東京・日比谷のシアタークリエにて『ビロクシー・ブルース』が上演中だ。この作品はブロードウェイを代表する喜劇作家ニール・サイモンの自伝的戯曲。作家自身を重ねているユージン濱田龍臣)を中心とした若者たちの、第二次世界大戦中の新兵訓練所での日々が、ユーモアと苦味を交えて描かれる。それが遠い日のことと思えないのは、俳優たちの生々しさが迫ってきたからに違いない。訓練所に放り込まれた面々は、性格も価値観もまったく異なっている。だから当然ぶつかり合うが、そのやりとりの妙も、キャスティングが功奏した。

まず、ユージンを演じる濱田龍臣には、観客に語りかける役割もあり客観性が求められるが、冷静に見つめているだけではない熱さが濱田にはあった。作家になりたくてこの日々を回顧録に書き留めていること。初体験や初恋への思い。どれだけ周りから冷やかされてもひるまず、純真さを貫き通す。

開幕前の囲み取材では、「稽古で会話のテンポが上がっていったのを感じて、それはやっぱりこの戯曲の言葉のパワーや表現力があるからこそだと思った」と語った濱田。その通り、会話の応酬はひときわ熱さを感じた。と同時に、ひとり語りの切なさも加えておきたい。

博学だが虚弱体質で、軍曹からもみんなからも標的にされやすいエプスタインを演じているのは宮崎秋人。痩身を終始丸めていて、厳しい訓練に耐えられないのではと最初から痛々しく映る。それでも反骨心を見せて果敢に軍曹に迫るシーンもあり、囲み取材では「自分のためなのか、みんなのためなのか、観る方にはどう見えるのか」と思いながら演じていると語っていた宮崎。ぜひそれぞれで捉えてみてほしいところだ。

寝言でも歌うほど歌好きだが下手なのが、松田凌演じるカーニー。当サイトのインタビュー取材でも松田は歌が課題だと語っていたが、熱唱するも周囲は微妙な表情……というコミカルな場面を見事に成立させていた。囲みで、「カーニーは優柔不断で、食べるものひとつに悩み、恋に悩み、将来に悩み、でも、この時代の男の子としてビビッドに生きている。その男の子が仲間たちとの出会いによって成長して何か決断できているんじゃないかと思っています」と語ったように、その変化も丁寧に見せた。

囲み取材で「この年代にふさわしい、クラスにひとりいればいいなと思うような、素直なアホの子です(笑)」と自身が演じるセルリッジのことを語ったのは鳥越裕貴。自分ではユーモアがあると思い込んでいるもののちっともウケず空回りするセルリッジを、身体中で表現した。暴れん坊に見えるのは強がっているからだということも細やかな表情から伝わってくる。本人のキャラクターそのままに、憎めないセルリッジが仕上がった。

彼らを指導するトゥーミー軍曹を演じたのは新納慎也だ。「いわゆる鬼軍曹です。コンプライアンスを無視したことをしていますが、僕としては礼儀と作法を持ってパワハラしています」と囲みで笑わせたが、長台詞で新兵たちを追い詰めていく様は恐ろしい。

囲みでは宮崎が、「稽古中に、お客様はトゥーミーが喋っている最中の僕らのリアクションを見ているからという話になって、なんてコスパの悪い役なんだと思った」と言えば、長台詞を「BGMなんです」と嘆いた新納。しかし、確かにトゥーミーが怒鳴りつけている間のそれぞれの反応にキャラクターは出るが、決してBGMなどではない。最後の最後にはその責務の重さと愛情も見えてくる。

演出の小山ゆうなは、新納曰く「演劇少女がそのまま大人になられたような方で戯曲の読み込みが深い」とか。だからだろうか、どのシーンもキャラクターの奥が見えてくるようで、どうしようもない青春の日々が浮かび上がる。が、青春グラフィティではあるけれども、その向こうにしっかりと戦争を見せる。今も絶えない争いについても思いを馳せずにいられない。

取材・文:大内弓子

<公演情報>
『ビロクシー・ブルース』

作:ニール・サイモン
翻訳:鳴海四郎(早川書房/2009
上演台本・演出:小山ゆうな

出演:
ジーン濱田龍臣
エプスタイン:宮崎秋人
カーニー:松田凌
セルリッジ:鳥越裕貴
ヘネシー:木戸邑弥
ワイコフスキ:大山真志
デイジー:岡本夏美

ロウィーナ:小島聖

トゥーミー:新納慎也

2023年11月3日(金・祝)~11月19日(日)
会場:東京・シアタークリエ

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/biloxi-blues/

公式サイト:
https://www.tohostage.com/biloxi_blues/

『ビロクシー・ブルース』より