分譲マンションの世帯主(一次取得者)の平均年齢は39.9歳。30年前後のローンを利用して夢のマイホームを手に入れる人が多いようです。しかし、そのプランではローン完済時期は70歳。年金生活突入後もしばらく返済が続くことになります。そこで今回は、完済時期の不安を解消するための方策として、「繰上返済」をシミュレーションしてみます。

「30年ローン」でマンションを買った40歳・サラリーマン…現実味を帯びる老後破産

人生の三大支出にも数えられる「マイホーム」。数千万円を一括で支払える人は稀で、大半が住宅ローンを利用して住宅を取得しています。

国土交通省令和4年度住宅市場動向調査』によると、分譲マンションを購入した人(一次取得/世帯主)の平均年齢は39.9歳、世帯年収は923万円でした。購入資金は5,048万円で、そのうち借入金は3,610万円、返済期間は29.7年というのが平均値です。

おおむねこの平均通り、40歳で5,000万円のマンションを購入した場合のプランをみていきましょう。借入金は3,600万円で返済方式は元利均等、金利は1%と仮定すると、利息分は568万4,288円で、月々の返済は11万5,790円となります。

厚生労働省令和4年賃金構造基本統計調査』によると、40代前半の大卒・サラリーマン(正社員)の推定年収は685万円ほどですから、世帯年収に占める返済負担率は約20.3%ということになります。ローンの返済負担率は20~25%が適正な水準とされていますので、問題はなさそうです。ただ、完済年齢が70歳というのは少し気になるところ。原則として65歳から年金の受給がスタートしますから、およそ5年間、年金で暮らしながらローンを返済する期間が発生することになります。

厚生労働省の調べによると、厚生年金受給者の平均年金額は月14万円程度。65歳以上の男性は月17万円、女性は10万円程度とされています。元・共働きの夫婦なら合計で月27万円ほどを受け取れる計算ですが、無職の高齢者夫婦の平均消費支出は22万~23万円程度。保険料・税金等が天引きされることを考えると、年金を住宅ローンの返済に充てる余裕はなさそうです。

そうなると、月12万円弱の返済のためには貯蓄を取り崩すほかありません。上記のシミュレーションの通り、月の返済額が11万5,790円の場合、5年間の返済総額は約695万円。

大事な貯蓄のうち700万円近い金額がローン返済に消えるとなると、それだけ老後の不安が大きくなりますから、できることなら年金生活に突入する前に、住宅ローンの返済地獄から脱却しておきたいものです。

貯蓄の3割を繰上返済…完済時期はどうなる?

それでは、65歳で完済すべくローンの返済期間を25年に設定した場合、返済プランはどうなるのでしょうか。金利等は上と同条件とすると、利息分は470万2,071円と、30年ローンに比べて100万円近く減額できました。一方、毎月の返済額は13万5,674円と月2万円ほど増えることになります。

返済負担率は23.7%と、まだまだ適正な水準には収まっているものの、勤め先の業績悪化による減給・ボーナスカットや、病気・ケガ等による休職等のリスクを考えると、このレートは低ければ低いほど良いのが当然。毎月の返済額を増やしてでも返済期間を短縮することが絶対的な正解とは言えなさそうです。

それでは、繰上返済をするとどうなるでしょう。ローンの契約条件は同様とし、5年に1度のペースで繰上返済を行うプランをシミュレーションしてみましょう。

総務省の『貯蓄・純貯蓄・負債現在高階級,年間収入階級別1世帯当たり1か月間の収入と支出 』(2022年)をみると、世帯年収650万~700万円世帯では1ヵ月あたりの貯蓄純増が13万4,173円。貯蓄の3割を繰上返済に充てる場合、1回あたりの返済額は約240万円。このペースで返済すれば、4回目の繰上返済で住宅ローンは完済となります。利息分は369万889円となり、30年返済時に比べて200万円ほどの利息圧縮効果も見込めます。

しかし、繰上返済を検討する際に忘れてはならないのが手数料。金融機関によっては手数料がかからないケースもありますが、繰上返済のたびに最大数万円程度の手数料が発生することを考えると、その負担は無視できないものになりますから、注意が必要です。

上の返済シミュレーションでは繰上によって返済回数を減らしましたが、回数は元のままで毎月の返済額を減らす方法もあります。諸条件は同様として返済額をみていくと、5年目以降は12万4,552円、10年目以降は11万0,889円、15年目以降は9万1,402円、20年目以降は5万6,092円と確実に減っていきます。

サラリーマンとしての給与がピークに達する50代後半では月の返済額は10万円を割っており、老後に向けた資産形成にもラストスパートをかけられそうです。

利息額は405万4,172円と、返済回数を減らすパターンと比べれば36万円ほど増えますが、繰上返済なしの30年ローンと比べれば65万円も少なくて済みます。返済回数を減らすよりも、徐々に月の返済負担が軽減していく後者のプランのほうが安心できるという人も多いのではないでしょうか。

定年後の不安を軽減するために、返済回数を減らして現役のうちに返済を終えてしまうのか、毎月の返済負担を減らして残したキャッシュで資産形成を同時並行させるのか、選ぶべき方策は人それぞれです。完済が想定される時期の家計状況を勘案し、現役引退後の貯蓄の減少スピードを抑えるための最適なプランを選択することが重要です。

(※写真はイメージです/PIXTA)