糖尿病の治療薬である「GLP-1受容体作動薬」がダイエット目的で使用されており、本当に必要な患者に届かないとして、日本医師会が10月25日に不適切な使用をやめるよう、呼び掛けました。この薬が“やせ薬”として使われていることについて、SNS上では「危ない」「重篤な副作用が起きる可能性がある」「健康な人には副作用しかない」などの声が上がっています。

 そもそも、「GLP-1受容体作動薬」とは、どのような薬なのでしょうか。この薬が安易に使われることで、糖尿病の治療にどのような影響が出ているのでしょうか。薬がダイエット目的で使われる原因などについて、内科医・糖尿病専門医の市原由美江さんに聞きました。

食欲を抑える効果

Q.そもそも、「GLP-1受容体作動薬」とは、どのような薬なのでしょうか。

市原さん「GLP-1受容体作動薬は、インスリンの分泌を促して血糖値を下げる薬です。空腹時には働かず、食事で血糖値が高くなったときにだけ働くため、低血糖を起こさずに血糖値を下げることが可能です。内服薬と注射の製剤があり、2型糖尿病患者に対して、保険が適用されます。

この薬には、インスリンを分泌する膵臓(すいぞう)ベータ細胞のほか、心血管を保護する働きがあります。また、血糖値を上げるグルカゴンの分泌を抑制するなど、複数の効果があります。糖尿病患者にとって大変有益な薬で、効果も非常に高いのが特徴です」

Q.「GLP-1受容体作動薬」をダイエット目的で使用する人が増えているようですが、どのような原因が考えられるのでしょうか。この薬は簡単に手に入るものなのでしょうか。

市原さん「GLP-1受容体作動薬は、胃腸の動きを弱めて満腹感を持続させる働きのほか、脳に作用して食欲を抑制する働きがあります。また、服用後に脂肪燃焼効果を発揮するため、結果的に体重が減ります。この薬がダイエット目的で使用されているのは、特に、食後の脳のような錯覚を起こすことで食への興味が極端に減り、強い減量効果が得られるのが原因だと考えられます。

GLP-1受容体作動薬を2型糖尿病の治療薬として使用する場合、医師による処方箋が必要で、自由診療で使う場合は、医療機関から購入する形になります。最近は、一部の美容クリニックなどがダイエット目的で安易にこの薬を処方するため、品薄となり、糖尿病の治療に影響が出ています」

Q.GLP-1受容体作動薬がダイエット目的で使われることについて、SNS上では副作用の危険性を指摘する声が上がっています。この件については、どのように感じていますか。

市原さん「私が声を大にして言いたいのは、糖尿病であっても健康であっても、GLP-1受容体作動薬を服用後に出現する可能性のある副作用の症状や頻度に変わりはありません。

副作用として挙げられるのは、胸焼けや便秘、下痢などの消化器症状です。ただし、糖尿病専門医によって適切な容量調整や副作用の説明が十分に行われれば、大きな問題になることはまれです。もしこれらの症状が起きたとしても1週間程度で改善することがほとんどです。

GLP-1受容体作動薬の使用経験が浅い医師が、ダイエット目的で患者に安易に処方すれば、副作用が出やすいのは当たり前です。私が一番言いたいのは、使用経験が十分にある糖尿病専門医が治療として使うからこそ効果が発揮されるため、GLP-1受容体作動薬には大きな副作用はないのです。

せっかくGLP-1受容体作動薬の使用により、血糖値が安定する人が多いにもかかわらず、安易に薬を処方する医師や、ダイエット目的で薬を使う人の影響で『健康な人がGLP-1受容体作動薬を使用すると、健康を害する』という内容のニュースが報じられています。そのため、服用している糖尿病患者が不安になるようなコメントがネット上で散見されます」

Q.現在、GLP-1受容体作動薬は手に入りにくい状況なのでしょうか。

市原さん「薬の種類によって、異なります。『リベルサス』(一般名:セマグルチド)は2023年11月現在、通常通り流通しています。また、『オゼンピック』(一般名:セマグルチド)は、一時的に品薄になる可能性があったため、処方制限がありましたが、近々通常出荷に戻る予定です。

現在、入手が困難なのは、2023年4月に発売された『マンジャロ』(一般名:チルゼパチド)で、通常流通の見込みがないようです。そのため、服用している患者が薬を入手するのに、通常よりも数週間多くかかるなど、治療に支障が出ています」

オトナンサー編集部

糖尿病の治療薬がダイエット目的で使用され、問題に(写真はイメージ)