昨今、テレビや新聞で「医師不足」「看護師不足」「病院・病床不足」といったワードを見聞きした人は多いでしょう。しかし実際には「すべての医療資源が不足しているわけではない」と、小児科医の秋谷進氏はいいます。そこで今回、他の先進国と比べた日本医療の“いびつな現状”について、現役の医師である秋谷進氏が解説します。

日本は世界と比べて医師不足?

2023年のOECD(Organisation for Economic Co-operation and Development:経済協力開発機構)から発行された統計資料によると、日本の人口1,000人当たりの医師数は2.6人(2020年最新)となっています。これは、世界からみるとかなり少ない人数です。OECD諸国(全38カ国)のなかでは「下から3番目(第36位)」となっています。

日本の医師数は、2010年には人口1,000人当たり2.21人であったのが、2016年には2.43人、そして2020年に2.6人になっています。経時的な変化もみてみるとゆっくり増加傾向にありますが、世界的にはまだまだ少ないのが現状です。

さらに、厚生労働省の推計によれば、この医師数は2030年前後にはわずかに改善され、1,000人当たり3人程度になるとされていますが、まだOECD平均を下回る見込みであり、医師不足問題は継続することが予想されています。

医師は不足しているが…「看護師」はどうか?

では、看護師についてはどうなのでしょうか? 結論からいうと「看護師数は世界レベルから考えても多い」のが日本の特徴です。

2023年のOECDから発行された統計資料によると、日本の人口1,000人当たりの看護師数は12.1人(2020年最新)となっています。これはOECD各諸国と比べても上位6位に入っている高いレベルです。(全38カ国中)。

実は、上記の医師数が多い国と見比べるとよくわかりますが、オーストラリアスイスドイツなどは「医師数も多いが看護師数も多い」バランスのとれた国であるのに対して、日本は「医師数が少ないのにもかかわらず看護師数が多い」偏在化した国であることがわかります。

経時的な変化もみてみましょう。日本の看護師数は人口1,000人当たり2010年には10.11人だったのが、右肩上がりにあがって、2016年には11.34人、そして2020年には12.10人になっているので、看護師数も増加傾向にあります。

そのため、看護師については世界からみると「恵まれた国」といえそうです。

また、実は薬剤師に関しても日本はOECDのなかでトップとなっています。医師数は少ないものの、コメディカルと呼ばれる「医療関係者」には恵まれた国だったのです。

日本の病院数や病床数は「多すぎる」?

では、病院数や病床数についてもみていきましょう。

実は、日本は「病院数」も「病床数」もトップクラスに多いのが特徴です。

まずは病院数から。同資料の統計によると、2020年の日本の病院数は現在8,238施設です。これは、世界でみるとOECD諸国のうち第2位にランクインしています。

100万人あたりの病院数でみても、コロンビアと韓国についで第3位となっています。

さらに、病床数についてもみていきましょう。同資料の統計によると、2020年の日本の1地区あたりの病床数は「1,593,572」床。これはOECD諸国のなかでトップとなっています。

※中国は7,131,200床あるが、非OECD諸国

人口1,000人あたりの病床数でみると、日本は韓国についで第2位にあたります。非常に多いですよね。

このように、日本の病院や病床数は、世界トップクラスに多いのです。

見えてきた日本の医療の極端さと今後の課題

ここまでみていくと、日本の医療資源は極端に偏っていることがわかります。

看護師薬剤師などのコメディカルに恵まれ、病床数も病院数も多いのに、医師数が世界下位ランク。1人あたりの医師の負担が圧倒的に大きいのです。

さらに、医療資源が都市部に集中しており、地方では医師不足が盛んに叫ばれています。

負担が大きいので、医師の労働時間が長く、過重労働が常態化するのもある意味当然です。

とはいえ、すぐに医学部の定員を増やす、または海外からの医師の採用を促進したところで一朝一夕に医師が増えるわけではありません。

コロナを通して日本の医療の偏りと脆弱さが露呈されました。今後の医療のあり方の見直しが求められています。

秋谷 進

小児科医

(※写真はイメージです/PIXTA)