日本映画を代表する人気シリーズ「釣りバカ日誌」の17作目となる「釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?」と18作目の「釣りバカ日誌16 浜崎は今日もダメだった♪♪」が11月にCS放送の衛星劇場にて放送される。本記事では、現代でも繰り返し放送され、日本映画史に残る長寿シリーズとしても知られる「釣りバカ日誌」の軌跡と魅力に迫っていく。

【写真】タイを釣り上げて満面の笑みを浮かべる西田敏行“ハマちゃん”

■釣りをこよなく愛する“ハマちゃん”が主人公の「釣りバカ日誌

西田敏行と三國連太郎が演じる“ハマちゃんとスーさん”のコンビでお馴染みの映画「釣りバカ日誌」シリーズは、作・やまさき十三、画・北見けんいちによる同名コミックを原作に、1988年12月24日に第1作が劇場公開された。

釣りをこよなく愛する“ハマちゃん”こと浜崎伝助は鈴木建設の万年ヒラ社員。四国支社高松営業所・営業課に所属し、四国は絶好の釣りスポットということで女木島に一軒家を購入してずっと住むつもりでいたが、なぜか東京本社の営業部・営業三課に異動を命じられてしまう。本来なら栄転で喜ぶところだが、仕事よりも釣りを優先させるハマちゃんは本社異動を渋っている。しかし、妻・みち子に東京湾にもいろんな魚がいると教えられるとあっさりと異動を受け入れたハマちゃん。

“スーさん”こと鈴木一之介は一流企業「鈴木建設」を1代で築いた社長。たまたま入った定食屋で焼魚定食を食べていると、向かいの席に座っていたハマちゃんから「もう食べないの? もらっていい?」と声をかけられ、「きちんと食べてあげるのが魚への供養ですからねぇ」とスーさんが食べ終えた焼魚を骨だけになるくらいキレイに食べ尽くした。自分が勤める会社の社長だと気づかないハマちゃんは、スーさんのことを定年退職して第2の人生を送っている寂しい老人だと勘違いし、デパートの屋上に連れて行き、コーヒーを奢ってあげたりして、自宅の電話番号を渡して交流が始まった。趣味のないスーさんを釣りに連れて行き、師匠と弟子の関係性に。しかし、実生活では社長と一社員という全く逆の関係性というのが、このシリーズの面白いところだ。

西田敏行“ハマちゃん”はドラマ・バラエティで人気が拡大

ハマちゃんを演じる西田にとって、この役は大きなハマり役となった。1977年に放送がスタートした「特捜最前線」で東北出身の刑事・高杉陽三を演じ、1978年放送の「西遊記」では堺正章孫悟空、夏目雅子の三蔵法師、岸部シローの沙悟浄、そして西田の猪八戒というラインナップで子どもを含めたファミリー層に人気が拡大した。1976年から1978年にかけて放送されたバラエティ番組「みごろ!たべごろ!笑いごろ!」は、キャンディーズ伊東四朗、小松政夫らが出演していたが、途中から西田もレギュラーとして出演。“若大将”加山雄三が出演していたこともあり、西田は「カバ大将と呼んでください」と言ったりと、この番組でキャラを全面に押し出したことでさらに人気も上昇。

重要な作品としては「池中玄太80キロ」も外せない。西田の民放連ドラの初主演作で、大京通信社の専属カメラマン役を演じた。亡き妻が残した3人の娘たちとの生活に奮闘する姿はとても印象的だった。シリーズ化され、「もしもピアノが弾けたなら」などの名曲も誕生した。1981年に大河ドラマ「おんな太閤記」で豊臣秀吉を演じたほか、冒険家・植村直己役を演じた映画「植村直己物語」、日本・中国合作映画「敦煌」の主演を務めるなど、活動の幅をどんどん広げていった。そんな流れの中で「釣りバカ日誌」が始まったので、すでに大御所俳優だった三國とのコンビはスタート前から注目度が高かった。

■登場人物の成長を見守れる「釣りバカ日誌

釣りバカ日誌」シリーズは、1988年12月公開の第1作から、2009年12月公開の「釣りバカ日誌20 ファイナル」まで、外伝的な作品も含めて全22作が製作された。ハマちゃんの妻・みち子は石田えりから浅田美代子に、スーさんの妻・久江は丹阿弥谷津子から奈良岡朋子にバトンタッチしたが、ハマちゃんとスーさんは西田と三國がシリーズを通して同役を演じた。

ハマちゃんは“釣り好き”なのと同じくらいに愛妻家で、シリーズ序盤では子どもが欲しくて夫婦の営みを「合体」という文字で表現されているのもこのシリーズならではのユーモアで、第4作で妊娠し、第5作から長男・鯉太郎を加えた3人家族として描かれている。鯉太郎がどんどん成長していく様子が見られるのもこのシリーズの楽しみとなっていた。

■「釣りバカ日誌15・16」見どころは…江角マキコ&伊東美咲のヒロイン

今回放送される第17作「釣りバカ日誌15 ハマちゃんに明日はない!?」と第18作「釣りバカ日誌16 浜崎は今日もダメだった♪♪」は、2004年8月21日と2005年8月27日に公開された作品。

「15」は、家族的会社経営を行ってきた鈴木建設だが、重役たちは人事制度の見直しを図ろうとして経営コンサルタントに経営診断を依頼。つまり、リストラを進めようとしていた。そんなことはお構いなく、ハマちゃんはリフレッシュ休暇と称して長期休暇を取り、秋田へ。移動する東北新幹線でハマちゃんの隣の席にいたのが、鈴木建設を担当する経営コンサルタントの1人、早川薫だった。演じているのは江角マキコ。30代半ばまで仕事一筋に頑張ってきたが、久しぶりに故郷の秋田に戻って同級生たちに会うと、地元の友達は結婚して子どもがいたりする。その中で、県の水産振興センター資源増殖部の研究員として魚を研究している福本哲夫(筧利夫)だけは昔のままで、薫はその素朴さに惹かれた様子。朝原雄三監督の「釣りバカ日誌」2本目となる本作は、小津安二郎の名作「麦秋」をモチーフにしていて、日本映画らしい滋味深いものに仕上がっているのが特徴。この作品では、ハマちゃんは秋田県男鹿市の大黒島でタイを釣り上げている。

「16」は、サブタイトルが内山田洋とクールファイブのヒット曲「長崎は今日も雨だった」のパロディということからお気づきの通り、物語の舞台は長崎県。鈴木建設が請け負った長崎県佐世保市の「第二西海橋」の連結式のために出張するスーさんのお供としてハマちゃんも長崎へ。長崎営業所の久保田達也(金子昇)が現地の案内役をしてくれるが、久保田には恋人がいた。その恋人・河口美鈴を演じているのは伊東美咲。バンド演奏と歌が楽しめるライブ・バー「テリーズ・バー」のマスターを務める父・輝男との2人暮らしで、結婚はしたいが、父を一人にできないと思い葛藤する。父・輝男を“日本レコード大賞”受賞歌手の尾崎紀世彦が演じていて、劇中で音楽シーンもふんだんに使われている。美鈴とのデュエットで「Making Plans」を聴かせたり、ハマちゃんと「My Lovely Town」を歌ったり、これも尾崎出演回ならではの個性と言えるだろう。

一方、ハマちゃんは米軍の“釣りバカ”ボブ(ボビー・オロゴン)と九十九島でイカ釣りを楽しんだりするが、飲みすぎて酔っ払い、目が覚めるとアメリカ艦隊のイージス艦の中にいるという大事件になっていた。この作品でハマちゃんは、九十九島でのイカの他に、イージス艦でこっそり太平洋上で釣りをして謎の深海魚を釣り上げている。

大泉洋、石田ゆりこ吉岡秀隆、鈴木京香など豪華ゲスト陣もシリーズの魅力

この2作に限らず、“ハマちゃんとスーさんの掛け合い”や“ハマちゃんと妻・みち子との仲良しっぷり”、そして、香川と東京湾に始まり、愛知・渥美半島、静岡・西伊豆、京都・丹後半島、島根・出雲、山形・庄内地方、沖縄・久米島、富山・宇奈月温泉といった全国各地での釣りシーンがこのシリーズの大きな魅力になっている。

さらに、五月みどり、豊川悦司、富田靖子、田中邦衛、寺尾聰、柄本明、小林稔侍、風吹ジュン黒木瞳、桜井幸子、宮沢りえ、吉岡秀隆、鈴木京香、小澤征悦、高島礼子、三宅裕司、石田ゆり子大泉洋、檀れい、高嶋政伸、常盤貴子、竹内力、松坂慶子、吹石一恵、塚本高史といった豪華ゲスト陣にも注目したい。

そして、栗山富夫、森崎東、本木克英、朝原雄三といった松竹映画を支えてきた監督たちがメガホンを取り、「男はつらいよ」シリーズの監督・山田洋次がシリーズ全22作の脚本を手がけていることも、「釣りバカ日誌」シリーズの面白さを保証してくれている。どこから見始めても楽しめるのが「釣りバカ」の良さでもあるので、「15」「16」をたっぷりと味わってもらいたい。

◆文/田中隆信

「釣りバカ日誌」より/(C)2005 松竹株式会社