日照時間が少しずつ短くなるこの季節。日の入りが早く肌寒くなり、気分が落ち込みがちになるという人もいるだろう。北欧などでは、“日照時間が短いとうつ病が増える”という説があるそうだ。「教えて!goo」にも「秋になったら気候の関係か具合が悪いです」と、不調を訴える投稿が寄せられていた。実際に、日照時間は人の心理に影響を及ぼすものなのか。そこで今回は、日照時間と心理状態との関係に加え、気分が落ち込んだ際の対処法も併せて、臨床心理士の吉田美智子さんに話を聞いてみた。

■日照時間が短いと気分が落ち込みやすい?

季節の変わり目には体調が不安定になりやすいが、同時に心理的な不安を感じる人も多いようだ。吉田さんによると、今頃の季節に気分が落ち込む症状には病名がついているという。

「『季節性感情障害』とよばれ、10月から11月頃に発症し、3月頃に回復する精神疾患です。『秋うつ』、『冬季うつ』とよばれることもあります」(吉田さん)

どんなことが原因で発症するのだろうか。

「『概日リズム』といわれる体内時計が乱れることが原因の一つとして挙げられます。これは約24時間周期で生じる生理機能や行動を調節する機能です。そして、冬になると日照時間が短くなり、睡眠、食欲、心身の安定に関わる神経伝達物質『セロトニン』が減少することなども影響するといわれています」(吉田さん)

代表的な症状を教えてもらった。

「秋になり日が短くなることで作物は収穫を迎え、木々が紅葉、落葉します。すると、何となく物悲しい気持ちになりやすいです。やる気が出ない、考えがまとまらない、だるい、過食、体重増加、過眠、通常のうつ症状や抑うつ感(気持ちが塞ぐ)、食欲不振などもよくある症状です」(吉田さん)

一般的に不眠の症状はみられないという。

何となく感じていた不調に病名があることがわかれば、対処法を検討しやすくなる。不調を感じたら「季節性感情障害」の症状と照らし合わせ、回復に向け適切な行動をとりたい。

■気分が落ち込んだ際の対処法

季節の変わり目に発症するのであれば、“暗さや寒さに身体が慣れてくると症状は改善するのでは”と期待したくなるが……。

「回復は3月頃(翌春頃)になることが多いので、予防や対処が大切です。日常生活に支障が出る場合は、医療機関を受診しましょう。服薬治療や光を浴びる治療などがありますよ」(吉田さん)

自分でできる予防法として、生活面で心がけるとよいことを教えてもらった。

「日光浴をしましょう。生活リズムを整えるためにも、特に朝日を浴びるのがよいです。散歩など適度な運動を心がけ、寝る1時間前には電子機器の使用を控えると入眠しやすいですよ。生活の中に黄色やオレンジ、赤などの明るいカラーや心地よい香りを取り入れたり、肌触りのよい衣類やブランケットを選んだりするのもよいでしょう」(吉田さん)

食事面での工夫も大切とのこと。

セロトニン生成を助けるトリプトファン(必須アミノ酸)を増やすには、たんぱく質を摂るとよいといわれています。加えて、根菜類(じゃがいも、里芋、大根、にんじんごぼうなど)を使ったお味噌汁、鍋物、スープなど、身体を温める献立を取り入れ、体温を上げることを心がけましょう。慌ただしい朝はインスタントスープでも十分ですよ」(吉田さん)

よくみられる症状に過食があるが、「食事量には過敏になりすぎないで」と吉田さん。

「過食気味になると自己嫌悪してしまう人がいますが、気持ちが落ちているときに『食べ物で気持ちをあげよう』と考えるのは自然なことです。自分を責めないでください」(吉田さん)

風習や伝統行事にも、寒い冬を乗り切るヒントがあるというから興味深い。

「冬至を越すと日が少しずつ長くなり“太陽が再生する”と考えられていたことから、世界各地で冬至を祝う風習があります。クリスマスも冬至を祝う風習とキリスト教が混じり合ったといわれています。日本では冬至にかぼちゃや小豆を食べたり、ゆず湯に入って風邪を予防したりする風習がありますね。お正月や節分も、暗くて単調になりがちな冬の生活を彩る生活の知恵といえるでしょう」(吉田さん)

吉田さんには毎冬、思い出す一説があるそう。

「国文学者、民俗学者、歌人であった折口信夫氏によると、“冬”の語源は『暗くて凍える寒いこの時期を越すことは魂を増やす(増やす→ふゆ)』との説があるようです」(吉田さん)

「魂を増やす」は「心を豊かにする」の意とか。冬越えの中、さまざまな生活の知恵を通して心を豊かにできると思うと希望が持てる。暗く寒いこれからの時期、心地よく過ごせる予防法や対処法を見つけながら、身も心も健やかに春の訪れを待ってみよう。

●専門家プロフィール:吉田美智子
臨床心理士。公認心理師東京都スクールカウンセラー。東京・青山のカウンセリングルーム「はこにわサロン東京」主宰。自分らしく生きる、働く、子育てすることを応援中。オンラインや電話での相談にも対応している。

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教えて!goo スタッフ(Oshiete Staff)