「債券投資」は比較的リスクが低いといわれますが、価格変動のリスクはあります。特に「市場金利」と「債券価格」の関係を理解しておかないと、思わぬ損失をこうむることになりかねません。日銀で景気動向調査、金融業務、決済システムの開発に携わった経験をもつCFP・小松英二氏の著書『はじめての金利×物価×為替の教科書』(ビジネス教育出版社)から、一部抜粋して紹介します。
債券投資をするなら知っておくべき「市場金利」と「債券価格」の関係
債券には、知っておきたいリスクの一つとして「金利変動リスク」があります。
市場金利(世の中の金利)が変動すると、債券価格も変動します。金利と債券価格は裏表なので、「価格変動リスク」とも表現することができます。
債券投資においてキャピタルゲインを得たい時は、市場金利と債券価格の関係を理解することが大事です。一般に「市場金利が上昇すると債券価格は低下する」、反対に「市場金利が低下すると債券価格は上昇する」ことをしっかりと押さえておきましょう。
【市場金利と債券価格は反対方向に動く】
・市場金利の上昇⇒債券価格の低下
・市場金利の低下⇒債券価格の上昇
なぜこのような関係となるかを数値例で説明します。[図表1]をご覧ください。
市場金利が何らかの理由で2%から3%に上昇したとします。すでに発行されている利率2%の債券(残存期間5年、債券価格99円とする)は年2%の利子を得られます。
しかし、5年物の新発債の利率は、市場金利の上昇を受けて3%の方向に上昇するでしょう。そうすると新規の投資家は、利率2%の既発債を買うよりも利率の上昇した新発債を買ったほうが有利と考えるので、利率2%の既発債の購入を避けます。
既発債の人気(需要)は落ち、債券価格は99円よりも下がります。既発債を保有している投資家は、利子が低い分を償還差益で補えるところまで価格を下げて売るしかありません。
反対に市場金利が2%から1%に低下したとします。新たに発行される5年債の利率は、市場金利の低下を受けて1%の方向に低下するでしょう。そうすると利率2%の既発債の人気(需要)は高まり、債券価格は99円よりも上がります。
既発債を保有している投資家は、値上がりした価格で売ることができます。新規の投資家は、新発債の購入を避け、既発債の購入に向かう可能性が高まります。
「償還までの期間」が長いほど債券価格は大きく変動する
市場金利の変動による「債券価格の変動度合い」は、以下の要因により異なります。
・債券の「残存期間」(償還までの期間)
・債券の「表面利率」
以下、残存期間、表面利率の順に詳しく説明します。
◆「残存期間」が長ければ債券価格の変動幅が大きい
まず残存期間と債券価格の関係を説明します。
ポイントをまとめると、残存期間が長いほど、債券価格の変動(ボラティリティー)は大きくなります。なぜなら、5年、10年さらに20年と残存期間が長くなると、市場金利の変動のほかにも、景気、インフレ、災害、戦争などのリスクの発生も想定されるためです。
反対に、残存期間が短いほど、債券価格の変動は小さくなります。
詳しく解説しましょう。市場金利の変化に注目すると、残存期間が長い債券ほど市場金利が変化した時の債券価格の変動は大きくなります。逆に、残存期間が短い債券ほど市場金利が変化した時の債券価格の変動は小さくなります。
市場金利が変化した時の債券価格の変動度合いとして、「修正デュレーション」という専門用語が使われています。修正デュレーションは、「市場金利の変化に対する、その債券の価格変化率」と定義され、残存期間が長いほど大きい数値となります。
そして、修正デュレーションが大きい債券ほど、市場金利に対する債券価格の変動度合い(金利感応度)が高くなります([図表2])。
【修正デュレーションが大きい債券】
・市場金利の上昇⇒債券価格が大幅に低下する
・市場金利の低下⇒債券価格が大幅に上昇する
【修正デュレーションが小さい債券】
・市場金利の上昇⇒債券価格が小幅に低下する
・市場金利の低下⇒債券価格が小幅に上昇する
理論的には、たとえば債券の修正デュレーションが「5」とすると、1%の市場金利上昇に対して債券価格は5%低下する、修正デュレーションが「10」とすると、1%の市場金利上昇に対して債券価格は10%低下すると考えられます。
さらに細かくなりますが、修正デュレーションの算出に用いる「残存期間」は、元本の回収までの残存期間だけでなく毎回の「利子受取り」(投資家からみると「回収」に相当)までの残存期間も考慮します。
元本と利子は金額がまったく違い、投資家が回収する残存期間も元本と毎回の利子で違ってきます。修正デュレーションの算出においては、これらの違いを織り込んだ複雑な計算が行われます。
個人が投資できる債券型ファンド(債券型投資信託)は、修正デュレーションをリスク管理における重要な指標としています。債券型ファンドには、組み入れた多数の債券の「平均残存期間」により算出した修正デュレーションが示されています。
原則的に「平均年限が長いポートフォリオを持つ債券型ファンドはハイリスク・ハイリターン」であるといえます。債券型ファンドの運用報告書や目論見書などに、修正デュレーションが示されています。
◆「表面利率」も債券価格に影響を与える
次に、表面利率と債券価格との関係を説明します。
ポイントをまとめると、表面利率が低いほど債券価格の変動は大きくなります。反対に、表面利率が高いほど債券価格の変動は小さくなります。
理解の鍵は、「表面利率」と「修正デュレーション」の関係にあります。前述のように、修正デュレーションを計算する際に用いる「残存期間」は、元本の回収までの残存期間だけでなく、毎回の利子受取りまでの残存期間も考慮します。
もしも他の条件が同じなら、表面利率が高い債券のほうが元本・利子を早めに回収できますので、修正デュレーションは小さくなります。反対に表面利率が低い債券のほうが元本・利子の回収が遅れますので、修正デュレーションは大きくなります。
【表面利率が高い債券】
・市場金利の上昇⇒債券価格が小幅に低下する
・市場金利の低下⇒債券価格が小幅に上昇する
【表面利率が低い債券】
・市場金利の上昇⇒債券価格が大幅に低下する
・市場金利の低下⇒債券価格が大幅に上昇する
表面利率のない債券(ゼロクーポン)である割引債は、市場金利の変化に対する債券価格の変動がとても大きいといった特性が浮き彫りとなります。
債券の価格変動に関する特性を指摘してきましたが、最後に、債券投資において、金利上昇局面と金利低下局面のそれぞれで、どのようなスタンスをとればいいのか整理しておきましょう。投資効率を高めたいのであれば、金利上昇が予想される時は「長期債売り・短期債買い」が、反対に金利低下が予想される時は「短期債売り・長期債買い」が基本となります([図表3])。
小松 英二
CFP® FP事務所・ゴールデンエイジ総研
代表・経済アナリスト
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