今年、結成から26年目を迎えたモーニング娘。10月26日には通算73枚目となるトリプルA面シングル「すっごいFEVER!/Wake-up Call~目覚めるとき~/Neverending Shine」をリリースした。今作は11月29日(金)をもってグループを卒業するリーダー・譜久村聖のラスト参加シングルであり、5月に加入した17期メンバーのデビューシングルにもなる。「モーニング娘。らしさと新しさが1つになったシングル」と話す石田亜佑美は、12年間、譜久村と共に歩んできた年長メンバーの1人である。譜久村の卒業に、今どのような心中でいるのか。17期メンバーの井上春華、弓桁朱琴と共に、今回のシングルと譜久村ラストへの想いを聞いた。

【写真】石田亜佑美&井上春華&弓桁朱琴の撮り下ろしショット(11枚)

譜久村聖モーニング娘。への柔らかくて温かい愛

――井上さん、弓桁さんにとってはこれがデビューシングルです。収録曲への印象、レコーディングエピソードから教えてください。

弓桁:「Neverending Shine」は譜久村聖さんのソロ歌唱で、私たちはワンフレーズを数か所歌うのですが、私はそのワンフレーズを録るのにかなり時間がかかってしまいました。「愛もある」とコーラスする場所が3箇所。最初、それを全部同じ風に歌ったら、「それは違うよ」と指摘されて。オーケーをいただくまでけっこうなテイクを繰り返して、それは大変というか、新鮮な体験でした。

石田:そんなことがあったんだ。何が違うってことだったの? 前後の歌詞が違うから歌い方も変わるっていうこと?

弓桁:そうだと思います。私はリズム、メロディー、音程を揃えて歌うものだと思っていたからどう歌い分ければいいのかが分からなくなってしまって。「ちゃんと譜久村さんのことを考えたら感情も変わるでしょ」と、そう指摘されました。

石田:ハルさん(井上)はどう? レコーディングで何かあった?

井上:「Wake-up Call~目覚めるとき~」で、「かわいく カッコよく あざとく 妖しく」の歌詞のとき、ただ歌うだけでなく、表現もしながら歌ってみたらとアドバイスをいただいて。レコーディングなのにポーズをしながら歌ってみたのが楽しかったです。

――「Neverending Shine」は譜久村さんの卒業ソロ曲と言っていいと思います。聴いて、どんな気持ちになりましたか?

石田:実はこの曲、初めて聴いたのがレコーディングのときでした。普段は仮歌を聴きますが、今回は先に録っていた譜久村さんの声を流していただいて、「ああ、譜久村さんだなあ…」って思いながらレコーディングしていました。譜久村さんがモーニング娘。にかけてくださっていた、柔らかくて温かい愛が声からたくさん伝わってきて。私は譜久村さんの柔らかい歌声が大好きで、その歌声が凝縮されているのが聴いていてすごく気持ちよかったです。それと、歌詞。とても大きな愛を歌っている曲で、譜久村さんはモーニング娘。への愛の気持ちで歌ったと話してくれましたけど、ファンの方は自分の色々な気持ちを乗せて聴いてくださるのもいいと思います。自分の大切なものに対してや、仲間を想ってとか。きっと胸がぎゅっとなるんじゃないかと思います。

――井上さん、弓桁さんはこのシングル、他にどんな感想がありますか?

弓桁:「Wake-up Call~目覚めるとき~」はラップパートをいくつかいただけて、そのレコーディングがものすごく楽しかったです。ラップを歌うのは初めてでしたけど、歌割を知ったときは「よっしゃ!」ってなりました。「Neverending Shine」はレコーディングでは一応オーケーをいただきましたけど、自分としては全然ダメなので、コンサートを重ねて、譜久村さんと目が合ったりするときにどんどん完成していくのかなと思っています。

井上:私は石田さんと同じ気持ちで、「Neverending Shine」は譜久村さんの声を聴きながら歌えたので気持ちを込めやすかったです。

■伝統と新しさで聴かせるシングルの2曲

――通算73枚目のシングル。モーニング娘。にとってどんな作品になったと思いますか?

石田:この14人で出せる最初で最後の1枚だという意気込みは曲をいただいたときからあって、特に「Wake-up Call~目覚めるとき~」の仕上がりを聴いたときはなおさらそう実感しました。17期2人の声も今までにない素材として使われているし、私自身だったらラップパートで個性を出せているし。「かわいく カッコよく あざとく 妖しく」の全部が「このメンバーだよね!」という解釈が一致する曲でした。今の14人だからこその曲だと思うし、シングル全体も「これがモーニング娘。だな」という部分と新しい部分があって、それがこの14人で出せたというのが私は嬉しいです。

―― “らしさ”と“新しさ”は、どんなところに感じましたか?

石田:モーニング娘。らしいのは、やっぱり「すっごいFEVER!」ですよね。もう聴いた瞬間、「ザ・つんく♂」だと思う曲。ディスコっぽくて、ファンクな曲で、すごく楽しい雰囲気ですけど、歌詞がちょっと辛辣。それでいてアイドルだったら共感できる言葉も詰まっていて、「青春全てをかけること あんた知ってるかい?」というのは私たちだから歌えると思っています。私はもう、人生の半分がモーニング娘。ですからね。そういったファンクな楽しさの裏に隠れている違う意味というのは「LOVEマシーン」を振り返ってもそうで、あれも世界平和を歌っている壮大な曲ですが、ヘンテコな振り付けが強烈すぎて、楽しい曲として入ってくるんですよね。表の楽しさに隠れた本当のメッセージというのはモーニング娘。の曲の伝統だと思うので、その“らしさ”が詰まった曲だなという印象です。逆に「Wake-up Call~目覚めるとき~」は今風というか、過去曲をオマージュしているようなところに歴史を感じつつ、最近は確かになかった曲だよね、という違いは感じます。

――モーニング娘。の伝統で、石田さんからはどんなことを教わっていますか?

井上:振り付けについてはよく教えていただいています。形だけでなく、オリジナルの振り付けの意味を教えていただけるのは本当にタメになります。

石田:よく言われるルールや伝統は羽賀ちゃん(羽賀あかね。17期の教育係)から教わると思うから、私はそういうところで力になってあげようかなって。やっぱりオリジナルの振り付けの意味は、当時、先生から直接習ったメンバーがちゃんと伝えていかないといけないんですよ。例えば「What is LOVE?」の振り付けは、実はカマキリの動きをテーマにしている、とか。映像だけでは分からないこともあって、それはちゃんと先輩が後輩に。私たちもそう教えてもらってきたので、途切らせないように伝えていきたいと思います。

――ハロプロリズムや歌唱というのも?

石田:ですね。最初に基礎レッスンで叩き込まれます。そのあとは楽曲パフォーマンスの中でリズムの入っていない歌い方やダンスをしていると、気付いた先輩が指導します。

弓桁:この間は北川莉央さんに教えていただきました。声の上げ方のリズムや子音を強く発音するとか。実際に一緒に歌ってくださって、分かりやすかったです。

石田:そういう感じで、誰ではなく、みんなで教えています。

■本物の石田亜佑美はあまり面白くなかった?

――井上さん、弓桁さんは加入して約5か月。せっかく石田さんが同席されているので、2人の石田さんへの印象について教えてください。

弓桁:これ、石田さん本人にも話したんですが、加入前に動画で観ていた石田さんって、すごく元気で声も大きくて、場を回すまとめ役みたいに感じていたんです。でも、加入してみると静かなときも多くて、1人の時間も大切にされる方なんだというのを知りました。私もそういうタイプなので、似ている面があるからこそもっとお話ができたらいいなと思っています。

石田:言われたんですよ。「もっと面白い人だと思ってました」って。

弓桁:違う、違いますよ。そんな言い方じゃないですよー。

石田:案外つまんなかったのかな(笑)。でも、私って今まですごく真面目な人だと言われてきたんですよ。スタッフさんにも、ファンの方にもそういう印象を持たれている自覚はあって、そんな中で私のことを面白い人だと思っていたというのが意外でした。というか、そう言ってくれる人は初めてで、私はそれが面白くて笑っちゃいました。

――井上さんは石田さんの印象、どうですか?

井上:否定しない方だなと思いました。意見もそうですし、その人のことを。

――そう思う出来事が何かあったのですか?

石田:ハルさんは時がゆっくり進む子なんですよ。モーニング娘。が特にそうなのかも知れませんが、私たちって何事もせかせかしていて、「早く次に行くぞ!」みたいな感覚で動いているんですよね。だからハルさんはすごく大変そうに見えて。で、リハーサルとかは確かに「付いてきてね!」というのはあるんですけど、普段の私生活までも変える必要はないんだよって。ハルさんの体感速度で変わらずいてほしいと思って、そう伝えたんですよ。それのことかな?

井上:はい(ニッコリ)。

――そういった加入前に持っていたモーニング娘。の印象とのギャップ、加入して知った驚きというものはありますか?

井上・弓桁:……。

石田:めっちゃ考え込んでるね(笑)。私はあるよ。モーニング娘。なのにリハーサルをするんだって、それがびっくりでした。加入時の私(14歳)は何も分かっていなかったので、モーニング娘。になったらみんな踊れてみんな歌えるようになるんだと思っていて。努力というものがちゃんとあったんですね(笑)。

――それ、道重さゆみさんと同じです。

石田:え、そうなんですか? じゃあ、みんな思うことなんですね!

弓桁:私はそれでいうと、リハーサル期間の短さに驚きました。ミュージカル(バレエ)だと全パートが完成してからも遠し稽古が1か月は絶対にあったんですよ。それがモーニング娘。だと1週間あるかないかで完成させていって、スピードの速さに驚きました。

石田:最初は目が回るよね。しかも春夏秋冬、何かしらツアーやコンサートが入って止まることが全然ないからね。

■12年一緒にいた仲間。12年の中での一番の変化

――譜久村さんの卒業について、今3人はどういう気持ちでいますか?

石田:今の段階では純粋に横浜アリーナ(卒業公演会場)という大きいステージに譜久村さんと立てることへのワクワクの方が大きいです。譜久村さんがリーダーになったときのモーニング娘。って、色々な壁にぶつかったんですよ。道重さんが卒業されたあとは子どもたちばかりという印象で、大人っぽい曲が似合わなくなったりして。その時期を一緒に乗り越えた人。で、フェスという外の大きい舞台に出るようになったときに、「頑張ろうね」って、一緒に乗り越えた人。私にとって譜久村さんはそういう存在なので、最後の横浜アリーナも、(今のメンバーにとって)2Daysという初めての経験を「また一緒に乗り越えましょうね」という気持ちで待っています。

――卒業の話はどのタイミングで知らされたのですか?

石田:具体的に“いつ”というのがないだけで、卒業への考えはお互い前々から話してはいました。それは卒業したいという話ではなく、10年活動しているキャリア的な意味で。なので改めて聞いたとき、驚きはしませんでした。寂しいなとは思いましたけど。

弓桁:私は1年前の譜久村さんの卒業発表があってから加入しているので、当時「え?」って驚いた分、今は冷静な気持ちです。いなくなってしまう不安はすごく大きいですけど、横浜アリーナに立つのは初めてですし、新しい曲もたくさん覚えないといけないので、卒業公演までにしっかりしないといけないという気持ちの方が大きいです。

井上:加入して、あっという間だなって…。やっぱり寂しいですけど、今の私は全然まだまだなので、緊張や自分に対する不安が大きすぎて実感が湧いていない感じです。

――譜久村さんと一緒にいた12年。石田さんが思う一番のモーニング娘。の変化はいつの時期ですか?

石田:15期(2019年、北川莉央15歳、岡村ほまれ14歳、山崎愛生13歳)の加入ですね。新メンバーが入ればいつの時期でも変化は起こりますけど、15期はすごく久しぶりの中学生で、特にほまれと愛生ちゃんは赤ちゃんみたいな印象だったんです。それがそのときのモーニング娘。には新鮮すぎました。グループの色が一気に明るく変わって、メンバーも年長者はお姉さん感が強くなって、年齢差のカラーがはっきりした。昔からあるモーニング娘。らしさを久しぶりに感じられた瞬間でしたね。

■2024年に向けて。それぞれの目標

――譜久村さんの卒業公演を迎えると、2023年ももうすぐ終わります。新しい目標があれば教えてください。

弓桁:9月のハロー!プロジェクト25周年記念コンサートが終わったあと、譜久村さんから「お客さんにチケットを買っていただいて公演をしているんだから、それに見合うプロとしての自覚を持って頑張ろう」というお話をいただきました。そう考えたら今のレベルでは全く足りていないので、グループのレベルを下げないためにももっとしっかり責任感を持って頑張りたいです。

井上:私もパフォーマンスレベルを上げて、早くグループに馴染めるように頑張ります。それと、好きなもの、趣味を発信していって、ファンの皆さんと共有できるものを作りたいです。

石田:私は13年目の目標ですね。“楽しむ”ということを大事にしたくて、今年1年は何か選択が迫られたとき、それは楽しいか楽しくないかで選択してきました。それを踏まえて、来年は“私の楽しい”を広げて、ファンの方々と共有して、「皆さんも楽しいでしょ、私も楽しいよ」という世界に広げていきたいです。

取材・文・撮影:鈴木康道

モーニング娘。'23の弓桁朱琴、石田亜佑美、井上春華(左から)/撮影:鈴木康道