2023年11月7日(火)東京芸術劇場 プレイハウスにて、舞台『ねじまき鳥クロニクル』が開幕し、舞台写真・ダイジェスト映像・コメントが届いたので紹介する。

舞台『ねじまき鳥クロニクル』(2023)舞台映像ダイジェスト

本作は、世界的に評価される村上春樹の傑作長編『ねじまき鳥クロニクル』を豪華クリエイター陣が舞台化した創造性豊かな意欲作。“あの壮大な原作をどう舞台化するのか”と注目を集めた2020年の初演時、原作者からも“美しい舞台”と評され大きな話題を呼びながらも公演期間の短縮を余儀なくされたステージが、全編のリクリエイションを経てついに初日を迎えた。

村上春樹が世界で評価されるきっかけとなった『ねじまき鳥クロニクル』をトップクリエイターたちの手で舞台化した衝撃作が、ブラッシュアップされて帰ってきた。
芝居、コンテンポラリーダンス、音楽が融合した、既成ジャンルを打ち壊す独創的な空間は観客を“ここではないどこか”へいざなう。圧倒的な美しさの美術・照明と、原作小説の世界をあぶりだすような音楽で、異世界へ入り込んだような没入感のある時間を過ごすことができる作品となっている。

妻のクミコと共に平穏な日々を過ごしていた主人公・トオルが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ思いもよらない戦いの当事者となっていく物語。

(左から)牛河役:さとうこうじ、岡田トオル役:成河      撮影:田中亜紀

(左から)牛河役:さとうこうじ、岡田トオル役:成河      撮影:田中亜紀

主演を務めるのは成河と渡辺大知の二人。Wキャストではなく、二人で岡田トオルという人間の多面性を演じる。成河はその身体性で、“壁抜け”をした潜在意識世界で妻を見つけ出す戦いをまさに全身で表現。小説から抜け出したような自然体のトオルを演じる渡辺は、心の葛藤を鮮烈な歌に乗せて観客の心を打つ。

”死”への興味を持つ風変わりな女子高生・笠原メイを演じる門脇麦は、印象的な澄んだ声と歌で原作のヒロインといえるメイを体現。16歳の少女が感じる“この世界”への違和感を繊細に見せていく。

笠原メイ役:門脇麦      撮影:田中亜紀

笠原メイ役:門脇麦      撮影:田中亜紀

圧倒的な悪として存在する綿谷ノボル役は、初演で衝撃的なダンスシーンを見せた大貫勇輔と、バレエダンサーとして世界的に活躍し現在は俳優としても多くの舞台に出演する首藤康之がWキャストで演じる。なお、大貫勇輔は本日初日を迎える。

(上)綿谷ノボル役:大貫勇輔(下)加納クレタ役:音くり寿      撮影:田中亜紀

(上)綿谷ノボル役:大貫勇輔(下)加納クレタ役:音くり寿      撮影:田中亜紀

(左)岡田トオル役:渡辺大知(中央)綿谷ノボル役:首藤康之      撮影:田中亜紀

(左)岡田トオル役:渡辺大知(中央)綿谷ノボル役:首藤康之      撮影:田中亜紀

トオルを不思議な世界へ導く加納マルタクレタ姉妹役は、昨年退団した宝塚歌劇団で娘役として歌・ダンス・芝居の技量が高く評価された音くり寿が新たに挑む。さらに初演でこの壮大な物語をクリエイターと共に創り上げた松岡広大、成田亜佑美、さとうこうじ、吹越満、銀粉蝶が再演でも演じ・歌い・踊り、表現する。

(上)間宮:吹越満(右上)岡田トオル役:成河(右下)岡田トオル役:渡辺大知

(上)間宮:吹越満(右上)岡田トオル役:成河(右下)岡田トオル役:渡辺大知

(左から)岡田トオル役:成河、赤坂シナモン役:松岡広大、赤坂ナツメグ役:銀粉蝶

(左から)岡田トオル役:成河、赤坂シナモン役:松岡広大、赤坂ナツメグ役:銀粉蝶

またインバル・ピントによる唯一無二の振付を、加賀谷一肇、川合ロン、東海林靖志、鈴木美奈子、藤村港平、皆川まゆむ、陸、渡辺はるか、8名の表現力豊かなコンテンポラリーダンサーが魅せる。

本舞台では世界的な即興演奏家の大友良英が音楽を担当。バンドが奏でる生演奏は、単なるBGMではなく、心情や叫びなどを楽器の音色で表現している。舞台とぴったり息の合った音の迫力に、観客は心を震わさずにはいられない。

村上春樹の長編3部作を、トップクリエイターたちの手によって奥深く重層的な舞台へと昇華した本作。不思議で美しい奇妙な世界に連れていってくれる舞台『ねじまき鳥クロニクル』。あなたも劇場でとびっきりの没入体験を。

本作の上演時間は1幕90分、休憩15分、2幕75分(計3時間)を予定。

東京公演は11月7日(火)~11月26日(日)東京・東京芸術劇場プレイハウスにて上演、その後12月1日(金)~3日(日)大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、12月16日(土)・17日(日)愛知・刈谷市総合文化センター大ホールにて上演。

【ストーリー】
岡田トオルは妻のクミコとともに平穏な日々を過ごしていたが、猫の失踪や謎の女からの電話をきっかけに、奇妙な出来事に巻き込まれ、思いもよらない戦いの当事者となっていく——。

物語は、静かな世田谷住宅街から始まる。主人公の トオル(成河/渡辺大知) は、姿を消した猫を探しにいった近所の空き家で、女子高生の 笠原メイ(門脇 麦) と出会い、トオルを“ねじまき鳥さん”と呼ぶ少女と主人公の間には不思議な絆が生まれる。赤いビニール帽子をかぶった“水の霊媒師”加納マルタが現れ、本田老人と間宮元中尉によって満州外蒙古で起きたノモンハン事件の壮絶な戦争の体験談が語られる。

そしてある日、妻のクミコが忽然と姿を消した。クミコの兄・綿谷
わたやノボルから連絡があり、クミコと離婚するよう一方的に告げられる。クミコに戻る意思はないと。だが、クミコ失踪の影には綿谷ノボルが関わっているのではないかという疑念はしだいに確信に変わってゆく。トオルは、得体の知れない大きな流れに巻き込まれていることに気づきはじめる。

何かに導かれるように隣家の枯れた井戸にもぐり、クミコの意識に手をのばそうとする主人公トオル世田谷の路地から満州モンゴル国境まで、クミコを取り戻す戦いは、いつしか時代や空間を超越して、“悪”と対峙する“ねじまき鳥”たちの戦いとシンクロする。暴力とエロスの予感が世界をつつみこむ……。
はたして、“ねじまき鳥”はねじを巻き、世界のゆがみを正すことができるのか? トオルはクミコを探し出すことができるのか——。笠原メイとふたたび会えるのか。


演出家・出演者コメント

■インバル・ピント(演出・振付・美術)
■アミール・クリガー(脚本・演出)

舞台芸術は今起きていて、絶えず変化します。
私たちの創作で重要なのは、「動き」は「時間」の具現化であるということです。
初演から約4年を経て、この作品は、携わる人たち全員のこの数年間の人生を映し出す鏡となりました。そして、独自の命を宿した作品を通して、私たちは新たな視点を持つことができました。
村上春樹の世界には多くの秘密と鍵が暗号化されています。村上作品の、豊かで無限の宇宙を旅できることに感謝します。
登場人物のひとりが、ある場所を「あなたが今いる場所」と呼びます。
この場所を皆さんと共有できることを嬉しく思います。
それが再び、時間の流れの中へと消えてしまう前に。

■成河(岡田トオル 役)
初演時から、まだ誰も踏んでいない新雪の上を歩くような、ルールのない、不安と興奮が入り混じった創作を続けてきました。産みの苦しみを経て出来上がった初演という入れ物に、今回は丁寧に中身を詰めていく作業が出来ました。そうした中で、誰もが主体的に発言し、作品の隅々まで共有する意欲を持つ、そんな稀有で美しいカンパニーに成長出来た事が、今は何よりの誇りです。千秋楽までの1分1秒、この幸せを余す所なく全身全霊で感じたいと思います。
U25チケットで買える日がまだまだあります。ひとりでも多くの学生、若者のみなさんが私たちの『ねじまき鳥クロニクル』と出会ってくれることを、心から願っています。玄人演劇ファンの皆様におかれましては、是非このU-25チケットを広めて頂き、一緒にこの畑を耕す幸せを共有出来たらと思います。品質は保証します。

■渡辺大知(岡田トオル 役)
僕にとってインバルの舞台は言葉の壁を越えて切実で、舞台そのものに血が通っているみたいに生き生きとして見えます。
初演の時、ダンスも音楽劇も初めての自分でも、その世界にずっとのめり込んでいたくなるくらい、たくさんの刺激をいただきました。
稽古場がとにかく楽しくて、演者、スタッフさん、皆さんのアイディアが塊になっていく過程は本当に美しい作業です。自分もどうにかその中で自分なりにもがいていましたが、そのもがきこそが幸せな時間だったように感じます。
今回、こうして再演ができることを心から嬉しく思っております。
再演でさらに深く、パワーアップしている自信があるので、ぜひ楽しんでいただき、たくさん考えていただけたら嬉しく思います。

■門脇 麦(笠原メイ  役)
再演の素晴らしさを痛感する日々です。作品への解釈と精度の深まりもそうですし、この3年間で変わったこと。変わってしまったもの。でも変わらないもの。そんなものを感じながら稽古に臨みました。
こんな面白い舞台なかなかないのではないでしょうか。私もお客さんとしてこの舞台を観たかった! それだけが残念です。
インバルの溢れる世界観を皆さんにぜひ見てもらいたいです。お待ちしております。

■大貫勇輔(綿谷ノボル 役/Wキャスト)
初演の時は、コロナで完走できなかったので今回再演ができるとお話を聞いた時に本当に嬉しく思いました。
改めてこの作品に関わり客観的にこの舞台を観ていると、本当に美しくて、不思議で、それでいて暴力的で…そのバランスがとても絶妙で魅力的だなと改めて感じました。
村上春樹さんの『ねじまき鳥クロニクル』という難しい長編の三部作の小説を、見事にインバルとアミールの力で体現されていると思います。
この摩訶不思議な世界観を沢山の人に楽しんでもらえたら、嬉しく思います。
僕も、今日これからですが、精一杯演じたいと思います。

■首藤康之(綿谷ノボル 役/Wキャスト)
初めて体感するインバル・ピントさんの世界。稽古を重ねる度に本当に素晴らしい作品に関わらせて頂いているんだなぁ、、という思いが強く大きくなっています。そして魅力的でポテンシャルの高い共演者の方々! そんな状況に感謝しながらこの綿谷ノボルという役を一つひとつ丁寧にそして大胆に演じていきたいと思っております。

■音 くり寿(加納マルタクレタ 役)
お陰様で無事に開幕しました。まずインバルさん、アミールさんをはじめ共演者の皆様、クリエイティブスタッフの皆様と出会い、共に村上春樹さんのこの素晴らしい作品と向き合い追及し続けられた日々はかけがえのないもので、それが決して当たり前の事ではないのだと、感謝と幸せを感じています。そして兎に角、常にアップデートされる”表現”の面白さと楽しさに震えが止まりません。ひとりでも多くの方にこの奇妙で美しい世界に迷い込み、深く深く降りて、体感して頂きたいなと願っています。
このカンパニーのひとりとして胸を張って皆様と共に舞台にたち続けられますよう日々精進して参ります。劇場でお待ちしております!

■松岡広大(赤坂シナモン 役)
初日が開きました。
この世界には夢だと思うような甘美な瞬間が実生活に顕れていたり、これは夢だと思いたいけれど暗い事柄が現実にも顕れたりします。理解できないことも多い。これら種々様々な現象に対して、言葉にできない感情や情景、或いは目を覆いたくなる事柄や不条理を演劇にしているこの『ねじまき鳥クロニクル』は、誰かの人生を変える力を持っている作品だと信じています。学生さんもU-25の方も遍く全ての人にとって、ゼロイチではない淡さと暗さと万物の「過程」は、とても大切なんじゃないかと強く思います。日本でこんな作品はそうそう観られないです。想像の余地を与え、自由な感性で楽しめる作品の一助たるべく、精進していきます。

■成田亜佑美(岡田クミコ 役)
まるで4年間の空白の時間なんて無かったかのように再演の創作が始まったように思います。でもやっぱりお一人おひとりが確実にそれぞれの時間を過ごして今ここにいる事、そして確実に世界が変わっている事も、日々のお稽古を通して感じていきました。増して“暴力”というモノが悲しく重くのしかかります。
村上春樹さんという水の中をみんなで泳いでいるようだとインバルは言っていました。きっとどこにも辿り着ける場所なんてないのだろなと思うし、誰もどこかに辿り着こうとは思っていないような気もします。とにかく泳ぎ続ける事しか出来ないのですが、誰かのなにかに、どこかのなにかに、届く事を願いながらここからも頑張りたいと思います。

さとうこうじ(牛河 役)
3年半前に劇場への休業要請で中止になってからの再演ですが、役者演出家スタッフ全員の、前回を超えてやるとの熱量が凄いんです。初演もきっともの凄い舞台だったと思いますが、今回それを越える気満々なんです。まだまだ上を目指します!
初演時に原作を読み直した時、村上春樹さんの作品にしては暴力、戦争に関わる所がとても多く感じられ、それまでとは違ったように感じました。
それが今の時代になり、とてもリアルに感じられ、自分で考えろ、というメッセージも強く響きます。
改めてこの舞台から何かを感じ取っていただければ、と思います。
どうぞ劇場に足をお運び下さい。

■吹越 満(間宮 役)
初演の稽古と本番。そして、今回の稽古を合わせて、何回くらい「間宮中尉の長い話」を演ったのでしょう。再演の本番が始まっても、何回やってもまだ尚、新しい発見があります。いいことです。そして、何百回やったとしても、まだミスがあります。よくないことです。しかも、何回もミスしているのにもかかわらず、その誤魔化し方だけが、発見できていません。笑。いや、発見しなくていいのか。ミスしなきゃいいだけの話だ。なんてことを考えながら、今日も台詞を言います。

■銀粉蝶(赤坂ナツメグ 役)
幕があきました。ドキドキハラハラの日々でした。みなさんの前でやれるのか? と自信を持てないまま、今日の初日をむかえました。初日を終えて自信はカケラも芽生えないけど、インバルやスタッフ、キャストのみんなと過ごした稽古場の時間を信じることはできます。そこを信じて千秋楽まで駆け抜けてまいります。

(上)岡田トオル役:渡辺大知(下)岡田トオル役:成河