多くの金融資産を抱えて現役をリタイアすることができても、老後に破産するケースは決して少なくありません。なかには、当人たちだけの問題ではなく、家族の影響によって老後破産に陥ることも……。本記事では、元パチンコ店経営者の田村さん(仮名)の事例とともに、富裕層の意外な老後破産の原因についてFPの小川洋平氏が解説します。

バブル期に大繁盛した元パチンコ店経営者の「老後」

元パチンコ店の経営者であり、現役時代には1億円以上もする豪邸を建て、リタイア時には8,000万円を超える金融資産を持ち、誰もが羨むような余裕の老後を送るはずだった田村信夫さん(72歳仮名)ご夫婦。

地方にあるパチンコ店を経営し、当時の繁華街にあったパチンコ店はバブル期に大きな利益を手にしました。しかし、2000年代に入り大手チェーン店の進出によって競争が激化したことで収益は大きく減少し、それをきっかけに廃業しました。とはいえ、退職金を含めて8,000万円を超える金融資産を保有していたために、ゆとりの早期リタイア生活を送れるはずでした。

田村さん夫婦が抱える大きな問題

しかし、そんな理想とも思える老後を送るはずだった田村さんも、息子の健太さんの存在で不安な生活を送ってしまうことになるのでした。田村さんの息子、健太さんは幼いころから裕福な生活に慣れており、欲しいものはなんでも買い与えてもらっていたせいか、成長するにつれ自己コントロールができず、浪費癖が悪化していきました。

健太さんは20歳で、元妻であった仁美さんの妊娠を機に結婚しました。当時はまだ田村さんがパチンコ店を営んでおり、健太さんも会社の役員としてそれなりに収入を得ていましたが、パチンコ店を廃業したあとは就職しても長続きせず、職を転々としていたため、収入は大きく減っていました。

そんな状況にもかかわらず、ギャンブルに依存しキャバクラ通いを辞めることができませんでした。生活費も使い込み、消費者金融に多額の借金をしてしまい、田村さんに泣きついて返済してもらうこともありました。そんなことを続けているうちに、廃業したときには8,000万円あった金融資産も、72歳現在では2,000万円程にまで減ってしまいます。

そして、健太さんが不倫を繰り返していたことが仁美さんに知られてしまい、さらには500万円もの借金をしていたことが発覚します。定職に就かず、家計にもほとんどお金を入れず、不倫までしていた健太さんとの結婚生活に限界を感じた仁美さんは離婚を切り出し、健太さんは3人の子供達とは離れることになりました。

健太さんは不倫の慰謝料300万円と、子供たち3人分の養育費を月々8万円支払うことになりましたが、収入の低い健太さんには多額の慰謝料と養育費を払うことなどできません。健太さんが抱えていた借金も、ろくでなしの息子を育てた責任と思い、田村さんが仕方なく払うことにしました。

田村さん夫妻は公的年金で約25万円を受け取っていましたが、健太さんの慰謝料と借金を肩代わりしたことで800万円もの資産が減ってしまい、さらに養育費として毎月8万円の支払いを負担しなければならなくなりました。

両親は豪邸を手離し、息子は闘病生活へ

健太さんの浪費癖には度々悩まされてきた田村さん夫妻でしたが、廃業時にはゆとりがあったはずの金融資産も1,000万円程度しか残らなくなり、いよいよ限界を迎えました。100坪近くの豪邸を維持することも負担となっていたため、手離して賃貸住宅に引っ越すことになったのでした。

そして、ようやく健太さんにこれ以上の支援はできないことを伝え、働いて自立して生活していくように話をしました。

しかし、長年定職に就かずにいた健太さんがすぐに定職に就いて長く働くことは難しく、田村さんの知人が経営する建設業に頼み込んで働かせてもらうも度々遅刻、無断欠勤を繰り返し離職……。時間を空けて別のアルバイトを始めますが、結局いままでと同じことを繰り返していました。離婚をきっかけに控えていたギャンブル、キャバクラ通いも少しずつ戻り始め、またも消費者金融から借入をしてしまいます。

さらに、そんななかで健太さんは前立腺がんを患い、手術し前立腺を摘出したものの抗がん剤治療の副作用のため体調不良で出勤できない日が増えてしまい、消費者金融の借金を抱えながら収入が減ってしまうという状況に陥ってしまったのでした。健太さんの自立のために突き放した対応をしていた田村さん夫妻も、さすがにこの状況を放ってはおけず、健太さんを引き取り闘病生活を支えることにしたのでした。

そして、仁美さんには状況を説明して養育費の支払いの減額を頼んでいますが、子供達3人を抱える仁美さんは納得しません。日々減り続けていく預金の不安と健太さんの不安を抱えながら生活しているのでした。

田村家の問題点

1.子供のころにつけてしまった浪費癖

今回の田村さんの問題点は、息子である健太さんの浪費癖を許してしまっていたことにあります。子供のころから欲しいものを買い与えているとお金を管理する感覚が育たずに欲しいものを我慢する、欲求を自制できない人間に育ちやすくなってしまいます。健太さんが結婚している身でありながら、キャバクラ通いや不倫をやめることができなかったことも、幼少期のころからの癖が大きく影響していると考えられます。

2.大人になってからの借金の肩代わり

そして、大人になってからも田村さんがことあるごとに健太さんの借金の後始末をしてしまったことも問題です。仮に浪費癖が原因で大きな借金を作っても、どうやってそれを返済すればいいのかを自分で考えて行動しなければなりません。仮に自己破産することになったとしても、それもひとつの経験です。

失敗してもその辛い経験を教訓に、二度と同じことを繰り返さないようにしようと学ぶことも大事なことです。そこで親が手を差し伸べてしまうと、失敗から学ぶことが少なく、また同じことを繰り返してしまいやすいのです。

支出に優先順位をつけ、限られた収入の範囲で生活していくこともとても大切なことです。支出のコントロールができない、衝動を抑えることができないとお金のことで失敗してしまうだけでなく対人関係や職場、ビジネスにおいても失敗してしまいがちです。

経済的にゆとりがあるとついつい支出も多くなりがちですが、いざ収入が減ってしまった場合などにも支出をコントロールすることができず、家計を破綻させてしまうケースもあります。そのため、お金に余裕があっても早い段階でしっかりお金と向き合い、お金の優先順位をつけること、管理することの大切さを知ってもらうことが必要なのです。

お金の出入りを見える化する重要性

今回の田村さんのように、裕福な生活を送っていても子供の浪費癖、幼少期からお金の管理を教えてこなかったことにより経済的な不安を抱える家庭もあります。家計においても事業においても、多重債務に陥ったり経営破綻の危機となったりするケースの多くが、お金の出入りを見える化ができていないという状況があります。

田村さんのケースでも、早期に息子である健太さんに浪費癖を把握し、適切な対処ができていれば問題が大きくなる前に適切な対処をすることができた可能性があります。しかし、なにが問題なのか状況を理解できず、自分でなにをしたらいいかを考えることができなかったために、事態が悪化してしまったのでしょう。

いかに経済的に余裕があっても、幼少期からお金の管理を教えること、支出をコントロールすることを習慣づけることが大切で、それがお金に困らずに幸せに生活していくことに繋がるのです。

小川 洋平

FP相談ねっと

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(※写真はイメージです/PIXTA)