朝井リョウによるベストセラー小説を岸善幸監督が映画化した『正欲』の公開記念舞台挨拶が11月11日TOHOシネマズ六本木ヒルズで開催され、稲垣吾郎新垣結衣、磯村勇斗、佐藤寛太、東野絢香、岸監督が登壇。11月1日に閉幕した第36回東京国際映画祭ではコンペティション部門に出品され、最優秀監督賞と観客賞のダブル受賞を果たした本作。ステージで、稲垣が岸監督にお祝いの花束を贈った。

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2009年に「桐島、部活やめるってよ」で第22回小説すばる新人賞、2013年「何者」では直木賞を受賞した朝井が、作家生活10周年で書き上げた渾身の一作を原作とする本作。家庭環境、性的指向、容姿など様々な背景を持つ人々の人生が、ある事件をきっかけに交差していく群像劇だ。登壇者陣は、上映後の会場から大きな拍手を浴びてステージに上がった。

キャストを代表して、稲垣は「おめでとうございます」と岸監督に花束をプレゼント。稲垣は「写真をいっぱい撮っていただこう思って」と花束を手にした岸監督の撮影を望み、記者陣に監督の存在をアピール。岸監督は「東京国際映画祭では、(審査委員長の)ヴィム・ヴェンダースさんをはじめ世界各地の映画に造形の深い方の審査を経て、選ばれました。台湾でのQ&Aでも感じたんですが、この映画は世界に通じるんじゃないかという感触をちょっとだけ感じています。もっと広がることを願っています」と世界の反響への喜びを吐露した。

稲垣は「自分のこと以上にうれしかった」と目尻を下げ、「その報せを聞いた時は、監督に一刻も早くおめでとうと伝えたいという気持ちだった」としみじみ。「監督と花束とのショットをもうちょっとだけ…。さっきの撮影が一瞬すぎた。せっかくなので僕と新垣さんの間に」と岸監督を祝いたい気持ちをあふれさせながら写真撮影の“おかわり”をし、和やかな笑顔で「監督、おめでとうございます!」と全員でフォトセッション。楽しい雰囲気いっぱいとなった会場からは、温かな拍手が送られていた。

劇中で稲垣は、検察官として横浜検察庁に務め、妻と息子と3人でマイホームに暮らす寺井啓喜役を演じた。いよいよ公開を迎え、稲垣は「とにかくキャストの方々の演技がすばらしくて。一人一人、大変な覚悟で撮影に臨んだ。岸監督をはじめ、スタッフの方にすばらしく仕上げていただいた。一人でも多くの方に届けたいという気持ちです」と感謝しきり。とある性的指向を持つ販売員の桐生夏月役を演じた新垣も「スタッフさん、キャストさんも一人一人が、この映画を作ることに対してすごく誠実に向き合っていることがすごく伝わってきた。私自身は苦しくもあり、温かくもあり、いろいろな気持ちにさせてもらった。こんなに豊かな映画に出演できたことが幸せ」と難役に挑みながらチーム一丸となって完成した映画に愛情を傾け、共演者たちについて「初めて(の共演)なのに、仲間という気持ちがある。なにかを分かち合った人という感じがしている」と語っていた。

稲垣演じる啓喜は、自身の正義を疑わない男性だ。稲垣は「僕のなかでも新しい挑戦だった」と切りだし、「啓喜は、だんだんと自分の心が崩れ始めて、正義がほころびはじめる。なるべく静かに、緩やかなグラデーションをつけて演じることができればと思っていました。新しいチャレンジとして楽しかったですね」と充実感もたっぷり。キャストそれぞれが新境地を切り開いている作品でもあり、稲垣は「ガッキーではない目の輝き、違った光り方をしていた」と新垣の新たな一面にも惚れ惚れとしていた。

岸監督はカット割りをせずに、撮影していたという。「感情に奥行きがあって、編集をしていても見入ってしまった」という岸監督は、「映画で見ていただいた表情は、そのシーンのなかのベストショットだと思っています」と力強くコメント。稲垣が「自分でも見たことのないような自分の顔とか、こんな表情をしていたんだと感じることがありましたよね」と打ち明けると、新垣も「(撮影中は自分が)どのように映っているかをまったく考えていなかった。こういう顔をしていたんだ…と思いました」と役柄に没頭するなかで、自分でも驚くような表情が出たと話した。

この日は中継が入っていたために、残り30秒で締めの挨拶をしなければいけないという難しいミッションを最後に与えられた稲垣だが、「30秒!?」と目を丸くしながらも、「人がなにかとつながること、つながった人間を愛すること。そのためにはまず自分自身を愛する大切さ。そういったものを肯定してもらえる、美しい映画だと思います。大切な作品なので、一人でも多くの方に観ていただきたい」とぴったり30秒でアピール。その後、新垣が急遽コメントを求められる場面もあったが、戸惑った新垣に助け船を出すなど、稲垣のサポートに新垣も「優しい…」と笑顔。新垣は「この映画の登場人物たちのような気持ちを抱えながら生きている人がいまも必ずどこかにいて、それがどういうことなのかと考え続けていきたいと思った。改めてそう思うきっかけをいただけたことに、すごく感謝しています。皆さんにとっても、なにかのきっかけになるような作品になればうれしいです」と心を込めていた。

取材・文/成田おり枝

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