Text:なかしまさおり Photo:橋本優

いまや飛ぶ鳥も落とす勢いでシーンを席巻。ブラックミュージックを軸に、さまざまな音楽ジャンルをクロスオーバーさせたサウンドで老若男女を踊らせるKroiの約2年ぶりとなる主宰イベント“Dig the Deep”が開幕した。

もともとは“一緒に演りたい先輩方を対バンとして呼びたい”一心で始めた企画。だが、今ではその縛りもなく、Kroi自身がリスペクトし、一緒に演りたい、ライブを観たいと思えるバンドだけを集めて演る“ワクワク感がハンパないイベント”へと成長した。第4弾となる今回は全国7都市、7アーティストとの組み合わせが実現。ここではツアー初日、11月3日Zepp Fukuokaでの模様をレポートする。

先に登場したのは、妖艶でサイケデリックな音像、転調変調を繰り返す変幻自在なリズムワーク、あるいはファルセットからシャウトまで自由奔放に行き来するボーカル&コーラスが“病みつきになる!”と噂のTempalay。この日はメンバーの小原綾斗(Gt/Vo)、藤本夏樹(Ds)、AAAMYYY(Cho/Syn)に加えて、ODD Foot Worksの榎元駿(Ba)、NIKO NIKO TAN TANのOCHAN(Syn/Gt/Cho)もツアー・サポートとして参加。

“パシパシ”というコーラスがクセになる「JOE」にはじまり、ヒップホップ色強めの「Booorn!!」やトリップ感あふれる「深海より」。あるいは、おどろおどろしくも、どこか切なさを感じる「カンガルーも考えている」からの「大東京万博」など、小原の飄々とした口調のMCとは裏腹に、凄まじい吸引力と没入感、中毒性を放つ曲で一気に、フロアを独自の色に染め上げていく。

実はこの2組、今年の8月にも東京で2マンライブを行っている。だが、Kroi・内田怜央(Vo/Gt)がMCでも明かしたように、その場に立ち会えなかった関西や福岡方面の人たちから、“こっちでも演ってくださいよ!”との熱い声が多数届き、今回の組み合わせが実現したという。

それこそKroi長谷部悠生(Gt)は高校生の頃、某SNSのプロフィールBGMを「TIME MACHINE」に設定していたほどの大ファンであり「こんなことある?!すごい話よ! ホント、音楽やってて良かった!」と感無量の様子だったが、思えば――表現としてのベクトルは違えど――どちらもジャンルレス&ノーボーダーなミクスチャー・サウンドが信条のバンド。音楽に対する柔軟な創造性を保ち、その文脈に、行間に、あえて“付け入る隙”を与えている……という意味では、非常に近い“ソウル(魂)”を持つ2組なのではないだろうか。

であればこその、親和性。ラスト『そなちね』の咆哮と轟音たる残響の中で、静かにステージを後にする彼らを見つめながら、この組み合わせによる対バンがまた……いや、これから何度でも、実現しますようにと強く願わずにはいられなかった。

後攻、Kroiは転換時最後のBGM『Shakey Ground』(Fishbone)がまだ流れる中で、颯爽と登場。そのBGMが切れ、一瞬の静寂があったのちに、ワンカウントで始まったのが10月にリリースしたばかりの新曲「Hyper」だ。ヘヴィなサウンドとタフなボーカル――のっけから一撃喰らわす見事な構成もさることながら、空耳英語のような弾丸ラップと軽快なギター、高速鍵盤が入れ替わり立ち替わり耳をくすぐり、ステージ上から放たれるヴァイブスとともにフロアの熱を上げていく。最高の幕開けである。

「皆さん調子はどうですか? 最高の夜にしたいと思っております。ブチブチに上がって帰ってください!」と内田。この夏、初のMステ出演でも披露した代表曲の「Balmy Life」をはじめ、「Network」、「HORN」とライブではおなじみのダンサブルな定番曲を次々と投下し、最初のMCへ。

その中で長谷川は「ご存じの方、多いと思うんですけど」と前置きをしたのち改めて、今年9月に左足のアキレス腱を断裂し、手術をしたことを報告。現在もリハビリ中につき、基本は椅子に座っての演奏であるが「最近はリハビリが上手くいって、やっと歩けるようになった。今(ライブ中)だとアドレナリンが出てるから、無痛! 走れるね、たぶん!」と口にし、他のメンバーから「いやそれ、めっちゃ危ないから!」と本気で制止される始末(笑)。

そういえば、さっきの「Network」では、左足をかばいながらもステージ前方に出てきて、ソロパートを全力で演奏。後半の「selva」や「Small World」ではターンまで決め、フロアから大きな拍手と歓声を浴びていたっけ。

ちなみに、2回目のMCではTempalay・小原の「いいなー、『アンダーニンジャ』」という発言を受けて、今日の1曲目「Hyper」が同アニメのOP主題歌であることに触れた内田。ただ、タイアップが決まった後で、Tempalayの楽曲『とん』(詳しくは「アンダーニンジャ とん」で検索)の存在を知り、だからこそ小原にも「認めてもらえるような楽曲を作りたかった」「だから今日、(OP主題歌が)“Kroiで良かった”って言ってもらって、めちゃめちゃ嬉しかったです!!」と喜びを爆発させていた。

中盤戦では、“より黒っぽい”Kroiダイレクトに体感することに……。とりわけ、益田英知(Ds)、関将典(Ba)を中心としたリズム隊が生み出す、絶妙なるタイム感。そして、ハンドマイクに持ち替えた内田が自由自在に歩き回りながらラップする「Mr.Foundation」や、大人びたド渋な歌い回しでハートをかき乱す「Funky GUNSLINGER」、トリップ感強めの「侵攻」までを経た後で放たれる「PULSE」の快感は、それこそKroiというバンド名を掲げるに至った彼らの“核”たる部分をしっかりと感じさせてくれるパートとなっていたのが、印象的だ。

加えて、後半では、とくに千葉大樹(Key)の駆使する鍵盤テクと音楽的センス――これもKroiのサウンドを味わう上では、絶対に欠かせない重要ファクターだが――が爆発。ローズちっくな音色を湛えたイントロで始まる「Astral Sonar」やトークボックスを駆使した本編ラストの「a force」などは、その際たるものといっていいだろう。

その後、客電も点き、会場BGMも流れていたが、鳴り止まない拍手に応えて、再びステージに戻ってきた5人。「ツアー初日は上手にやりたいという気持ちが強かったけど、こっからは普通に、ただ盛り上げますわ!」(内田)との言葉に大歓声を上げたフロア。「こっからは、上手いとか下手とかは、ナシです(笑)。楽しんで!」(内田)と人気曲「Juden」をドロップ

ボンゴを叩きまくりながらボーカルをとり、最後はハンドマイクでラップしながらダンスする内田を見ながら、何でもかんでも端折って縮めて、効率の良さばかりを求める今の時代。音楽にしても“イントロなしのサビはじまりがサブスクではウケる”などと、したり顔で言われたりもするが、本当にそうだろうか?とふと思う。いや、答えはすでに、ここにある。音楽を“自由に”楽しむことを知っているKroiと、そのオーディエンスたち。

この対バンツアーの先にある2024年1月20日日本武道館公演では、より多くの人たちとそれを共有できることを願っている。

<公演情報>
Kroi Live Tour "Dig the Deep" Vol.4

2023年11月3日(金・祝) Zepp Fukuoka

セットリスト

■Tempalay
01.JOE
02.シンゴ
03.ああ迷路
04.Booorn!!
05.どうしよう
06.深海より
07.カンガルーも考えている
08.大東京万博
09.のめりこめ、震えろ。
10.GHOST WORLD
11.そなちね

■Kroi
01.Hyper
02.Balmy Life
03.Network
04.HORN
05.Mr.Foundation
06.Funky GUNSLINGER
07.侵攻
08.PULSE
09.Astral Sonar
10.selva
11.Small World
12.Page
13.a force
EN.Juden

<ツアー情報>
『Kroi Live Tour "Dig the Deep" Vol.4』

※終了公演は割愛

11月12日(日) Zepp Haneda
ゲスト:nobodyknows+

11月18日(土) Zepp Namba
ゲスト:Nulbarich

11月19日(日) 広島CLUB QUATTRO
ゲスト:Bialystocks

11月26日(日) 仙台PIT
ゲスト:Ovall

12月2日(土) Zepp Sapporo
ゲスト:クリープハイプ

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/kroi-t/

<ワンマンライブ情報>
『Kroi Live at日本武道館

2024年1月20日(土) 日本武道館
開場17:00 / 開演18:00

関連リンク

公式サイト:
https://kroi.net

『Kroi Live Tour "Dig the Deep" Vol.4』11月3日Zepp Fukuoka