規制が緩和されて、一定の条件を満たせば、免許もヘルメットもなしに乗ることのできる電動キックボード。LUUPなどのシェアサービスの利用も急速に進んでいる。

東京都内の路上では、私物やシェアサービスの電動キックボードに乗って通勤している人も見かけるが、気になるのは、ケガをした場合だ。

LUUPを作動させる際の操作に失敗して、転倒して膝を負傷したことのあるIT企業勤務のマホさんは、「ヘルメットもせずに、車の多い通勤時間帯を走行するのは危ないんじゃないか」と語っている。

もし、電動キックボードで通勤して、仕事ができなくなるほどの大怪我を負った場合、通勤災害として、労災保険給付の対象になるのだろうか。宍戸博幸弁護士に聞いた。

●通勤で労災がおりるための要件

どんな場合に労災はおりるのか。

「労災保険給付の対象になる、つまり、労災がおりるための条件が労災保険法で定められています。労災の対象となる類型はいくつかありますが、ここでは多くの皆さんに関係のある類型に限って解説します。

労災保険給付を受けるためには、①就業に関し、②住居と就業の場所との間の往復を③合理的な経路及び方法により行うこと、という要件をみたす必要があります。

①就業に関し、②住居と就業の場所との間の往復、とは仕事に行くために又は仕事を終えて自宅に帰るために、という意味です」

電動キックボードは「合理的な移動方法」と認められるか

今回のケースはどうか。

「今回問題になりうるのは、③合理的な経路及び方法により行うこと、という要件です。これは、合理的な理由がないにもかかわらず遠回りをして事故にあった場合や、通常用いることが想定されていない通勤・帰宅方法を労災の対象から外すという意味で設けられた要件です。

では、電動キックボードは合理的な方法といえるでしょうか。電動キックボード自転車や自動車に比べて利用数がまだまだ少なく、新しい移動手段であり、社会的な認識が形成されているとはいえません。そのため、合理的な移動方法と認められない可能性があります。

もっとも、自転車やマイカー通勤は一般的に合理的な方法と認められており、合理的な方法による往復と認められています。この点を考慮すれば、電動キックボードは、いわゆる原付に類似する移動方法であり、合理的な移動方法と認められる可能性は十分にあります。

電動キックボードでの通勤中に事故にあった場合、会社が労災として認めないという可能性があります。労災の申請には、会社の協力が必要です。会社内で電動キックボードの取り扱いについて定めていないところも多くあると予想されますので、労災の申請にあたり会社とモメてしまうリスクがあります。

ただし、労災の認定をするのは労働基準監督署ですので、会社が認めなくとも労働基準監督署にご自身で直接相談して申請をすることは可能です。労働基準監督署にご自身で直接申請する場合、時間や手間がかかるというデメリットはありますが、会社が認めてくれなくとも申請をすることができるという点は覚えておくとよいかもしれません。

ただし、労働基準監督署が合理的な移動方法であると認めてくれるかどうかは事案によりますので、ご不安な場合は弁護士に相談されるとよいでしょう」

●会社が禁止していた場合、処分に発展する可能性も

会社が電動キックボードでの通勤を就業規則などで禁止している場合、労災認定に影響するのか。

「就業規則などによる通勤方法の指定と労災認定は別の次元の話ですので、この場合にも労災の申請自体は可能です。ただし、会社が禁止する方法で通勤することが就業規則などに違反する以上、会社からの懲戒処分の対象になりうることは認識しておく必要があります。

1回の違反で直ちに解雇ということはあまり考えられませんが、違反が複数回続くようであれば重い処分を受ける可能性が高まりますのでご注意ください。

電動キックボードでの通勤はメリットも多くあります。しかし、労災と認められない、労災申請に手間がかかる、会社から処分を受けるといった複数のリスクが想定されます。電動キックボードで通勤されたいという場合、利用の前に、まずは会社の就業規則や通勤規程といったルールを確認し、メリット・デメリットをよく検討していただいてから、利用を開始していただければと思います」

【取材協力弁護士】
宍戸 博幸(ししど・ひろゆき)弁護士
債権回収・企業法務に特化し、年間の事件処理数(事務所ベース)は2000~3000件にも上る。法科大学院の講師として教鞭をふるうほか、休日には趣味の茶道を嗜む。
事務所名:弁護士法人黒川法律事務所
事務所URL:https://kurokawa-lawoffice.com/

電動キックボードで通勤中、転倒して大怪我したら…労災として認められる?