(木)~19日(日)
※13日(月)、14日(火)、16日(木)は団体貸切
会場:東京文化会館

【静岡公演】
2023年11月23日(木・祝)
会場:アクトシティ浜松・大ホール

神奈川公演】
2023年11月26日(日)
会場:横須賀芸術劇場・大劇場

【大阪公演】
2023年11月28日(火)
会場:フェニーチェ堺・大ホール

チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2319846

公式サイト:
https://www.nbs.or.jp/stages/2023/sleeping/

新制作「眠れる森の美女」囲み取材より、東京バレエ団・斎藤友佳理芸術監督